ベータラクタム系抗生物質耐性菌にNOをたたきつける!
魔法の弾丸(magic builet)と言えば、ひそかにペニシリンの別名としても知られています。ペニシリンは、細菌細胞壁をかたちづくるペプチドグリカンと呼ばれる高分子の、生合成酵素を標的とした天然化合物です。特徴的なラクタム四員環を持つ類縁体がひとの手で合成され、抗生物質として汎用されてきました。
最近になって、ダブルドラッグの手法を用いることで、従来の耐性菌にも効くように設計し直され、再び注目を集めています。さながら、映画館のスクリーンで二丁拳銃の殺陣シーンを見ているかのような、病原菌を抹殺するクールな手際を紹介します。
二丁拳銃と言えば、とりわけカート・ウィマー監督『リベリオン』。作中で登場する近接戦闘術「ガン=カタ」のシーンは必見です。この戦闘武術の使い手は、大人数で取り囲まれても物怖じしません。敵役はばったばったと倒されていきます。
これに対して、抗生物質のペニシリンはどうかというと、敵となる病原菌すべてを倒しきることができません。どうしても生き残りが出てしまいます。ペニシリンはじめラクタム四員環を分解してしまう酵素を持つやっかいな細菌がいるのです。ラクタム四員環を開裂されてしまうと、もう生理活性は望めません。臨床上は、分解酵素の阻害剤を同時投与して対応するのですが、副作用のことなど考えるとかなりまわりくどい方法です。
ここで考えましょう。分解酵素があるところに、敵となる細菌もあり。耐性を逆手にとって薬物送達に利用できないだろうか。このような発想で、一酸化窒素の前駆体と結合させたラクタム系抗生物質が新たに合成されました[1]。からくりはこうです。ラクタム四員環を開裂しようとすると、活性酸素の1種である一酸化窒素(NO)が2分子発生して、細菌を傷みつけます。もともと不安定な化学種であり薄まってしまえば、ヒトでも細菌でも一酸化窒素はほとんど効きません。ラクタム四員環の分解酵素がただよう細菌の繁殖現場でしか、作用しないのです。分解されずそのままでもペプチドグリカン合成酵素を阻害するし、分解されてしまっても一酸化窒素を出す。二丁拳銃をほうふつとさせる臨機応変な戦闘スタイルでしょう。
細菌細胞壁をかたちづくるペプチドグリカンの生合成酵素を標的としたペニシリンは、分子標的と活性制御を目指した化学の一大分野において、ひとつの大きな金字塔です。スマートに設計し直されて、活躍の見込みは、どうやらまだまだ広がっていくことでしょう。
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