[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

日本のお家芸、糖転移酵素を触媒とするための簡便糖ドナー合成法

[スポンサーリンク]

最近、Hinsgaulのグループから、糖転移酵素のドナー分子の簡単な合成法が報告されました。
この報告によって、酵素反応の得意な高い立体選択性だけでなく、高い位置選択性を有する酵素触媒配糖化反応が可能になることが期待されます。

研究場所は海外ではありますが、この研究は2名の日本人研究者が関わっています。数多くの糖転移酵素をクローニングしてきた日本。これを機に糖転移酵素を用いる糖鎖合成法の急速な発展に期待したいところです。

Wh000002.JPG

新しく提案された、糖ヌクレオチドの簡単な合成法

酵素触媒糖鎖合成、と言えば、たいていの場合、加水分解酵素の独壇場です。なぜなら、加水分解酵素は安価で入手可能な物が多く、しかも、触媒としての安定性が優れています。

さらに、基質の入手が容易なことが多いので、こりゃ、合成化学にはうってつけなのです。しかし、生体内では転移酵素が糖鎖合成の役割のほとんどを転移酵素が担っているはずです。

なのに何故それを使わないのか、いえいえ、使われることはあるんです。でも・・・。

加水分解酵素愛用者は、転移酵素が使われない理由を、以下のように一言で片付けてしまうのです。

 

・・・・・・・・・・・【酵素/基質ともに入手が困難】・・・・・・・・・・・

確かに転移酵素は高いです。また、糖ドナーと呼ばれる糖ヌクレオチドは高価ですし、合成も大変。

こんなことを言われてしまうので、あんまり手を出す人がいないのが現状です。

でも、こんな現状に一矢報いる論文が報告されたんです。

A simple synthesis of sugar nucleoside diphosphates by chemical coupling in water.
Tanaka, H., Yoshimura, Y., Jørgensen, M.R., Cuesta-Seijo, and Hindsgaul, O.

Angew. Chem. Intl. Ed., in press, DOI: 10.1002/anie.201205433

 

この報告の味噌は元々は加水分解酵素の糖ドナーを簡便に合成する試薬として報告された、2-chloro-1,3dimethyl-2-imidazolinium chloride(通称DMC、大本はアミド/エステル形成ないしヒドロキシ基の置換反応のための試薬)から誘導された化合物である、ImImという試薬を用いることです。

Wh000000.JPG

リン酸を活性化させるのにイミダゾールが使われることがあるのですが、DMCから誘導されるImImを用いてリン酸にイミダゾールを導入するわけです。あとは、イミダゾールで活性化されたリン酸が縮合すればできあがりです。

具体的な反応機構は以下のようになります。

Wh000003.JPG

加水分解酵素関連に使われた試薬からヒントを得た、なんて言うのも良い巡り合わせでしょうか?

あとは、不安定な転移酵素をどのようにして汎用触媒化するかです。ミセルや細胞表層に固定化するか、はたまた、これを使った続報に期待したいところです。

Avatar photo

あぽとーしす

投稿者の記事一覧

微生物から動物、遺伝子工学から有機合成化学まで広く 浅く研究してきました。論文紹介や学会報告などを通じて、研究者間の橋掛けのお手 伝いをできればと思います。一応、大学教員で、糖や酵素の研究をしております。

関連記事

  1. 多環式骨格を華麗に構築!(–)-Zygadenineの不斉全合成…
  2. クロスカップリング反応にかけた夢:化学者たちの発見物語
  3. SciFinder Future Leaders 2017: プ…
  4. 「科学者の科学離れ」ってなんだろう?
  5. 研究室でDIY!ELSD検出器を複数のLCシステムで使えるように…
  6. ワンチップ顕微鏡AminoMEを買ってみました
  7. Keith Fagnou Organic Chemistry S…
  8. アフリカの化学ってどうよ?

注目情報

ピックアップ記事

  1. 佐藤しのぶ ShinobuSato
  2. 地球外生命体を化学する
  3. 深共晶溶媒 Deep Eutectic Solvent
  4. 精密質量計算の盲点:不正確なデータ提出を防ぐために
  5. 呉羽化学、社名を「クレハ」に
  6. (+)-Pleiocarpamineの全合成と新規酸化的カップリング反応を基盤とした(+)-voacalgine Aおよび(+)-bipleiophyllineの全合成
  7. ブルース・ギブ Bruce C. Gibb
  8. 第47回「目指すは究極の“物質使い”」前田和彦 准教授
  9. 個性あるTOCその③
  10. 構造式の効果

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2012年10月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293031  

注目情報

最新記事

PythonとChatGPTを活用するスペクトル解析実践ガイド

概要ケモメトリクスと機械学習によるスペクトル解析を、Pythonの使い方と数学の基礎から実践…

一塩基違いの DNA の迅速な単離: 対照実験がどのように Nature への出版につながったか

第645回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院工学系研究科相田研究室の龚浩 (Gong Hao…

アキラル色素分子にキラル光学特性を付与するミセルを開発

第644回のスポットライトリサーチは、東京科学大学 総合研究院 応用化学系 化学生命科学研究所 吉沢…

有機合成化学協会誌2025年2月号:C–H結合変換反応・脱炭酸・ベンゾジアゼピン系医薬品・ベンザイン・超分子ポリマー

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2025年2月号がオンライン公開されています。…

草津温泉の強酸性硫黄泉で痺れてきました【化学者が行く温泉巡りの旅】

臭い温泉に入りたい!  というわけで、硫黄系の温泉であり、日本でも最大の自然温泉湧出量を誇る草津温泉…

ディストニックラジカルによる多様なアンモニウム塩の合成法

第643回のスポットライトリサーチは、関西学院大学理工学研究科 村上研究室の木之下 拓海(きのした …

MEDCHEM NEWS 34-1 号「創薬を支える計測・検出技術の最前線」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

医薬品設計における三次元性指標(Fsp³)の再評価

近年、医薬品開発において候補分子の三次元構造が注目されてきました。特に、2009年に発表された論文「…

AI分子生成の導入と基本手法の紹介

本記事では、AIや情報技術を用いた分子生成技術の有機分子設計における有用性や代表的手法について解説し…

第53回ケムステVシンポ「化学×イノベーション -女性研究者が拓く未来-」を開催します!

第53回ケムステVシンポの会告です!今回のVシンポは、若手女性研究者のコミュニティと起業支援…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー