[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

天然の保護基!

[スポンサーリンク]

 

有機合成には必須と言っても過言でないもの、保護基

反応性の高い官能基を不活性な形にしておくために保護基は使われるものです。

天然物の全合成(人工合成)と生合成(生物による合成)を比較するとき、保護基使用の有無について言及する人が多いと思います。

 

しかし、実は

天然の生合成でも保護基を使うことがあります。

 

’’A Natural Protecting Group Strategy To Carry an Amino Acid Starter Unit in the Biosynthesis of Macrolactam Polyketide Antibiotics’’

Yuji Shinohara, Fumitaka Kudo, and Tadashi Eguchi, J. Am. Chem. Soc. 2011, 133, 18134–18137

DOI:10.1021/ja208927r

天然物の全合成の講演を聴くと、「生合成を模倣した合成ルート」や「天然の合成ように保護基フリー」と言ったワードが良く聞かれると思います。しかし、なかには保護基フリーでない生合成もあるのです。

 

2011年に報告された、ビセニスタチン(Vicenistatin)という天然物の生合成経路では、途中、一級アミンがアシル化(保護)されますが、最後のマクロラクタム形成の手前で脱アシル化(脱保護)されます。このアシル化はアミンからの求核攻撃により、熱力学的に安定な六員環を形成してしまうことを防ぐためと考えられており、自然も天然物を生合成する場合に保護基を使うことを示しています。

 

vicen

 

よく、「天然の酵素はすごい!」という声を聞きますが、あまりにも酵素を神格化しすぎているのではないかと良く思います。生合成も化学合成も同じchemistry。そこで起こっている現象は同じように説明できるはずです。別物ではないのです。

 

実際はこのような例は特例であり、天然物の生合成で用いる保護基の数はほぼ無いと言っても良いレベルです。しかし、生合成中間体を受け渡すACPだって、見方によっては反応性の高い中間体を保護する保護基とみることも出来ると思います。

 

この他にも、酵素の立体選択性に関しても同様のことが言えると思います。「自然は、片方の立体だけの化合物を上手く作り分けている」とよくききますが、生合成経路の途中ではそんなことは無いのです。

ラセミ化合物を合成する酵素なんていくらでもあります。ラセミで作った後に、異性化酵素によって片方の立体に片寄らせたり、次のステップを触媒する酵素の基質選択性によって片方の立体化学をもつ化合物のみを消費するなどなど、化学合成と同様の手法が用いられています。

 

今回紹介した、Vicenistatinは、自然も保護基を使うんだ!という好例でした。

Avatar photo

ゼロ

投稿者の記事一覧

女の子。研究所勤務。趣味は読書とハイキング ♪
ハンドルネームは村上龍の「愛と幻想のファシズム」の登場人物にちなんでま〜す。5 分後の世界、ヒュウガ・ウイルスも好き!

関連記事

  1. アブラナ科植物の自家不和合性をタンパク質複合体の観点から解明:天…
  2. 【書籍】イシューからはじめよ~知的生産のシンプルな本質~
  3. 乙卯研究所 研究員募集 2023年度
  4. 実験ノートの字について
  5. パーソナライズド・エナジー構想
  6. 地方の光る化学企業 ~根上工業殿~
  7. 非古典的カルボカチオンを手懐ける
  8. カーボンナノチューブを有機色素で染めて使う新しい光触媒技術

注目情報

ピックアップ記事

  1. さよならGoogleリーダー!そして次へ…
  2. 博士後期で学費を企業が肩代わり、北陸先端大が国内初の制度
  3. スイスでポスドクはいかが?
  4. ゲイリー・モランダー Gary A. Molander
  5. 大気中のメタン量、横ばいに/温暖化防止に朗報か
  6. 有機化合物で情報を記録する未来は来るか
  7. 少量の塩基だけでアルコールとアルキンをつなぐ
  8. マイケル・オキーフィ Michael O’Keeffe
  9. 電子のやり取りでアセンの分子構造を巧みに制御
  10. 槌田龍太郎 Ryutaro Tsuchida

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2013年4月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
2930  

注目情報

最新記事

ディストニックラジカルによる多様なアンモニウム塩の合成法

第643回のスポットライトリサーチは、関西学院大学理工学研究科 村上研究室の木之下 拓海(きのした …

MEDCHEM NEWS 34-1 号「創薬を支える計測・検出技術の最前線」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

医薬品設計における三次元性指標(Fsp³)の再評価

近年、医薬品開発において候補分子の三次元構造が注目されてきました。特に、2009年に発表された論文「…

AI分子生成の導入と基本手法の紹介

本記事では、AIや情報技術を用いた分子生成技術の有機分子設計における有用性や代表的手法について解説し…

第53回ケムステVシンポ「化学×イノベーション -女性研究者が拓く未来-」を開催します!

第53回ケムステVシンポの会告です!今回のVシンポは、若手女性研究者のコミュニティと起業支援…

Nature誌が発表!!2025年注目の7つの技術!!

こんにちは,熊葛です.毎年この時期にはNature誌で,その年注目の7つの技術について取り上げられま…

塩野義製薬:COVID-19治療薬”Ensitrelvir”の超特急製造開発秘話

新型コロナウイルス感染症は2023年5月に5類移行となり、昨年はこれまでの生活が…

コバルト触媒による多様な低分子骨格の構築を実現 –医薬品合成などへの応用に期待–

第 642回のスポットライトリサーチは、武蔵野大学薬学部薬化学研究室・講師の 重…

ヘム鉄を配位するシステイン残基を持たないシトクロムP450!?中には21番目のアミノ酸として知られるセレノシステインへと変異されているP450も発見!

こんにちは,熊葛です.今回は,一般的なP450で保存されているヘム鉄を配位するシステイン残基に,異な…

有機化学とタンパク質工学の知恵を駆使して、カリウムイオンが細胞内で赤く煌めくようにする

第 641 回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院理学系研究科化学専攻 生…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー