今アメリカだけでなく、世界中で最もホットな分野になりつつある「シェールガス」。これに纏わる化学物質のついてご紹介します。
どうも、Tshozoです。孤独もいいもんです。
今回は現在ホットな分野である「シェールガス」を紹介しましょう。その中で化学物質がどのように関係するかも記載したいと思います。
現在、特に米国で非常に大きな産業になりつつあるシェールガス採掘。シェール:Shaleとは「頁岩」のことで、本のページ(頁)のように劈開性のある岩石に含まれるガスというのがそもそもの意味です。
Shale(頁岩)の写真 雲母のように断面に沿って剥がれるのが特徴
このShale Gas、歴史的には17世紀くらいのかなり早い段階からその存在が確認されていました。しかし当初は採取が技術的に極めて困難で、やっと採掘が始まった20世紀前半には石油とのコスト競争に負ける形で市場からはじき出されていました。この結果20世紀後半まではエストニアなど、東欧のごく一部の地域のみでシェール”オイル”のみの採取が継続していたという、だいぶ憂き目を見てきた資源になります。
EstoniaでのShale採掘の様子
頁岩そのものを取り出し、断面に含まれる油成分を燃料として使用していた
その後もDoE(アメリカエネルギー省)を中心とした細々とした取組みが続けられてきました。しかし原油を探索・掘削する技術がかなり進化するに連れ、それを活用したシェールガスの採掘技術も進化していきます。そして2000年の初旬、アメリカのGeorge Mitchellが「Hydraulic Fracking」採掘孔を掘っていった上で、水圧で頁岩を破砕する手法を編み出します。これは下記の写真のように垂直に掘ってから水平に穿孔したうえで水圧をかける、という既存技術を組み合わせた結果なのですが(水平掘削に関しては国内のこちらのサイトがイメージしやすいです)この結果回収率が従来よりも大幅に向上しました。
水圧破砕法の産みの親 George Mitchell
Hydraulic Frackingのイメージ図(こちらより筆者が編集して引用)
4000~8000ft(1,2km~2.4km)まで掘り抜いてから水圧を印加して地層にヒビを入れる
地下水層に比べかなり深層に存在しているのが図から見て取れる
このシェールガス、米国内には可採掘量として現状世界中で確認されている天然ガスとほぼ同量(エネルギーベース)のシェールガスが存在するという試算もあるようです。ちなみに中国にはさらにその1.5倍近いシェールガスが存在するとか・・・。もしこれらが世界中で安価に取得でき、たとえばGas to Liquidと組み合わせることができるなら世界のエネルギーフローを変えるポテンシャルもあると言えるわけです(注:去年の中頃になっていきなり66%見込み資源量が減るというニュースが出てくるなど、資源量については結構胡散臭い雰囲気もあり、確定したわけではないということを付記しておきます)。
さて、上記のような話を見てきて化学と何の関係もないんでは、と感じると思いますが、実はこのHydraulic Frackingのために少量ですが色々な化学物質が使用されています。これを見ると実際には「泥水圧破砕法」、と言った方がよいかも。ともかく、それぞれどういう役割を果たしているのか、分量の多いものからざっと見ていきましょう。
Hydraulic Frackingに使われる材料組成一覧(こちらより引用)
Sand【砂】
・・・水に2~3wt%混合 ガスが通るクラック(ヒビ)が塞がらないようこの砂を詰め込み
多孔質を維持するようにした ただの砂以外にも粒径が非常にそろっているタイプや
樹脂をコーティングしたタイプも有
Acid【酸】
・・・岩盤を壊れやすくするためのもの 通常は塩酸を使用
Friction Reducer【潤滑剤】
・・・その名の通り、水分・砂分の潤滑性を向上し圧損をなくすためのもの
ポリアクリルアミドや鉱物油類などが主
Surfactant【界面活性剤】
・・・細かい岩の隙間に入った水の表面張力を下げて水を取り戻す割合を上げるためのもの
通常はイソプロピルアルコール、ラウリルスルホン酸ナトリウムなどを使用
KCl【土壌安定化剤】
・・・掘っていった先の土・岩盤が膨潤したりして折角空いた穴を塞ぐのを防止
Gelling Agent【ゲル化剤】
・・・砂を分散させて均一かつ濃厚な泥水を形成するためのもの グアーガム等を使用
Scale Inhibitor【スケール防止剤】
・・・不溶成分の発生を抑えるためのもの 岩盤から溶け出したBa・Ca塩類などにより
水分内に不溶成分が形成されるのを防止 エチレングリコールなどを使用
化学に少しでも携わった方々からすると、そこまで毒性が高いものである印象は受けないというのが正直なところではないでしょうか。
これらの化学物質、用途を整理すると
1、うまく頁岩層に水圧を伝え破砕する
2、作ったクラックを維持する
3、水を取り戻す
の3つの目的のために添加されています。微量に添加されるBiocide(殺菌剤)もバイオフィルムが発生して孔を塞がないためのものですし、ここらへんはかなり四苦八苦して工夫してきたと推測されます。なおこのうち、界面活性剤の位置付けは非常に大きいようです。頁岩層は基本的に水があまり存在しない内陸部に在ることが多く、そこに真水を運んできて使わざるを得ないためです。これにより水分の回収率というのはコスト上も大きな問題になるため、何を使うかは地層のタイプやコスト、漏出した場合の環境負荷も計算して判断しなければならないようです。
シェールガス採掘現場の例 溜池を作って水を再利用するが、河川への漏出の危険性は捨てきれない
で、化学分野の方々にはこうしたFracking技術に向けて一体何が期待されるのか。新しい分野とはいえ、上記のように廉価な材料が既に使用されている場合にはなかなか新規開発というのは踏み込めない場合が多いと思われます。しかし見方を変えればまだまだ開発テーマネタはあるはずで、例えばここまで深層だとかなり高温の環境であるため、この温度を利用してより多孔質で頑丈なクラックを形成・維持できる材料があるのではないか、又は環境負荷を考慮した場合、漏出しても大丈夫な材料の中に意外な機能を持つ材料があるのではないか、などです。
近々での例を挙げると、信州大学の遠藤教授が主導するチーム(野口徹教授)が250℃以上、2000気圧以上の高温・超高圧でもゴム性を失わない、CNTを応用した機能材料を開発し深海・高深度の原油・LNG採掘のシール材として使用されているケースがあります(こちら)。採掘・掘削というと古びた、完成された技術という印象を受けるかもしれませんが、求められる機能も昔とは異なってきており、そのニーズを手繰って研究テーマを立ち上げる努力してみるのもよいのではないでしょうか。
ということで、今後新たな炭化水素の供給源として益々注目の集まるシェールガス。その中で使用される量は少ないものの、化学物質が果たす役割は決して小さくないと筆者は考えています。本記事を通して皆様のこの分野への興味が高まれば幸いです。