[スポンサーリンク]

一般的な話題

メタンハイドレートの化学

[スポンサーリンク]

 

愛知県沖の深海で、次世代エネルギー資源「メタンハイドレート」から天然ガスを取り出すことに成功した、というニュースで沸いております。
原発事故からこっち、日本のエネルギー戦略が大きく修正されており(もしくは少なく見積もっても揺らいでいる状況で)、メタンハイドレート採掘に興奮した方も多かったのではないでしょうか。
かくいう筆者もその一人です。

エネルギー問題の解決には、有機も無機も重要であると信じております。メタンハイドレートが有機材料か、無機材料か、というのはそれだけで興味深い問題なのですが、そういう哲学的な問題は置いておいて、
私たちの将来を大きく左右するかも知れないメタンハイドレートとは、いったいどのようなものなのでしょうか。
そこには私たちがいつも接している「水」という物質の不思議な性質が大きく関わっています。


まずは「メタンハイドレート」という言葉について。
「メタン」は、炭素一個と水素4つからなる有機物で、あらゆる分子の中でもとても小さく、軽い分子です。
常温・常圧条件では水素(H2)とヘリウムの次に軽い分子のはずです。
(ボラン(BH3)はジボランになりますので。違っていたら誰か教えて下さい)
炭素の周りに水素原子が四面体に配位して、ちょうどテトラポッドと同じ形をしています。
tetrapod-b.jpg

メタンを燃やせば二酸化炭素と水ができますが、炭素に対して水素が4倍もいるため、燃やしたときのCO2排出量が少なく、比較的クリーンなエネルギーと考えられています。
このクリーンなメタンは、また軽いために地下に貯まっていたりはするものの、石油のように簡単には取り出すことができず、またタンクの大きさに対しての熱量も小さいためにこれまで余り使われておりませんでした。しかし最近、石油価格の高騰もあって注目を集めています。シェールガスの主成分もメタンです。

一方の、ハイドレート(hydrate)を日本語に訳すと「水和物」となります。「水」と「和」した「物」、というと曖昧ですが、要するに水を含んだ物です。
つまり「メタンハイドレート」とは、「テトラポッド型のメタンという分子が水を含んだもの」という意味になります。
ところでこのテトラポッドは、最も簡単な有機物でもあります。
油と水は混ざらないというのは料理から化学まで通じる規則でありまして、当然メタンと水も普通には混ざりません。それではこの「メタンと水の混ざり物」は、どのように出来るのでしょうか。
それには、この水の構造(凍ったら氷ですが)に秘密があるのです。

 

 

水や氷というのは我々にとっても最も身近な物質ですが、水ってやつは、勉強すればするほど変わった、面白い物質でもあります。

水は液体です。そして氷は固体です。液体というのは分子がみっちり詰まっているような気がしていませんか?実は、「水」という液体をナノの目で見ると隙間も大きく、例えば水の密度はちょうど1g/cm3ですが、密にパッキングすると約1.8g/cm程度になります。
水の中はスカスカで隙間だらけなのです。
何でそんな隙間ができるのでしょうか。答えは「水素結合」です。

・・・・・以下、水素結合の説明です。大学3年生以上は飛ばして下さい・・・・・・
高校化学の範囲では、水の中の電子配置は
H2O.png
となっており、水素と共有結合している電子対が二つ、酸素が元から持っている電子対が二つで、合計4つの電子対があります。
この4つのペア同士の反発があって、四面体構造をとるので、約109度に曲がるはずです。

さらに大学の学部レベルでは、非共有電子対の反発の方が強いので、H-O-Hの角度は109度よりも小さくなります。
この法則を、内核の電子でない電子(原子価殻電子)のペアの間の反発の具合の理論、Valence Shell Electron Pair Repulsion Rule, 略してVSEPR則といいます。

そしてH-O結合は強く分極してる上に水素は内核の電子が無く、極めて小さいため、近くに非共有電子対を見つけると、そこと弱い結合をつくります。これが水素結合と呼ばれるものです。
非共有電子対を持っている酸素、窒素、硫黄などとO-H、N-Hなどが近くにいると現れる相互作用です。
・・・・・水素結合の説明終わり。・・・・・

さて、皆さんご存じのように、水中の酸素は非共有電子対を持っていて、しかもO-H結合があるので、水分子と水分子は水素結合をします。
ということはさらに隣の水分子とも水素結合をして・・・と、無限につながっていき、大きな結晶になります。これが氷ですね。
氷とダイアモンドには共通点があり、氷は四面体構造で水素結合を形成していくのに対し、ダイアモンドは炭素間で四面体で結合を作っていくので、
どちらも同じように隙間のある構造を作っていきます。ダイアモンド骨格の充填率は約34%と、
高校でよく計算する立方最密充填(74%)の半分以下しか詰まっていない、スカスカな構造を取っています。

ちなみにダイアモンドのような骨格と書きましたが、僕らがよく見る氷は通常のダイアモンドのアダマンタン構造が全部詰まった立方晶のものではなく、閃亜鉛鉱をウルツ鉱型にしたような、六方晶系のもので、アイサン骨格でつながっており、ダイアモンドで例えるならロンズデーライトのような骨格と呼ぶべきで、六方晶氷と呼ばれ、一方ダイアモンド型の立方晶氷は、特殊な条件でしか存在しません。
・・・全く伝わらないですね。

化学のカタチのお話しならば有機化学美術館さま。是非有機化学美術館の世界で一番硬い物質という記事をご覧下さい。
炭素のように、「手が四面体方向に4本」のものを無限につなげていくと、骨格ができます。
一番対称性が高いのがダイアモンドですが、つなぎ方を変えると、炭素の場合、それより硬いロンズデーライトという構造もとることができます。
ダイアモンドは前後・左右・上下から見ても対称な、立方晶を取りますが、ロンズデーライト構造はそれより少し対称性が低く、上から見たのと横から見たのは違う構造になります。
ほら、有機化学美術館のロンズデーライトの絵を上から見たのと、横から見たのは構造が違うのがわかりますよね?
(すいません、絵を描く時間がありません。。。)

通常の氷はロンズデーライトの骨格を取っています。なので六方晶となり、なのでよく見る雪のカタチは6回対称をしています。
ちなみに水からの凍結速度はダイアモンド型の方が大きく、ノズルから吹き出したりして一気に凍らせると立方晶構造が得られることがあります。

とまあ、氷について長々と書いてきました。
さて、この氷というやつの水素結合はアイス・ルールという規則があり、そうやって並べていくと、残留エントロピーが出るという、極めて面白い物質です。あのライナス・ポーリングやらアンダーソンやらが出てくるのですが、今回の記事は「メタンハイドレート」についてですので、やめておきます。

とにかくわかって欲しかったことは、氷の結晶はスカスカだと言うことです。
ものすごくスカスカです。
どれくらいスカスカかというと、ダイアモンド型の結晶の中にもう一つダイアモンド型の結晶を入れ子にして入れることができるほどです。
そのため氷は密度が低く、温度を上げて液体になると、隙間にも水分子が入ってきて体積が小さくなるという、変わった性質が見られるのです。
それは、氷が水に浮く、ということで、よく知られていますね。
水は、冷たくなると、隣の水分子との間に水素結合を作らざるを得ず、そうするとスカスカの構造をとらざるを得ないため、軽くなって、より激しく動いている液体の水よりもスカスカになり、浮いてしまうのです。

このスカスカの隙間に別のものが入ることがあります。
例えば・・・

 

関連書籍

[amazonjs asin=”4847091639″ locale=”JP” title=”希望の現場 メタンハイドレート (ワニプラス)”][amazonjs asin=”4847060636″ locale=”JP” title=”海と女とメタンハイドレート ~青山千春博士ができるまで~ (ワニブックスPLUS新書)”][amazonjs asin=”4870319284″ locale=”JP” title=”エネルギー革命 メタンハイドレート (家族で読める family book series 003) (家族で読めるfamily book series―たちまちわかる最新時事解説)”]

関連記事

  1. 尿はハチ刺されに効くか 学研シリーズの回顧
  2. 第3回「Matlantis User Conference」
  3. ちょっと変わったイオン液体
  4. 2013年ケムステ人気記事ランキング
  5. 求人は増えているのになぜ?「転職先が決まらない人」に共通する行動…
  6. whileの使い方
  7. 半導体領域におけるマテリアルズ・インフォマティクスの活用-レジス…
  8. テクノシグマのミニオイルバス MOB-200 を試してみた

注目情報

ピックアップ記事

  1. おまえら英語よりもタイピングやろうぜ ~初級編~
  2. 天然物の生合成に関わる様々な酵素
  3. 材料開発の変革をリードするスタートアップのプロダクト開発ポジションとは?
  4. 【悲報】HGS 分子構造模型 入手不能に
  5. 未来のノーベル化学賞候補者(2)
  6. アセトアミノフェン Acetaminophen
  7. メカニカルスターラー
  8. ポメランツ・フリッチュ イソキノリン合成 Pomeranz-Fritsch Isoquinoline Synthesis
  9. 低分子の3次元構造が簡単にわかる!MicroEDによる結晶構造解析
  10. 学振申請書を磨き上げるポイント ~自己評価欄 編(前編)~

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2013年3月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

注目情報

最新記事

有機合成化学協会誌2024年12月号:パラジウム-ヒドロキシ基含有ホスフィン触媒・元素多様化・縮環型天然物・求電子的シアノ化・オリゴペプチド合成

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2024年12月号がオンライン公開されています。…

「MI×データ科学」コース ~データ科学・AI・量子技術を利用した材料研究の新潮流~

 開講期間 2025年1月8日(水)、9日(木)、15日(水)、16日(木) 計4日間申込みはこ…

余裕でドラフトに収まるビュッヒ史上最小 ロータリーエバポレーターR-80シリーズ

高性能のロータリーエバポレーターで、効率良く研究を進めたい。けれど設置スペースに限りがあり購入を諦め…

有機ホウ素化合物の「安定性」と「反応性」を両立した新しい鈴木–宮浦クロスカップリング反応の開発

第 635 回のスポットライトリサーチは、広島大学大学院・先進理工系科学研究科 博士…

植物繊維を叩いてアンモニアをつくろう ~メカノケミカル窒素固定新合成法~

Tshozoです。今回また興味深い、農業や資源問題の解決の突破口になり得る窒素固定方法がNatu…

自己実現を模索した50代のキャリア選択。「やりたいこと」が年収を上回った瞬間

50歳前後は、会社員にとってキャリアの大きな節目となります。定年までの道筋を見据えて、現職に留まるべ…

イグノーベル賞2024振り返り

ノーベル賞も発表されており、イグノーベル賞の紹介は今更かもしれませんが紹介記事を作成しました。 …

亜鉛–ヒドリド種を持つ金属–有機構造体による高温での二酸化炭素回収

亜鉛–ヒドリド部位を持つ金属–有機構造体 (metal–organic frameworks; MO…

求人は増えているのになぜ?「転職先が決まらない人」に共通する行動パターンとは?

転職市場が活発に動いている中でも、なかなか転職先が決まらない人がいるのはなぜでしょう…

三脚型トリプチセン超分子足場を用いて一重項分裂を促進する配置へとペンタセンクロモフォアを集合化させることに成功

第634回のスポットライトリサーチは、 東京科学大学 物質理工学院(福島研究室)博士課程後期3年の福…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP