[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

オキソニウムイオンからの最長の炭素酸素間結合

[スポンサーリンク]

 

炭素酸素間結合(C-O)と言えば、エタノールとか、エチルアルコールとか、炭素数2のアルコールとか。おりしも忘年会シーズンですが、お酒の成分としておなじみ、あの分子にも含まれます。

この、アセトアルデヒドを経て酢酸に酸化される分子言い換えしつこい!の炭素酸素間結合(C-O)は、1.431Aと見積もられます。なんと、この結合長をはるかに超えて、1.622Aの炭素酸素間結合(C-O)を持つ分子が新たに合成されました。この13%増しの秘訣は、高校化学からなじみのオキソニウムイオン(H3O+) にあり!?

オキソニウムイオン(H3O+)と言えば、水分子に水素イオンがひとつ配位結合した化学種で、高校の教科書にも登場します。このオキソニウムイオンの水素原子をメチル基にした分子((CH3)3O+)は、メーヤワイン試薬を思い出してのとおり禁水であり、メチル基でなくても同様にアルキル化オキソニウムイオンはたいてい不安定な化学種です。

しかし、例外があって、ケムステ記事『オキソニウムカチオンを飼いならす』で紹介されたとおりオキサトリキナンという分子が存在します[1]。輪ゴムをにょろーんと拡げたようなかたちをしており、炭素九員環の中央に酸素原子があります。そして、この三環分子、なんとナント、水中でも安定なのです[1]。

 

にょろーんと炭素酸素間結合(C-O)記録更新

よくよく調べてみると、このオキサトリキナンが異様に長い炭素酸素間結合(C-O) を持つことが、判明しました[2]。通常は1.43Aのところ、オキサトリキナンでは1.54Aとのこと。長い!

しかし、これが本当に1番かというと、データベース上にある数値(1.538A)と比べ、決め手に欠けます。このままでは、ディフェンディングチャンピオンに対して、どちらが1番か白黒はっきりつけられそうにありません。そこで、量子力学計算でシミュレーションを行い、上位互換の分子設計を目指して、さらなる改良を模索しました[2] 。計算方法は「B3LYP/6-31+G**」と「MP2/6-31+G**」を使い分けているみたいですね[2]。

シミュレーション結果いわく「ふむふむ電子供与基を入れたオキサトリキナンならばさらなる高みに到達できそう」とのこと。試しに、オキサトリキナンのターシャリーブチル化誘導体で演算してみると、炭素酸素間結合(C-O)は1.62Aという数値が、コンピューターからはじきだされました。通常(1.43A)と比較しておよそ13%増しです。

さっそく合成[2]に取りかかり、結晶構造解析[2]してみると、「1.622A」との結果が。キタコレ記録更新!

2015-11-01_17-57-09

オキサトリキナンのターシャリーブチル化(tert-Bu)誘導体 / 結晶構造情報は論文[2]より

オキサトリキナンの炭素酸素間結合(C-O)はかなり長い。こういった特徴的な性質を上手く使って、この後もオキソニウムイオンのケミストリーから、新規反応の開発など発見が続くといいですね。

 

参考論文

  1.  “Oxatriquinane and Oxatriquinacene: Extraordinary Oxonium Ions.” Mark Mascal et al. J. Am. Chem. Soc. 2008 DOI: 10.1021/ja805686u
  2. “Extreme oxatriquinanes and a record C–O bond length.” Gorkem Gunbas et al. Nature Chemistry 2012 DOI: 10.1038/nchem.1502

 

 

関連書籍

[記:Green] 量子化学計算の初歩を学ぶならばこの本がオススメ。GaussianとGAMESSの両方に対応。

[amazonjs asin=”4061543881″ locale=”JP” title=”新版 すぐできる 量子化学計算ビギナーズマニュアル (KS化学専門書)”]
[記:Green] 高校を卒業してから久しぶりにページをめくっても図説は眺めているだけでおもしろい。最近の最新版だと東京書籍図説化学は最後の見開きページになんと……。

[amazonjs asin=”4487367603″ locale=”JP” title=”ダイナミックワイド図説化学”]

 

Avatar photo

Green

投稿者の記事一覧

静岡で化学を教えています。よろしくお願いします。

関連記事

  1. 触媒的芳香族求核置換反応
  2. ヘリウムガスのはなし
  3. 結合をアリーヴェデルチ! Agarozizanol Bの全合成
  4. 分子の対称性が高いってどういうこと ?【化学者だって数学するっつ…
  5. 市村賞受賞記念フォーラム開催
  6. 細胞表面受容体の機能解析の新手法
  7. マテリアルズ・インフォマティクスにおける分子生成の応用 ー新しい…
  8. 超一流誌による論文選定は恣意的なのか?

注目情報

ピックアップ記事

  1. ジメチル(2-ピリジル)シリル化合物
  2. 実験教育に最適!:鈴木ー宮浦クロスカップリング反応体験キット
  3. 高効率な可視-紫外フォトン・アップコンバージョン材料の開発 ~太陽光や室内LED光から紫外光の発生~
  4. 3級C-H結合選択的な触媒的不斉カルベン挿入反応
  5. “へぇー、こんなシンプルにできるんだっ!?”四級アンモニウム塩を触媒とするアルキンのヒドロシリル化反応
  6. 脈動がほとんどない小型精密ポンプ:スムーズフローポンプQシリーズ
  7. 一度に沢山の医薬分子を放出できるプロドラッグ
  8. 続・名刺を作ろう―ブロガー向け格安サービス活用のススメ
  9. カラッシュ付加反応 Kharasch Addition
  10. ⽔を嫌う CH₃-基が⽔をトラップする︖⽣体浸透圧調整物質 TMAO の機能溶液化学を、分⼦間相互作⽤の時空間精細解析で解明

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2012年12月
 12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930
31  

注目情報

最新記事

創薬懇話会2025 in 大津

日時2025年6月19日(木)~6月20日(金)宿泊型セミナー会場ホテル…

理研の研究者が考える未来のバイオ技術とは?

bergです。昨今、環境問題や資源問題の関心の高まりから人工酵素や微生物を利用した化学合成やバイオテ…

水を含み湿度に応答するラメラ構造ポリマー材料の開発

第651回のスポットライトリサーチは、京都大学大学院工学研究科(大内研究室)の堀池優貴 さんにお願い…

第57回有機金属若手の会 夏の学校

案内:今年度も、有機金属若手の会夏の学校を2泊3日の合宿形式で開催します。有機金…

高用量ビタミンB12がALSに治療効果を発揮する。しかし流通問題も。

2024年11月20日、エーザイ株式会社は、筋萎縮性側索硬化症用剤「ロゼバラミン…

第23回次世代を担う有機化学シンポジウム

「若手研究者が口頭発表する機会や自由闊達にディスカッションする場を増やし、若手の研究活動をエンカレッ…

ペロブスカイト太陽電池開発におけるマテリアルズ・インフォマティクスの活用

持続可能な社会の実現に向けて、太陽電池は太陽光発電における中心的な要素として注目…

有機合成化学協会誌2025年3月号:チェーンウォーキング・カルコゲン結合・有機電解反応・ロタキサン・配位重合

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2025年3月号がオンラインで公開されています!…

CIPイノベーション共創プログラム「未来の医療を支えるバイオベンチャーの新たな戦略」

日本化学会第105春季年会(2025)で開催されるシンポジウムの一つに、CIPセッション「未来の医療…

OIST Science Challenge 2025 に参加しました

2025年3月15日から22日にかけて沖縄科学技術大学院大学 (OIST) にて開催された Scie…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー