[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

高分子と高分子の反応も冷やして加速する

[スポンサーリンク]

 

 

 

先日、冷凍食品を見ながら思いついたようにつぶやいた”凍結”反応ですが、よく調べてみると、他にも面白い論文が昨年報告されていました。

反応性が高いから冷やすのではなく、熱い二人を冷やして近づかせるChemistry。良いもの作れますよ!

さて、その気になる論文は、こちらになります。

 

”Accelerated Polymer-Polymer Click Conjugation by Freeze-Thaw Treatment”

Bioconjugate Chemistry, 23, 1503-1506, 2012

Hiroyasu Takemoto , Kanjiro Miyata , Takehiko Ishii , Shota Hattori , Shigehito Osawa, Nobuhiro Nishiyama, and Kazunori Kataoka

 

東京大学大学院工学研究科 片岡一則研究室のお仕事です。片岡先生は高分子で大変著名な先生で、第30代会長でも歴任しています。先日紹介したお仕事は理研の伊藤主任研究員のものでしたが、それ以外にも凍結を使っているとグループがあるということは、もしかしたら日本は凍結化学に強いのかもしれません。

その真偽はともかく、まずはグラフィカルアブストラクトを見てみましょう。

 

bc-2012-00182y_0002

 

わかりやすいグラフィカルアブストラクトですね。やっていることが一目で理解できます。なお、Conjugation! がCongratulations!に空目したのは私だけでしょうか?

さて、本題に入ります。反応させたい分子はsmall interfering RNA(siRNA)とPEG分子です。高分子に限らず、生体高分子を高分子で修飾するのは一般的に非常に困難です。反応率が低いことがその主要因ですが、高分子同士のごく一部の官能基が選択的に反応しなければならないからと考えれば、その反応率の低さは理解しやすいかと思います。

それでもできるだけ選択的に高分子同士を反応させようということから、シクロオクチンとアジドの間で起こるクリック反応を、複合体化の反応に採用しております。

だからといって、ただ混ぜただけではそうはうまく”クリック”されるわけではありません。やはり高分子反応は収率が低いものです。

では反応性をあげるためにはどうしたらよいでしょうか。一般的には、

 

1. 反応温度を上げる。

2. 濃度を上げる。

 

の二つが考えられますね。しかし、1.に関しては生体分子が高い温度条件下において一般に不安定であるため難しい。しかも、反応性の高い官能基が多いので、様々な予期せぬ反応が起きてしまいます。さらには、2本鎖核酸の解離も起き、結果として生体分子の構造が破壊され本来の生物活性が失われてしまいます。

では、次に取りうる方法の2ですが、貴重な生体高分子の濃度を上げろと言われても、そんな量を用意するのはコストの上で問題があります。

そこで筆者らが採用したのが、凍結濃縮現象です。凍結濃縮現象とは、溶液を凍結する際に、局所的に溶液が濃縮されたミクロドメイン構造が形成される現象のことを指しています。溶媒が結晶化して行くにつれて、溶質分子が追いやられて集積していきます。結果として生じた濃縮溶液は凝固点降下により凍結が遅れるため、反応性の高い溶液層が一時的に形成されます。ちょうど図の真ん中の状態(Frozen State)に相当します。なお、この凍結濃縮現象は食品業界ではよく使われる濃縮法のようです。

・・・と書きながら気がついたのですが、スポーツドリンクを凍らせて持って行ったことは皆さんありますよね。これ、中途半端に溶けた状態で飲むと、えらく濃いですよね。そして最後は水っぽくなるわけです。そう、簡単にいえばこれなんですよ、凍結濃縮現象とは。

 

2013-04-30_14-46-45

 

結果として、実際にこれら高分子同士を、-30 ℃で凍結させた後に4 ℃で解凍する簡便なプロセスを施すだけで反応率が飛躍的に向上したようです。そしてこの凍結解凍プロセスを経て生成したPEG-siRNA複合体は通常のsiRNAの生物活性と遜色が無かったと言うことです。低温下で行ったことにより、余計な副反応が起きなかった間接的な証拠であると言えます。誰でもできる、有効な生体高分子反応プロセスではないかと思います。

高分子反応でお困りの方、とりあえず冷凍庫に反応容器を持って行ってはいかが?

 

Avatar photo

あぽとーしす

投稿者の記事一覧

微生物から動物、遺伝子工学から有機合成化学まで広く 浅く研究してきました。論文紹介や学会報告などを通じて、研究者間の橋掛けのお手 伝いをできればと思います。一応、大学教員で、糖や酵素の研究をしております。

関連記事

  1. 「日産化学」ってどんな会社?
  2. 【ナード研究所】新卒採用情報(2025年卒)
  3. ゲルマニウム触媒でアルキンからベンゼンをつくる
  4. 第10回 野依フォーラム若手育成塾
  5. 自在に分解できるプラスチック:ポリフタルアルデヒド
  6. 配位子が酸化??触媒サイクルに参加!!
  7. “防護服の知恵.com”を運営するアゼアス(株)と記事の利用許諾…
  8. 有望な若手研究者を発掘ー研究者探索サービス「JDream Exp…

注目情報

ピックアップ記事

  1. 階段状分子の作り方
  2. C–NおよびC–O求電子剤間の還元的クロスカップリング
  3. 細胞内の温度をあるがままの状態で測定する新手法の開発 ~「水分子」を温度計に~
  4. 次世代医薬とバイオ医療
  5. たばこと塩の博物館
  6. ククルビットウリルのロタキサン形成でClick反応を加速する
  7. テキサス大教授Science論文捏造か?
  8. Thomas R. Ward トーマス・ワード
  9. シトクロムP450 BM3
  10. ハートウィグ有機遷移金属化学

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2013年4月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
2930  

注目情報

最新記事

【ユシロ】新卒採用情報(2026卒)

ユシロは、創業以来80年間、“油”で「ものづくり」と「人々の暮らし」を支え続けている化学メーカーです…

Host-Guest相互作用を利用した世界初の自己修復材料”WIZARDシリーズ”

昨今、脱炭素社会への実現に向け、石油原料を主に使用している樹脂に対し、メンテナンス性の軽減や材料の長…

有機合成化学協会誌2025年4月号:リングサイズ発散・プベルル酸・イナミド・第5族遷移金属アルキリデン錯体・強発光性白金錯体

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2025年4月号がオンラインで公開されています!…

第57回若手ペプチド夏の勉強会

日時2025年8月3日(日)~8月5日(火) 合宿型勉強会会場三…

人工光合成の方法で有機合成反応を実現

第653回のスポットライトリサーチは、名古屋大学 学際統合物質科学研究機構 野依特別研究室 (斎藤研…

乙卯研究所 2025年度下期 研究員募集

乙卯研究所とは乙卯研究所は、1915年の設立以来、広く薬学の研究を行うことを主要事業とし、その研…

次世代の二次元物質 遷移金属ダイカルコゲナイド

ムーアの法則の限界と二次元半導体現代の半導体デバイス産業では、作製時の低コスト化や動作速度向上、…

日本化学連合シンポジウム 「海」- 化学はどこに向かうのか –

日本化学連合では、継続性のあるシリーズ型のシンポジウムの開催を企画していくことに…

【スポットライトリサーチ】汎用金属粉を使ってアンモニアが合成できたはなし

Tshozoです。 今回はおなじみ、東京大学大学院 西林研究室からの研究成果紹介(第652回スポ…

第11回 野依フォーラム若手育成塾

野依フォーラム若手育成塾について野依フォーラム若手育成塾では、国際企業に通用するリーダー…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー