酷暑お見舞い申し上げます。
気温が35度とか聞いても驚かない自分に驚きます。私が子供の頃は30度というと暑いねえという感じだったような気がするのですがこれがノスタルジーと言う物でしょうか。ノスタルジーと言えば東京在住の私の記憶では幼い頃の夏休みにつきものだったのが、遠くから聞こえる“こちらは・・・区役所です。こうかがくスモッグ注意報が発令されました。”という公共の放送でした。
現在夏期休暇をいただいておりますが、久しぶりに昼間自宅にいたところ遠くから懐かしいとも感じる放送が。しばらく光化学スモッグ注意報などというものを忘れておりましたが現代でもあるんですね。
今回のポストでは夏真っ盛りのこの季節に光化学スモッグについて少しおさらいしておきたいと思います。
光化学スモッグというのは当時全く分かりませんでしたが、小学校の先生からは光化学スモッグ注意報が出たときはグラウンドで遊ぶのを制限された気がします。多かれ少なかれ危険があるものであることは推測できましたが、それが光化学という漢字であることは知りませんでした。
スモッグというのはもやもやしたものというイメージを持っていましたが、光化学というのは小学生では想像が少し難しいですね。
前回のポストでも触れましたが化学反応において光が介在するものは少なくありません。フリーラジカルと呼ばれる化学種が反応の中間体として発生し、次々に反応が進行する連鎖反応が起こる場合があります。特に地球は太陽からの猛烈な紫外線に常にさらされているので、大気中にある物質は光化学反応を起こす条件が整っています。
その一つが酸素分子の光化学反応によってオゾンが発生するというものです。そしてこのオゾンが薄い層を形成していわゆるオゾン層となり、そのオゾンが地球表面にいる我々生物たちを有害な紫外線から守ってくれているということはよく知られていると思います。
このように、光化学反応は大気中で常に起こっているのですが、生物にとってありがたくない光化学反応も起こります。大気中にある窒素酸化物や、揮発性有機化合物(VOC)が分解し、オゾンやペルオキシアシルナイトレートが発生し、それらと硝酸塩や硫酸塩の固体微粒子の混合物が形成され、視界が妨げられるような状態になったものが光化学スモッグの正体です。この時オゾンやペルオキシアシルナイトレートのことを光化学オキシダント(オキシダントは酸化剤の意)といいます。(ちなみにペルオキシアシルナイトレートはperoxyacyl nitrateですからナイトレートはニトレートと読むべきですね。化合物の読みについてはこちら)。
オゾン(左)、ペルオキシアシルナイトレート(右)Rは様々なアルキル鎖
太古から地球には窒素酸化物や揮発性有機化合物は存在していたので、光化学スモッグが発生するための材料は揃っていましたが、地球上で初めて光化学スモッグが観測されたのは1940年代の米国とされています。そうなんです。この光化学スモッグの原因物質は人為的に排出されたものが大きな位置を占めています。
光化学スモッグの発生条件は、
1,光化学オキシダントの原因となる物質濃度が高いこと
2,日中の気温が25度以上と高いこと
3,晴れ、もしくは薄曇りで日光があること
4,風があまり強くないこと
となっており、光化学オキシダント濃度を高めるような物質の人為的排出が活発になった戦中、戦後から主に夏場に頻発するようになりました。
我が国でも1970年代をピークとして夏の悪しき風物詩になっておりましたが、自動車や工場からの排気中の大気汚染物質濃度の規制により徐々に減少していました。しかし1980年代中頃には減少の底を打ってしまい現在では小康状態となっています。
現在では西日本や日本海側で比較的高濃度の光化学オキシダントが観測されることがあり、国外からの越境汚染の問題もあるようです。
健康への被害としては目や喉の異常、重傷になると呼吸や意識障害、めまいや頭痛などを引き起こしますので要注意です。我が国では1970年7月18日に都内の学校で数十人の生徒が光化学スモッグの影響で変調をきたしたという事件がありました。この事件にちなんで7月18日は「光化学スモッグの日」と定められています。
光化学スモッグ注意報は1時間の光化学オキシダントが0.12 ppmを超えると発令されます。注意報より警報が、さらに高濃度の0.40 ppmの光化学オキシダントが観測された場合は重大緊急時警報というのが発令される場合があります。
光化学スモッグ注意報などが発令された場合は屋外で激しい運動を控えることや、なるべくなら窓を閉めて屋内にとどまるようにすることが望ましいです。
公共の放送以外でも環境省大気汚染物質広域監視システム通称そらまめ君というHPがありますのでそちらを参照すると詳しい情報も掲載されていますのでぜひ覗いてみてください。
いずれにしても大気汚染は我が国だけの問題ではありませんので地球規模での対策が求められます。現状ではなかなか光化学オキシダントの大気中濃度を下げることも、気温を下げることも難しいと思われますので、光化学スモッグ発生の危険性を下げることは現実的にはできません。気温が高く、風が弱いなあと思ったら心のどこかに光化学スモッグのことを思い出して注意しましょう。
まだまだ暑い熱い夏休みですがみなさん元気でお過ごしください!
参考サイト
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