今回はちょっと趣向を変え、貴金属を事業主体とする会社をご紹介しましょう(写真はこちらから引用しました)。
Tshozoです。季節のせいか、最近気分が変わりやすい傾向があります。
ということで今回はDowの研究内容紹介の前に気がまた変わったので“おカネ”を扱う化学会社を紹介していきます。”おカネ”と言っても紙幣じゃありません。そんな紙切れではなくつまり、「貴金属」のこと。一般的には装飾品としてのイメージがほとんどでしょうが、実際には下表のように工業的用途に多量に使われており、しかもそれぞれ排ガス無害化、抗がん剤、金属の耐食性向上等の非常に重要な部分に使われているのです。
で、こうした貴金属産業を支える企業というのはどのような顔を持っているのか。化学の知見を積み重ねるために、それらの会社がなにものであるかを把握しておく必要があると考えました。
そこで今回は同分野で重要な位置を占める会社をざっと紹介したいと思います。なおタイトル画にある1本あたり12.5kgくらいの金の延べ棒(金塊)、現時価で5000万円以上するようです。一遍自分のものにしてみたいです。正直。
ともかくまず、貴金属の生産~市場までがどうなっているかを見てみましょう。基本的に貴金属産業は、
生産又は回収 → 前処理(分別・抽出など) → 濃縮 → 精錬 →加工 (→販売)
の5段階から構成されます。このうち一般に名の知られる貴金属取扱会社は、市場価格に支配力を持ちやすい後半行程(濃縮→精錬→加工・販売)に集中しています。市場に出している化学品の例には、 Pt:無電解めっき液や化学触媒/排気ガス触媒、Pd:説明するまでもない鈴木カップリング用試薬、Au:半導体のワイヤボンデイング用細線などがあり、それぞれ化学的加工や物理的加工を施し市場に供給します。いずれも高度な品質管理と加工技術が必要になることは言うまでもありません。
この後半の精錬・加工行程に強みを持つ代表的な貴金属取扱会社が概して著名な会社なのですが、代表的な会社をご紹介していきましょう。まず今回は国内勢、次回に国外勢です。
①田中貴金属工業(HP)
緒方直人さんのCMでおなじみ、国内貴金属の雄「田中貴金属」です。1885年創業で、当初は長寿命電球用の白金フィラメントを作り、回収し、加工する事業がら出発しました。このため貴金属の回収・精錬(高純度化)と加工に強みを持ち、集積回路に用いるAuボンディングワイヤのシェアでは世界トップクラスの実力を誇っています。
ただ現状では(Web情報や試薬情報をざっと見したところ)、本つぶやきのメイン分野である合成系の大学・研究機関での知名度はあまり高くないようです。もっとも、HPによるとPt塩やPt錯体販売(こちらのページ)も行っているため、長納期・品切れの薬品があったら問い合わせてみてはどうかと思います(分量次第とは思いますが・・・)。
②徳力化学研究所(HP)
貴金属業界ではおそらく世界最古とも言ってよい伝統を持つ、徳力本店(HP)の化成品部門にあたります。ルーツはなんと1727年まで遡り、徳川幕府からの改鋳加工受託先として発足(当時は「徳力屋」という名前で、その名前が落語「五貫裁き」にも残る)しましたが明治、昭和と激動の時代を切り抜け、田中貴金属殿と同様に地金の販売で存在感を発揮しています。同社はその貴金属化成品の販売と開発を担当しているようです。
もともとは貴金属微粉を活かした導電ペーストを主軸に発足しており、特に精密な抵抗測定などが必要になる測定系に用いる低抵抗金ペースト・白金ペーストなどの分野では「シルベスト」の商品名で有名です(お世話になってます・・・)。最近は化学品の分野であまり名前を聞かないのが少々残念です。
③石福金属興業(HP)
1930年創業の比較的新しい会社。もともとは「村田商店」という会社でした。他の会社同様、インゴットから歯科用材、化学品と幅広く扱っていますが、中でも自動車のスパークプラグ部材(貴金属とイリジウムの合金が主流)のシェアは国内トップクラスです。
最近は先端研究に力を注いでいるようで、こちらの記事でも見るように低白金量の燃料電池研究の国家プロジェクト(NEDOプロジェクト)に参加しています。他の貴金属会社でも同様の動きはあると思いますが、これらの研究活動を前面に押していくことで機能化学品用途のフロンティアを広げていくつもりなのでしょう。個人的には非常に応援したい活動です。
④松田産業(HP)
1957年創業の同社はその母体が食品業(卵白販売)という、この世界ではある意味異端児(失礼かもしれませんが)です。環境事業(リサイクル業)と並行しながら貴金属事業を行っており、その点は他の会社と同様で、貴金属回収→抽出→精錬→貴金属→加工・・・というサイクルを回しています。
他の会社と異なる特徴としては、小規模な貴金属回収装置を販売していることでしょうか(サイトはこちら)。こ実際の開発・製造現場にはこれは重要です。実際、何種類か試薬を少量購入したはいいが、うまく合成が進まず、廃液ごと泣く泣く捨てるということを経験されたことはありませんでしょうか(筆者はあります)。そういう際には回収、換金ができればいいと思いませんか? 例えば大学の研究所内でこういう装置を設置・共用・廃液回収をすれば、お金が戻ってくるのに加え貴重な資源を再利用することにも繋がるはず(既に色々対策をされているでしょうが)。開発現場の方は是非回収まで考慮してプロジェクトを進めていただければと感じます。
⑤その他小規模試薬系
下記の2社はインゴットなどは扱っていないものの、特に試薬販売で存在感を発揮しています折角の機会ですのでご紹介しましょう。
・・・小島化学薬品(HP)
三菱系の会社と付き合いが深い貴金属試薬会社です。貴金属めっき溶液の販売にその端を発し、
貴金属試薬の中でも特に高純度が要求される試薬について強みがあります。
・・・三津和化学薬品(HP)
関西に地盤を持つ独立系の貴金属試薬会社です。直接販売は行っておらず伊勢久殿、関東化学殿
といった試薬販売商社を通しているためその名前があまり知られることはありませんが、極めて多種
多様の貴金属錯体を扱っているのが特徴です。小規模ながらこうした試作・試験が短期で検討できる
会社があるというのは個人的には非常に重要と感じています。
ということでだいぶザックリですが駆け足で国内企業を見てきました。小さいころは貴金属というと(ダイヤモンド業界の●ビアス社のように)特定の企業が独占して市場を思いのままに動かす、というイメージに捉われていたのですが、そうではなく、①~⑤で見るように様々な企業が存在し活発に活動しているわけですね。
ちなみに各社とも、原則、少量であっても貴金属回収相談をしてくれることがほとんどです(三津和化学社を除く)。 試薬が微量に余ったとか、ターゲットがチビたのがあるとかの場合は適当に捨てず、是非近くの事業所に相談をされてみてはいかがでしょうか。いずれの貴金属も地球の遠いところから長い長い工程を経て運ばれた貴重な資源なのですから。
なお、国内外問わず、基本的にこれらの会社は貴金属の「鉱山」を持たず、ユーザが使用した貴金属を回収して再利用することで商売を継続している場合がほとんどです。何故生産に直接関わっていないのか? その理由については国外資本の企業紹介と併せてまた次回に。