[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

ウーロン茶の中でも医薬品の化学合成が可能に

[スポンサーリンク]

 

衝撃の写真を見直すと、やはり「ウーロンちゃ」と書かれています、はい。途中をすっ飛ばして(!)要点だけ言ってしまうと「亜鉛化合物を入れるとおクスリができちゃう」というお話です(画像:論文[1]より転載)。

烏龍茶亜鉛ミネラルのサプリメントの組み合わせで健康に」というお話ではないので、念のため。

 

生物に共通した成分で言えば、DNAに含まれるアデニングアニンシトシンチミンはもちろんのこと、アミノ酸のヒスチジントリプトファンをはじめ、いろいろな窒素含有の複素芳香族化合物が、生体内には存在します。それだけではなく、わたしたちのからだではたらく酵素や受容体タンパク質がうっかり取り違えて毒性を発揮するようにと、特別な種類の生き物にしか存在しない天然化合物を思い出しても、生理活性を持つ窒素含有の複素芳香族化合物が多種多様に知られています。これらをリード化合物とした医薬品もまた多数開発されており、含窒素複素芳香環はよく登場する構造のひとつです。

今回[1]、新たに開発されたところによると、このような複素芳香環へ自由自在にアルキル基やフルオロアルキル基を導入できるようになったとのこと。ハロゲン原子であるとか、ボロニル基であるとか、足場を作るための煩雑な下準備は必要なく、C-H活性化でズバンと一撃で入れられます。トリフルオロメチル基でも、ジフルオロメチル基でも、モノフルオロメチル基でも、かなりのレパートリーを取りそろえ、なんでもござれ状態です。

決め手は、亜鉛スルフィン酸塩(zinc sulphinate salt)。これはジーンるチョイスですね、亜鉛(zinc)だけに。

さて、冒頭の話題に戻って、なぜ烏龍茶が登場したのかと言えば、「どんな溶媒でも反応が進みますよ」というデモンストレーションのようです。烏龍茶で大丈夫ならば、緑茶や紅茶はもちろんのこと、土の中でも、水の中でも、酸素の中でも、細胞抽出物の中でも、あの娘のスカートの中でも、大丈夫でしょう、きっと。

ウーロン茶の中で「も」化学合成が可能に ― いわんや反応に最適な溶媒を選べてをや

医薬品のたまごとなるシード化合物の構造展開が、このおかげでスピードアップできたら素敵ですね。

 

参考論文

  1. “Practical and innate carbon–hydrogen functionalization of heterocycles.” Yuta Fujiwara et al. Nature 2012 DOI: 10.1038/nature11680

 

関連書籍

[amazonjs asin=”4121005961″ locale=”JP” title=”茶の世界史―緑茶の文化と紅茶の社会 (中公新書 (596))”][amazonjs asin=”4418063013″ locale=”JP” title=”おいしいお茶の基本―日本茶・紅茶・ハーブティー・中国茶・コーヒー (特選実用ブックス)”]
Avatar photo

Green

投稿者の記事一覧

静岡で化学を教えています。よろしくお願いします。

関連記事

  1. 2007年度イグノーベル賞決定
  2. varietyの使い方
  3. ケムステ10年回顧録― 副代表版
  4. メソポーラスシリカ(3)
  5. (-)-ナカドマリンAの全合成
  6. コーヒーブレイク
  7. 可視光光触媒でツルツルのベンゼン環をアミノ化する
  8. 有機合成化学協会誌2021年9月号:ストリゴラクトン・アミド修飾…

注目情報

ピックアップ記事

  1. マテリアルズ・インフォマティクスの導入・活用・推進におけるよくある失敗とその対策とは?
  2. マイヤース 不斉アルキル化 Myers Asymmetric Alkylation
  3. Biotage Selekt+ELSD【実機レビュー】
  4. JAMSTEC、深度1万900mに棲むエビから新酵素を発見 – バイオ燃料応用に期待
  5. マット・フランシス Matthew B. Francis
  6. 窒素 Nitrogen -アミノ酸、タンパク質、DNAの主要元素
  7. 日本国際賞受賞者 デビッド・アリス博士とのグループミーティング
  8. エドウィン・サザン Edwin M. Southern
  9. 蒸発面の傾きで固体膜のできかたが変わる-分散液乾燥による固体膜成長プロセスの新たな法則を発見-
  10. 超高速レーザー分光を用いた有機EL発光材料の分子構造変化の実測

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2012年12月
 12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930
31  

注目情報

最新記事

第12回慶應有機化学若手シンポジウム

概要主催:慶應有機化学若手シンポジウム実行委員会共催:慶應義塾大学理工学部・…

新たな有用活性天然物はどのように見つけてくるのか~新規抗真菌剤mandimycinの発見~

こんにちは!熊葛です.天然物は複雑な構造と有用な活性を有することから多くの化学者を魅了し,創薬に貢献…

創薬懇話会2025 in 大津

日時2025年6月19日(木)~6月20日(金)宿泊型セミナー会場ホテル…

理研の研究者が考える未来のバイオ技術とは?

bergです。昨今、環境問題や資源問題の関心の高まりから人工酵素や微生物を利用した化学合成やバイオテ…

水を含み湿度に応答するラメラ構造ポリマー材料の開発

第651回のスポットライトリサーチは、京都大学大学院工学研究科(大内研究室)の堀池優貴 さんにお願い…

第57回有機金属若手の会 夏の学校

案内:今年度も、有機金属若手の会夏の学校を2泊3日の合宿形式で開催します。有機金…

高用量ビタミンB12がALSに治療効果を発揮する。しかし流通問題も。

2024年11月20日、エーザイ株式会社は、筋萎縮性側索硬化症用剤「ロゼバラミン…

第23回次世代を担う有機化学シンポジウム

「若手研究者が口頭発表する機会や自由闊達にディスカッションする場を増やし、若手の研究活動をエンカレッ…

ペロブスカイト太陽電池開発におけるマテリアルズ・インフォマティクスの活用

持続可能な社会の実現に向けて、太陽電池は太陽光発電における中心的な要素として注目…

有機合成化学協会誌2025年3月号:チェーンウォーキング・カルコゲン結合・有機電解反応・ロタキサン・配位重合

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2025年3月号がオンラインで公開されています!…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー