[スポンサーリンク]

一般的な話題

もし新元素に命名することになったら

[スポンサーリンク]

 

理化学研究所が113番元素の合成に成功した(森田浩介グループ)との報告がなされ、命名権が与えられる事はほぼ確実と思われます。ジャポニウム(Jp)?ニッポニウム(Nn)?それともリケニウム(Rk)?、大穴でニシニウム(Ns)でしょうか。
個人的にはJが付く元素が無いのでジャポニウム推しです。いずれにしても我が国初の命名がなされる元素なので、今からワクワクしています。

 

さて、そんな元素の名前ですがなぜかみんな?ウムで終わってますよね。周期表眺めてみると、この?ウムという名前の元素がすごく多いことに気づきます。その大部分は金属元素であることにも気づくでしょう。そうなんです。一応元素命名にはある程度の法則性があるんですね。という訳で今回のポストではNature Chemistry誌に掲載されていたStockholm大学のBrett F. Thornton博士及び、Worcester Polytechnic InstituteのShawn C. Burdette博士によるthesisを基に、元素に命名する際の注意点をまとめてみました。前回はこちら

 

The ends of elements

Thornton, B. F. and Burdette, S. C. Nature Chem. 5, 350-352 (2013). Doi: 10.1038/nchem.1610

 

まず、上述の金属ですが、接尾語として-iumを使いましょう。まれに読み方の問題で-umを使ってもいいことにします。おやおや?ルールに従わないアウトローがいくつかいますね。下の図の周期表で茶色になっている元素たちです。などは元素の概念が成立する前の錬金術の時代からすでに名前だけは付けられていたので、仕方なくその名前を保存しています。そもそも金属元素に-iumを使うようになったのはラテン語で鉄(ferrum)、金(aurum)、銀(argentum)、などからきているようです。-umではなく-iumになったのはどうしてなのかは定かではありません。

 

ちなみによくスペルが混乱するアルミニウムですが、英国Humpherey Davyは1813年にaluminiumは古くさいからaluminumがいいんじゃない?と提案したものの世界的には認められませんでした。でも米国ではaluminumが広く用いられており、英国と米国でなんだか事情が複雑です。

new_elements_1

 

図は論文より引用

図を見ると一個だけ島になっている元素がありますね。そうタングステン(tungsten)です。タングステンの名前の由来はこちらでも紹介しましたが、スウェーデン語の重い石からとっています。本来はtungsteniumとすべきでしたね。
そうかと思うと金属でないのに-iumで終わる元素が二つありますね。そうですセレン(selenium)とヘリウム(helium)です。セレンは1817年にBerzeliusによって硫酸の製造の際の副生成物から得られました。その外見から金属であると誤認されたようです。実際は金属ではありませんので、selenで止めても良かったです。
Every metallic element discovered in the past 220 years has been given either an -ium or, less frequently, an -um suffix.

ヘリウムは1860年代に太陽の観測データから存在が確認された元素で、全くその他の情報が無い時点で金属と推測されてしまいました。本来はhelionとすべきでした。なぜなら希ガス元素の接尾語は-onだからです(argon, neon, krypton, xenon)。実際helionに訂正すべきとの主張もあったようですが、残念ながら受け入れられませんでした。

緑で表されている三つの元素、炭素(carbon)、ホウ素(boron)、ケイ素(silicon)も-onの接尾語っぽいです。しかしこれは接尾語というより、既にcarbonがあってホウ素、ケイ素は炭素に似ているということから付けられた名前です。実際、1809年にDavyはホウ素をboraciumといったん付けますが1814年に訂正しています。またBerzeliusは1823年にケイ素にsiliciumと名付けましたが、1823年にThomsonによってケイ素は非金属と指摘されて修正がなされています。

水素(hydrogen)、窒素(nitrogen)、酸素(oxygen)の接尾語-genはラテン語の素(もと)を表すgennenから来ています。水を生じるものだからhydrogenとかなので、硫黄とかリンとかも-genになっていてもおかしくなかったですが、むしろ単体の方が先に見つかってしまっていたのでしょう。

一方完璧なのはハロゲンです。全て-ineの接尾語で統一されています(fluorine, chlorine, bromine, iodine, astatine)。優等生ですね!
さて、例外はあるにせよ、元素の命名にはある程度のルールがあることがお分かりいただけたでしょうか?その上で図を再度ご覧ください。113, 115, 117, 118番元素がまだ埋まっていませんね。113番元素の命名権はおそらく理研で決まりとして、気になるのは117番118番です。この二つにはそれぞれ暫定的にununseptinium, ununoctiniumと名前が付けられています。
これは原子番号三桁の数字をそれぞれ1だったらun、2だったらbiなどと置き換えて最後に-iumを付けましょうというルールに従って付けられたものです。
しかし、これらは周期表の順番ではそれぞれハロゲン(17族)希ガス(18族)に属するはずです。正しくはununseptine, ununoctonではないでしょうか?
新元素の命名権は最初の発見者に与えられるので基本的には自由ですが、ぜひともこの基本的なルールに従って命名していただければと思います。

