化学小説で大活躍中の喜多喜久氏。これまでもケムステでは彼の執筆活動を応援する目的ですべての書籍を紹介しています。この度、新たな化学を題材にした短篇集を出版予定であるということで、新書籍のPRを喜多氏自身にお願いさせていただきました!
「化学者のつぶやき」をご覧の皆様。ご無沙汰しております。喜多喜久です。
新作発売のお知らせのために、懲りずに再び舞い戻ってまいりました。
第五作目となる今作のタイトルは「化学探偵Mr.キュリー 」です。(中央公論新社・7/25刊行)
初めての短編集で、これまた初の書き下ろし文庫での登場となります。さらに電子版も出るそうで、非常にアクセスしやすい一冊となっております。
以下、物語の設定と各話のあらすじをざっくり紹介したいと思います。
主人公、七瀬舞衣(ななせ まい)はとある地方都市にある四宮(しのみや)大学の新人事務員。庶務課で働く彼女の元に、キャンパス内で起こるトラブルが次から次へと持ち込まれる。
その解決に尽力する中で、舞衣は理学部化学科の准教授、沖野春彦(おきの はるひこ)と出会う。沖野の祖父はフランス人で、その苗字が「キュリー」だったことから、「Mr.キュリー」というアダ名で呼ばれている。
(注 キュリー夫人ことマリー・キュリーとも、その夫のピエール・キュリーとも血の繋がりはありません)
最初は舞衣を鬱陶しがっていた沖野だが、舞衣の熱意と好奇心に押し切られるように、彼女と協力して事件に挑むようになる……。
(第一話)化学探偵と埋蔵金の暗号
四月。大学内で何者かが無許可で穴を掘りまくる、という事件が起こる。上司から「事件を担当せよ」と言い渡された舞衣は、再発防止策を立てるべく、モラル向上委員の沖野の元に向かう。
二人で調査を続けるうち、掘られた穴の中に暗号らしきメモが落ちていたことが明らかになり……。
(第二話)化学探偵と奇跡の治療法
ある日、大学の事務室に舞衣あての電話がかかってくる。電話の相手は叔父の七瀬恵一で、金を貸してくれと頼まれる。事情を聞くと、恵一の妻の仁美が乳がんにかかっており、「ホメオパシー」による治療を受けるために、多額の治療費が必要なのだという。聞き慣れない治療法の情報を得るべく、舞衣は沖野に相談することに。
(第三話)化学探偵と人体発火の秘密
大学内で行われた懇親会で、大物教授、松宮の頭部が燃え上がるという事件が起きる。発火の原因はテーブルに置かれていたキャンドルだと思われたが、燃え上がった瞬間を撮影した動画を見ると、火元と松宮の頭部には数十センチの距離があったことが分かる。人体発火の謎を探るべく、舞衣は沖野に話を聞きに行く。
(第四話)化学探偵と悩める恋人たち
メンタルヘルスケア担当に就任した舞衣。業務内容は、学生の悩みを聞き、親身になって対応することである。
仕事を引き受けた当日に現れた最初の相談者から、「恋人との同棲生活がうまくいっていない」と打ち明けられる。細かく話を聞くうち、同棲相手の女性が、沖野の研究室に所属していることが明らかになり……。
(第五話)化学探偵と冤罪の顛末
舞衣の高校時代の友人で、今はアイドル歌手として活躍する美間坂(みまさか)剣也。サインを貰ってくれと
上司に頼まれた舞衣は、剣也に連絡を取るが、どうも様子がおかしい。詳しく訊いてみると、女性への暴行の
疑いを掛けられ、脅迫されているのだという。しかも、脅迫しているのは四宮大学の学生で……。
このように、なかなかバリエーション豊富な五話構成になっており、いずれの事件でも、「化学」が解決の糸口になっています。沖野は化学の専門家として、事件を解決に導く役目を果たします。
せっかくですので、第一話に登場する暗号をこの場で紹介しておきましょう。
〈埋蔵金の在り処 正門=109、ホームベース=22〉
興味のある方は解き方を考えてみてくださいね。ちなみに、非常にシンプルな暗号です。
いきなり文庫という形式もさることながら、今作にはこれまでの四作とは違い、ファンタジー要素が一切ありません。さらに、全編三人称で書かれていることもあり、読み味もずいぶん異なったものに仕上がっています。
かるく読める一冊ではありますが、今後の作家人生で、このシリーズだけを書くことになったとしても、何ら後悔しない—-それくらいの意気込みで書きました。気持ちを込めたから売れるというわけではないですが、自分なりのベストは尽くせたかと思います。
化学ネタでどこまで行けるかは分かりませんが、舞衣と沖野の活躍をもっと見たい、と作者の僕自身も感じています。続きが出るかどうかは売れ行き次第。どうぞ皆様、よろしくお願いいたします!