皆さんご存知の通り、昨年は各社から続々と電子書籍端末が発売されました。正直待ち疲れていた「電子書籍元年」がついに本格到来したわけです。どこのストアもオープンして間がないため、満足行く品揃えとは言い難い現状ですが、これから充実していく期待は十分持てます。
そんな現状でも「自炊書籍」、つまり手作業で紙の書籍を裁断・スキャンして電子化してしまうことで、電子書籍端末の恩恵に与ることができます。
筆者はiPadで自炊書籍を読みはじめて以来、その便利さにすっかり虜になってしまいました。今回の発売を機に、Kindle Paperwhite 3G (以下KindlePW)も即買い。電子ペーパー製品はタブレットPCと異なり、目が疲れにくい、照り返しが抑えられる、電池の持ちに優れる、薄く軽量と言われており、全くその通りだと実感しています。
さて、自炊小説や漫画を電子ペーパー端末で読む方法についてはほうぼうで語られています。今回はそちらは取り上げず、化学ブログらしく「教科書・参考書を自炊して、電子書籍で読む」ことにスポットを当ててみようと思います。常日頃から情報収集の効率化を必要とする身、「分厚く重たい教科書・参考書を持ち歩く必要がなくなる」「検索性が高く目的の情報にすぐ飛べる」電子書籍には、抗いがたい魅力を感じるわけですね。
自炊PDFをトリミング・軽量化する
お好きな方法で自炊PDFを用意することがともかく最初にやることです。裁断機とScanSnapを買って自炊に励むアクティブな知人もいるにはいますが、筆者はそこまでやる時間が捻出できないため、自炊代行サービスに送るようにしています。
こうしてできた自炊PDFをそのままKindlePWで表示しようとすると、画面があまり大きくない(6インチ)こと、自炊版にはフォントサイズを変更できる機能がないことから、文字がとても小さく読みづらく表示されます。紙の書籍に余白が沢山あることが原因です。また自炊PDFのサイズも意外と大きく(数十~100メガバイト)、保存容量に乏しいKindlePW端末を使うにあたっては、これも馬鹿にならない問題となります。
これらの問題を一挙に解決してくれるのが、自炊PDFのトリミング・軽量化ソフトです。版面の余白をばっさりカットして画面一杯に表示されるように、また電子書籍端末向けにコントラストを強めて読みやすくなるように、自動最適化してくれる優れ物です。
ChainLP、もしくはかんたんPDF Dietが2大定番ソフトとされています。導入については、こちらやこちらの記事を参考にしてみてください。今回はKindlePWについて述べますが、他社端末(SonyReaderや楽天KoboGlo)であっても、扱うフォーマットが異なるだけで、基本的には同じ方法で出来ます。
筆者の手元には自炊済み教科書「生物無機化学」(錯体化学会選書)があります。ハードカバーB5判で約400ページという分厚い書籍です。電子化すればこれがポケットで持ち運べるわけですから、すごい時代になったものです。
これを2つのソフトで処理して、KindlePW用(MOBI形式)に最適化してみました。結果はご覧のとおり(クリックで画像を拡大)。
元ファイル(PDF・液晶ディスプレイ表示)、ファイルサイズ:182メガバイト
かんたんPDF Dietで変換(MOBI・KindlePW表示)、ファイルサイズ:48メガバイト
ChainLPで変換(MOBI・KindlePW表示)、ファイルサイズ:91メガバイト
かんたんPDF Dietは、ドラッグ&ドロップで一発変換してくれる簡単さが魅力。しかし筆者のWin8環境ではトリミングがうまくいきませんでした(Win7の頃はできたのですが・・・)。画像には思い切った中抜きが施されるためか、ファイルサイズもかなり削減されます。レイアウトが全く変わってしまうというきらいはありますが・・・。
他方のChainLPでは、ページごとに細かな設定ができる点が魅力であり、左開き/右開き設定も思いのまま。自炊書籍の扱いに慣れた人向けのソフトといえます。レイアウトが変わらない反面、サイズ削減度はそこまで大きくありません。個人的には少々容量が減らなくても、がっつりトリミングされてくれたほうが見やすいように思えます。
元書籍はカラー刷りですが、モノクロ化によるデメリットはいかほどか――これについては、あまり気にならないレベルだと個人的には思います。絵を見て楽しむことを主眼とする書籍ではないので、中身がはっきり読めれば必要十分ではないでしょうか。
検索性については、残念ながらKindlePW端末のイケてなさが出てしまう点です。正直思ったほどメリットがありません。OCR云々というよりは、ページの行き来と飛ばしが遅いため、ざっと眺めて欲しい情報を見つけるという目的には向きません。この点はまだ紙のほうに分があると思います。ただこれは、今後端末が発展していくにつれ解決されるだろうことにも思います。
電子ペーパー端末の威力
KindlePWを始めとする電子ペーパー端末のいいところは、なんといってもその携帯性の良さにあると思います。ポケットに忍ばせておける大きさでありながら、文庫本と同じ軽さ、電池が長持ちという特性は素晴らしく、読書ライフを一変させるに十分です。
特に「スキマ時間に本を読むようになった」効能がとても大きいです。例えば電車・バスでの移動時間や、ひとりでご飯を食べてる間。すぐ手が届くところに本がなければ、読書なんてしませんでした。しかしKindlePWをポケットに忍ばせておくことで、いつでもどこでも気になる本がすぐ読めます。これまでは文庫本を1~2冊持ち歩くのがやっとでしたし、家を出る時持ち出す本のチョイスを間違えてしまうと、時間ができても読む気が起きず放置される、といったことも珍しくありませんでした。これは貴重な読書機会の損失そのものだといえるでしょう。
一方の電子書籍は何冊持ち歩いても大きさは同じ。「今日はこの本を読む気分じゃないなぁ・・・」という場合でも、多数の選択肢から好きな本を読めるようになりました。筆者は何冊もの本を並行読書する派ですが、そういう雑把なスタイルには打ってつけとも言えます。
またこれまでのスキマ時間はというと、玉石混交なインターネットコンテンツをスマホで読むばかり。しかし電子書籍端末を持って以来、「プロ編集の手が入ったキュレーション済みの情報」を読むように変わったわけです。「スキマ時間に入手できる情報の品質向上」「読書の機会獲得の損失防止」という恩恵は計り知れないものがあると感じます。
そしてこれはなぜかは未だにわからないのですが、電子書籍端末を使うと読書スピードがかなりアップしたという実感があります。スキマ時間が有効活用される以上の効果で、読む速度が速くなっているようなのです。おかげで苦手意識の拭えなかった活字読書がだいぶ捗るようになりました。
使い勝手やインターフェイスには、まだまだ改善してほしい点は多くありますが、「読書体験の変革度」が素晴らしく、筆者個人は大変満足しています。教育・研究分野での活用法はまだまだ沢山考えられそうなので、思いつき次第折を見てレビューして行きたいと思います。