[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

置き去りのアルドール、launch!

[スポンサーリンク]

 まずは冒頭図の反応生成物を考えてみて下さい。有機化学者を志す者なら答えられますよね?

 Org.Lett.の新着論文をチェックしていて、「あれ?これって新しいの?むしろ古いんじゃない?」と思って読んでみたので投稿します。論文はこちら⇒DOI: 10.1021/ol3033303

 

解答編

で、解答の答え合わせ。普通の解答:アルデヒドにボロンエノレートが求核付加したアルドール体(βーヒドロキシケトン)。教科書に載ってそうですね。ファイナルアンサー?

…残念!(この論文の生成物では無い、という意味で不正解)

aldo2.gif

論文の生成物、正解はこちら⇒得られたアルドール体からケトンが還元されたジオール体が生成する。還元剤なんて入れて無いのにね、さて一体どういう事?

aldol3.gif

 

1,3-アンチジオール合成の方法論

1,3-ジオール構造は、天然物(特にポリケチド)に頻出する構造で、その立体選択的構築法は古くからある合成課題です。常法の一つは(1)立体選択的アルドール反応によりβーヒドロキシケトンを得た後、(2)これの立体選択的還元によりジオールを合成する(下図)、という方法でしょう。

aldol4.gif

で、この論文ではアルドールと還元を一挙に行って、ジオールをアンチ選択的を得ています。実験操作を確認すると、氷冷でエノラート調製した後、−78℃でアルデヒドを加え1時間、室温で20時間、そしてwork-up。どこにも還元ソースは無いじゃん!

aldo5.gif

正解のヒントはミッドランド還元にありました。キラルボロンを使った不斉アルドール反応の後に(int-1)、Ipcからの逆ハイドロボレーションによりα-ピネンが再生しつつ分子内水素移動型還元が進行し、ケトンがアルコールへ変換(int-2)されています。ボロン配位による強固な6員環中間体(twist-boat)をとっているため、選択的にanti-diolが得られます。

基質によっては1段階目のアルドールの光学収率に課題はありそうですが、還元段階の選択性はほぼ完璧のようです。ちょっとボロンのwork-upが面倒ですが、2つの不斉点が一挙に構築できるなかなか便利な反応ではないでしょうか?(work-upは酸化処理より、アセトナイド保護の方が便利かな…)

 

これは新しい反応なのか?

還元まで進行するのが解ったあなた!「これって有りがちな反応じゃないの?今更?」と思いましたよね!?

αーピネンは両立体とも安価に入手容易であり、80年代には最もポピュラーな不斉補助基の一つでした。加えて以下の理由を考えると、この反応は80年代、30年前に発表されていて然るべき物だと思えます。何で今まで誰もやってなかったんだろう、えっホントに誰もやってないの?、とか思う訳です。

 1)アルドール反応は、ボロンエノラートを用いた研究で大きく発展した

2)Ipcは不斉ハイドロボレーション、アリルボレーションの代表的な不斉補助基である

3)Ipcを使ったのAlpine-Boraneを用いた不斉還元(ミッドランド還元)がある

これは30年間置き去りにされていた反応だと感じました。未発見な反応を、未発見だと認識する事はとても難しい事ですね。著者達の丁寧な調査と着眼に感心です。

 

 

関連書籍

[amazonjs asin=”B00BKXA59M” locale=”JP” title=”Modern Methods in Stereoselective Aldol Reactions”]

関連記事

  1. 高純度フッ化水素酸のあれこれまとめ その2
  2. 硫黄―炭素二重結合の直接ラジカル重合~さまざまなビニルポリマーに…
  3. マテリアルズ・インフォマティクスを実践するためのベイズ最適化入門…
  4. 留学生がおすすめする「大学院生と考える日本のアカデミアの将来20…
  5. 第18回次世代を担う有機化学シンポジウム
  6. カンブリア爆発の謎に新展開
  7. 分析技術ーChemical Times特集より
  8. ドーパミンで音楽にシビれる

注目情報

ピックアップ記事

  1. テトラブチルアンモニウムビフルオリド:Tetrabutylammonium Bifluoride
  2. 吉見 泰治 Yasuharu YOSHIMI
  3. 化学業界と就職活動
  4. 有機反応を俯瞰する ーリンの化学 その 2 (光延型置換反応)
  5. 化学者のためのエレクトロニクス講座~無電解めっきの還元剤編~
  6. 官能基化オレフィンのクロスカップリング
  7. 「Natureダイジェスト」で化学の見識を広めよう!
  8. 第42回―「ナノスケールの自己集積化学」David K. Smith教授
  9. Ru触媒で異なるアルキン同士をantiで付加させる
  10. 炭素-炭素結合活性化反応 C-C Bond Activation

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2013年1月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
28293031  

注目情報

最新記事

野々山 貴行 Takayuki NONOYAMA

野々山 貴行 (NONOYAMA Takayuki)は、高分子材料科学、ゲル、ソフトマテリアル、ソフ…

城﨑 由紀 Yuki SHIROSAKI

城﨑 由紀(Yuki SHIROSAKI)は、生体無機材料を専門とする日本の化学者である。2025年…

中村 真紀 Maki NAKAMURA

中村真紀(Maki NAKAMURA 産業技術総合研究所)は、日本の化学者である。産業技術総合研究所…

フッ素が実現する高効率なレアメタルフリー水電解酸素生成触媒

第638回のスポットライトリサーチは、東京工業大学(現 東京科学大学) 理学院化学系 (前田研究室)…

【四国化成ホールディングス】新卒採用情報(2026卒)

◆求める人財像:『使命感にあふれ、自ら考え挑戦する人財』私たちが社員に求めるのは、「独創力」…

マイクロ波に少しでもご興味のある方へ まるっとマイクロ波セミナー 〜マイクロ波技術の基本からできることまで〜

プロセスの脱炭素化及び効率化のキーテクノロジーとして注目されている、電子レンジでおなじみの”マイクロ…

世界の技術進歩を支える四国化成の「独創力」

「独創力」を体現する四国化成の研究開発四国化成の開発部隊は、長年蓄積してきた有機…

四国化成ってどんな会社?

私たち四国化成ホールディングス株式会社は、企業理念「独創力」を掲げ、「有機合成技術」…

アザボリンはニ度異性化するっ!

1,2-アザボリンの光異性化により、ホウ素・窒素原子を含むベンズバレンの合成が達成された。本異性化は…

マティアス・クリストマン Mathias Christmann

マティアス・クリストマン(Mathias Christmann, 1972年10…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー