最近、Hinsgaulのグループから、糖転移酵素のドナー分子の簡単な合成法が報告されました。
この報告によって、酵素反応の得意な高い立体選択性だけでなく、高い位置選択性を有する酵素触媒配糖化反応が可能になることが期待されます。
研究場所は海外ではありますが、この研究は2名の日本人研究者が関わっています。数多くの糖転移酵素をクローニングしてきた日本。これを機に糖転移酵素を用いる糖鎖合成法の急速な発展に期待したいところです。
新しく提案された、糖ヌクレオチドの簡単な合成法
酵素触媒糖鎖合成、と言えば、たいていの場合、加水分解酵素の独壇場です。なぜなら、加水分解酵素は安価で入手可能な物が多く、しかも、触媒としての安定性が優れています。
さらに、基質の入手が容易なことが多いので、こりゃ、合成化学にはうってつけなのです。しかし、生体内では転移酵素が糖鎖合成の役割のほとんどを転移酵素が担っているはずです。
なのに何故それを使わないのか、いえいえ、使われることはあるんです。でも・・・。
加水分解酵素愛用者は、転移酵素が使われない理由を、以下のように一言で片付けてしまうのです。
・・・・・・・・・・・【酵素/基質ともに入手が困難】・・・・・・・・・・・
確かに転移酵素は高いです。また、糖ドナーと呼ばれる糖ヌクレオチドは高価ですし、合成も大変。
こんなことを言われてしまうので、あんまり手を出す人がいないのが現状です。
でも、こんな現状に一矢報いる論文が報告されたんです。
Angew. Chem. Intl. Ed., in press, DOI: 10.1002/anie.201205433
この報告の味噌は元々は加水分解酵素の糖ドナーを簡便に合成する試薬として報告された、2-chloro-1,3–dimethyl-2-imidazolinium chloride(通称DMC、大本はアミド/エステル形成ないしヒドロキシ基の置換反応のための試薬)から誘導された化合物である、ImImという試薬を用いることです。
リン酸を活性化させるのにイミダゾールが使われることがあるのですが、DMCから誘導されるImImを用いてリン酸にイミダゾールを導入するわけです。あとは、イミダゾールで活性化されたリン酸が縮合すればできあがりです。
具体的な反応機構は以下のようになります。
加水分解酵素関連に使われた試薬からヒントを得た、なんて言うのも良い巡り合わせでしょうか?
あとは、不安定な転移酵素をどのようにして汎用触媒化するかです。ミセルや細胞表層に固定化するか、はたまた、これを使った続報に期待したいところです。