3Dプリンタとシェールガスとポリ乳酸。
3Dプリンタは新時代のものづくりに使われ、シェールガスは次世代のエネルギー源と期待され、ポリ乳酸は環境に優しいプラスチックとして普及しています。一見無関係に見える三者ですが、実は3Dプリンタにもシェールガスにもポリ乳酸が活用されています。今回は、そんな次世代技術と高分子の意外な関係をご紹介します。
3Dプリンタとポリ乳酸
3Dプリンタは、先日ケムステでもご紹介したように、新しいモノづくりとして広まりつつあります。この3Dプリンタの「インク」にあたる樹脂には、一般的ににポリ乳酸やABS樹脂が使用されています。ポリ乳酸は透明性が高く、機械的強度もそこそこな上に融点が170℃程度で扱いやすいために採用されているのでしょう。
3Dプリンタを適用できるのはプラスチックだけではありません。細胞やナノ粒子から「耳」が製作されていますし[1]、山形大学ではゲルの利用が研究され[2]、材料としてだけでなく食品への展開も検討されています。さらに、液体金属[3]や水滴(しかも自発的に動く)[4]など新素材を3Dプリンタで活用する試みも始まっています(図2)。ポリ乳酸は生体適合性を有するので、これらの比較的柔らかい新素材と組み合わせることで、医療用途などまだまだ用途が広がるものと期待されます。未来のものづくり、今から楽しみです。
図1. (左上から時計回りに)3Dプリンタで作成された耳・ゲル・液滴・液体金属(図は各論文から引用)
シェールガスとポリ乳酸
シェールガスについても過去にケムステで取り上げられています。主成分がメタンですが、化学各社ではアクリロニトリルやポリエチレンなど、高分子を低コストで生産する取り組みが始まっています。触媒などシェールガスに付加価値をつける化学は興味深いのですがまたそれは別の機会に。
実は、「シェールガスを生産するために」も様々なプラスチックが利用されています。ここでも、ポリ乳酸など生分解性高分子の利用が増加しています。シェールガス生産時には貯留層である岩石を破砕しますが、この時生じた亀裂を固定するために亀裂内に流し込む固形物(プロパント)として、ポリ乳酸が利用されています(図2)。
ではなぜポリ乳酸なのか。シェールガス採掘時に用いる薬品が周囲の環境を汚染してしまうことが問題となっていますが、ポリ乳酸は先述のように生分解性を有するために環境汚染につながりにくいために利用されています。油田サービスの世界最大手である米シュルンベルジェ社が使用するポリ乳酸は年4000トンとも言われています(!)[5]。石油・ガス産業のスケールの大きさを感じる話です。
図2. プロパントが岩の亀裂を固定しガスを取り出しやすくする[6]
また、ポリ乳酸以上に機械的強度や分解性に優れるポリグリコール酸など、様々な生分解性高分子がプロパントとして利用され始めています。プロパントだけでなく、採掘機具への応用など、シェールガス生産において生分解性高分子の利用が拡大しています。日本ではシェールガスの生産は期待できませんが、日本の化学・材料メーカーの高分子が活躍しています(ポリ乳酸は主に海外メーカーが生産)。
繰り返しになりますが、シェールガス生産に伴う環境汚染が問題となっていますが、環境に優しいポリ乳酸のような高分子の利用が拡大することで環境に優しいエネルギー生産に繋がってほしいと切に思います。
参考文献・ウエブサイト
- Mannoor, M. S.; Jiang, Z.; James, T.; Kong, Y. L.; Malatesta, K. A.; Soboyejo, Q. O.; Verma, N.; Gracias, D. H.; McAlpine, M. C.* Nano Lett. 2013, 13, 2634-2639. doi: 10.1021/nl4007744
- Muroi, H.; Hidema, R.; Gong, J.; Furukawa, H.* J. Solid Mech. Mater. Eng. 2013, 7, 163-168. doi: 10.1299/jmmp.7.163
- Ladd, C.; So, J-H.; Muth, J.; Dickey, M. D. Adv. Mater. 2013, ASAP. doi: 10.1002/adma.201301400
- Villar, G.; Graham, A. D.; Bayley, H. Science 2013, 340, 48-52. doi: 10.1126/science.1229495
- 化学日報工業, 2012年9月5日 リンク
- http://thorsoil.com/main.html