さてこれであなたも新元素の発見者になったときには命名に困らなくなっていただけたと思います。ぜひともチャレンジして下さい!170から180番くらいまでは存在するかもしれないそうなので、チャンスはまだまだ残されています。

 

関連書籍

[amazonjs asin=”4797362502″ locale=”JP” title=”マンガでわかる元素118 元素の発見者から意外な歴史、最先端の応用テクノロジーまで (サイエンス・アイ新書)”] [amazonjs asin=”4062578050″ locale=”JP” title=”元素111の新知識 第2版増補版 (ブルーバックス)”][amazonjs asin=”4759811672″ locale=”JP” title=”元素生活 Wonderful Life With The ELEMENTS”][amazonjs asin=”4422420054″ locale=”JP” title=”世界で一番美しい元素図鑑【デラックス版】”]
Avatar photo

ペリプラノン

投稿者の記事一覧

有機合成化学が専門。主に天然物化学、ケミカルバイオロジーについて書いていきたいと思います。

関連記事

  1. MFCA -環境調和の指標、負のコストの見える化-
  2. 実験器具・設備の価格を知っておきましょう
  3. 快適な研究環境を!実験イス試してみた
  4. 機械学習による不⻫有機触媒の予測⼿法の開発
  5. 使っては・合成してはイケナイ化合物 |第3回「有機合成実験テクニ…
  6. 【山口代表も登壇!!】10/19-11/18ケミカルマテリアルJ…
  7. 第16回 Student Grant Award 募集のご案内
  8. ヒュッケル法(前編)~手計算で分子軌道を求めてみた~

注目情報

ピックアップ記事

  1. 真空ポンプ
  2. 総合化学大手5社、前期は空前の好決算・経常最高益更新
  3. 鋳型合成 Templated Synthesis
  4. 文具に凝るといふことを化学者もしてみむとてするなり ⑦:「はん蔵」でラクラク捺印の巻
  5. 第32回生体分子科学討論会 
  6. 遷移金属触媒がいらないC–Nクロスカップリング反応
  7. 有機合成化学協会誌2023年3月号:Cynaropicri・DPAGT1阻害薬・トリフルオロメチル基・イソキサゾール・触媒的イソシアノ化反応
  8. アスタチンを薬に使う!?
  9. 決め手はジアゾアルケン!!芳香環の分子内1,3-双極子付加環化反応
  10. 発見が困難なガンを放射性医薬品で可視化することに成功

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2013年5月
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
2728293031  

注目情報

最新記事

有機合成化学協会誌2024年12月号:パラジウム-ヒドロキシ基含有ホスフィン触媒・元素多様化・縮環型天然物・求電子的シアノ化・オリゴペプチド合成

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2024年12月号がオンライン公開されています。…

「MI×データ科学」コース ~データ科学・AI・量子技術を利用した材料研究の新潮流~

 開講期間 2025年1月8日(水)、9日(木)、15日(水)、16日(木) 計4日間申込みはこ…

余裕でドラフトに収まるビュッヒ史上最小 ロータリーエバポレーターR-80シリーズ

高性能のロータリーエバポレーターで、効率良く研究を進めたい。けれど設置スペースに限りがあり購入を諦め…

有機ホウ素化合物の「安定性」と「反応性」を両立した新しい鈴木–宮浦クロスカップリング反応の開発

第 635 回のスポットライトリサーチは、広島大学大学院・先進理工系科学研究科 博士…

植物繊維を叩いてアンモニアをつくろう ~メカノケミカル窒素固定新合成法~

Tshozoです。今回また興味深い、農業や資源問題の解決の突破口になり得る窒素固定方法がNatu…

自己実現を模索した50代のキャリア選択。「やりたいこと」が年収を上回った瞬間

50歳前後は、会社員にとってキャリアの大きな節目となります。定年までの道筋を見据えて、現職に留まるべ…

イグノーベル賞2024振り返り

ノーベル賞も発表されており、イグノーベル賞の紹介は今更かもしれませんが紹介記事を作成しました。 …

亜鉛–ヒドリド種を持つ金属–有機構造体による高温での二酸化炭素回収

亜鉛–ヒドリド部位を持つ金属–有機構造体 (metal–organic frameworks; MO…

求人は増えているのになぜ?「転職先が決まらない人」に共通する行動パターンとは?

転職市場が活発に動いている中でも、なかなか転職先が決まらない人がいるのはなぜでしょう…

三脚型トリプチセン超分子足場を用いて一重項分裂を促進する配置へとペンタセンクロモフォアを集合化させることに成功

第634回のスポットライトリサーチは、 東京科学大学 物質理工学院(福島研究室)博士課程後期3年の福…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP