今年も受験シーズンがやってきました。センター試験は大きな混乱もなくて良かったです。
さて巷の小学生は現在中学受験真っ盛りです。昨年は東西の男子中学校の横綱、開成中学校と灘中学校の理解の試験問題から化学の問題を紹介させていただきましたが、今年は女子中学校のいわゆる御三家から紹介したいと思います。
御三家とは、桜蔭中学校、女子学院中学校、雙葉中学校の三校のことです。いずれも中高一貫校で東大への進学者も多数排出する名門校となっています。女子中学校とはどんな世界なのか筆者には想像もつきませんが、優秀なリケジョを育ててくれているに違いありません。では早速理科の問題を概観してみましょう。
それぞれ入試における時間、点数の配分も様々です。
桜陰 国数 各50分 各100点、理社 各30分 各60点
女子学院 国数理社 各40分 各100点
雙葉 国数 各50分 各100点、理社 各30分 各50点
であり、雙葉が最も理科に関しては配点が少ないです。ボリューム的には30分では結構大変かもしれません。
桜蔭では、理科の問題の中に化学の分野と言い切れる問題が残念ながらありませんでした(化学っぽいけど物理っぽい)。来年はぜひとも化学推しをお願いしたいところです。
女子学院、雙葉の理科は生物、物理、地学と共にバランスよく設問されておりました。ではそれぞれの化学領域の問題をご紹介します。
空気は、ちっ素、酸素、ニ酸化炭素などの気体から成り立っている。次の問いに答えなさい。
1 ちっ素は、空気中に最も多く存在する気体で、スナック菓子の袋につめるなどの使いみちがある。ちっ素の性質として正しいものを下のア?カから選びなさい。
ア 風船につめると浮かぶ イ 燃えているろうそくを入れると消える ウ 水に溶けやすい
エ 水より熱を伝えやすい オ 他の物質と反応しにくい 力 うすい黄色である
2 二酸化炭素は、ちっ素や酸素に比べると空気に含まれる割合はずっと小さく、0.1%を大きく下回っている。
(1) 空気中に二酸化炭素があることを示すためにはどのような実験をすればよいか。実験の内容と、そのときに見られる変化を書きなさい。 ガス検知管は使ってはいけません。
(2) 二酸化炭素は、かなり酸性が強い液体と固体の組み合わせで発生させることができる。
① 水溶液の名前として適当なものの例を1つ書きなさい。
② 固体として使えないものを2つ選びなさい。
ア 貝がら イ 大理石 ウ 石灰石 エ アルミニウムの粉 オ セッコウ カ 重そう
(3) ニ酸化炭素は水に溶けて炭酸水となる。次のような性質をもつ水溶液があるとき、水に何が溶けていると考えられるか。溶けているものの例を1つだけ書きなさい。
① 赤色リトマス紙を青くし、スライドガラスにー滴のせてそのまま置いておくと何も残らない。
② BTB液を加えると緑色になり、スライドガラスにー滴のせてそのまま置いておくと何も残らない。
③ ムラサキキャベツ液を加えると黄色になり、アルミはくを溶かすが、鉄は溶けない。
④ リトマス紙の色を変化させず、加熱していくとねばついてきて茶色に変わっていく。
(4) 二酸化炭素濃度の増加は、ある環境問題と関係しているといわれている。その問題の名前を漢字5文字で書きなさい。
3 酸素は、ある物質Aの水溶液をある固体Bに加えることによって発生する。Bは反応によって変化せず、酸素の発生を助ける物質であることがわかっている。
(1) A、Bの名前と色を書きなさい。
(2) 酸素の中では物質は激しく燃えるが、酸素の割合を変えたときに燃え方がどのように変化するか実験をしてみることにした。
空気は量の少ない気体を無視すると、ちっ素の割合が80%、酸素の割合が20%と考えられる。発生させた酸素と合わせて、酸素が50%の割合で含まれる気体をつくりたい。方法を涼しく書きなさい。ただし、気体を集める集気びんの体積を400 cm3とする。
下のような装置に、ある濃さのAの水溶液20 cm3と、少量のBを入れ、装置を傾けて反応させた。発生した酸素はメスシリンダーに集め、経過時間と酸素の体積をはかったところ、下のグラフのようになった。7分で完全に反応は終わった。液の量は反応中変わらないものとして問いに答えなさい。
(3) 酸素が50 cm3発生するまでにかかった時間は何秒になるか。グラフから読み取って答えなさい。
(4) 2倍に薄めたAの水溶液20 cm3を使って、Bの量や温度は変えずに、同じ実験を行う。次の①、②を予想して答えなさい。
① 反応が終わるまでに発生する酸素の体積
② 20 cm3の酸素が発生するまでにかかる時間
平成25年度女子学院中学入試問題 理科より抜粋 (太字は筆者による)
女子学院は気体に関する総合的な設問です。窒素、酸素、二酸化炭素に関する基礎的な知識を主に問うた後、最後は物理化学の分野に踏み込んでいます。物理化学と言っても恐れることはなくグラフを使った問題で想像力で解けてしまいます。
全体的には堅いなあという印象です。個人的には2の(3)でBTB液を加えて緑色になって(中性)、揮発してしまう物質というのがちょっと思いつきませんでした。アルコールとかの有機化合物の水溶液は中性というのは中学受験では常識なのかな?
日常生活で不要になったものを新たに資源として再利用することをリサイクルといいます。市販されている多くの物には、回収してリサイクルしやすいように、それが何からできているかが一目でわかるマークが表示されています。多くのプラスチック製品には<プラのマーク>の表示があり、ブラスチックゴミとしてまとめて回収され、リサイクルしたり、燃やして発生した熱を発電や温水をつくるのに利用したりしています。ボリエチレンテレフタレート(PET)は、合成繊維(人工的につくられた繊維)やプラスチックの原料の一つで、プラスチック製のペットボトルはPETからつくられます。飲み物やしょう油が入ったペットボトルは中が洗いやすく、リサイクルしやすいので、他のブラスチック製品と区別するため、ラペルには<PETのマーク>のマークが表示され、リサイクル後はいろいろなものをつくるのに使われています。ブラスチック以外のアルミ缶やスチール缶、ガラスビンなども回収後、リサイクルされています。
問1 中を洗ったペットボトルの回収方法として正しいものを下から選び、番号で答えなさい。
① ラベルもフタもつけたまま回収する。
② ラベルをつけたままフタだけはずして回収する。
③ ラベルをはずしてフタをつけたまま回収する。
④ ラベルもフタもはずして回収する。
問2 下線部について、ペットボトルがリサイクルされてできるものの中で、プラスチック製品以外の例を一つあげなさい。
問3 下図のような手順でプラスチックの破片を針金に巻きつけて燃やす実験をしました。それぞれの実験結果からわかる、プラスチックを燃やしたときに発生した気体の名前を答えなさい。
(1)空の広口ビンの中で燃やす
結果: ビンの内側が小さな水滴でくもった。
(2)石灰水を入れた広口ビンの中で燃やした後、ビンをよく振る
結果: 石灰水が白くにごった。
問4 アルミ缶とスチール缶は、分けずにまとめて回収されることがよくあります。空き缶の回収工場では、多量のアルミ缶とスチール缶をどのような方法で分けていますか。
問5 ある人が業務用の強い洗剤を家で使用するために、飲み物が入っていた空き缶に入れ、もれないようにフタをしっかり閉めて持ち帰る途中で爆発事故が起こりました。事故の後この洗剤を調べてみると、おもな成分が濃い水酸化ナトリウム水溶液であることがわかりました。なぜこのような爆発が起きたのか説明しなさい。
問6 リサイクルされたガラスは、細かくくだいてビーズのように丸く加工し、舗装材や塗料に混ぜて道路に利用されています。その目的は何か、ガラスを使う理由とともに答えなさい。
平成25年度雙葉中学入試問題 理科より抜粋 (ブラのマーク、PETのマークの欄は実際のマークがあります)(太字は筆者による)
続いては雙葉です。日常生活に密着したリサイクルに関する化学をとりあげています。物質の性質を有機、無機とうまく混在させた良問だと思います。PETはポリエチレンテレフタラートと書いてくれると未来のリケジョが大学に入ったときに困らないと思いますのでよろしくお願いします。
そして、問5ですが以前ケムステでも紹介した事故に関する問題です。出題者の先生ケムステ読者でしょうか?だったら嬉しいですね。こんなこともありますので、これからは中学受験するならケムステもチェックしなければいけませんと塾の先生方も生徒さんに指導して下さいな。
昨年は開成、灘などを取り上げました。いずれも凝った問題だなあという印象でしたが、御三家(桜陰除く)女子中はいずれも基本的なところを問うてるなという印象です。毎年全てを見ているわけではないので男女校で差があるのかは分かりませんが、化学は大学レベルでも結構女子学生のニーズはあると思うので、女子中でもぜひとも化学の面白い問題の出題を、そして化学の道への誘導をお願いします!
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