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【速報】2012年ノーベル化学賞発表!!「Gタンパク質共役受容体に関する研究」

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ケムステでも大々的にFacebook連動予想企画を行ってきました化学賞、またもや見事に外しました・・・がっくし。栄えある受賞者は両者とも米国の研究者で、デューク大学のRobert J. Lefkowitz (ロバート・レフコビッツ)教授とスタンフォード大学のBrian K. Kobilka (ブライアン・コビルカ)教授の2人です。

うーん、当てるのはほんとうに難しいですね・・・特に生化学系のものとなると、専門外になってくることもあり、どうにも予想しにくいという。

しかし今年の受賞対象となったのは、「Gタンパク質共役受容体(G protein-coupled recepter, GPCR)」に関する研究について。

筆者のような門外漢でも少しは知識があるほどに有名な研究対象であり、生化学領域での「本命中の本命」と呼ぶにふさわしいものです。速報なので基本的な内容にとどまってしまいますが、簡単に解説してみたいと思います。

細胞膜受容体=外部刺激を細胞内部に伝える情報ステーション

細胞は脂質二重膜でぐるりと囲まれた構造をしています。これはいわゆる防御壁のような役割も担っているわけですが、このような壁に囲まれた細胞内部に、どうやって外部の情報が伝わっていくのか?―これは長い間科学者にとっての謎でした。

その答えは、「細胞膜表面に存在するタンパク質が、情報仲介ステーションの役割を担っている」ということであり、そのような働きをするタンパク質を受容体(receptor)と呼びます。

受容体は特定の化学物質(シグナル分子)が結合できる「穴」を持ち、それとの特異的結合を引き金として数々の化学反応を細胞内で進行させる機能を持ちあわせています。この連鎖的化学反応を通じて、情報が細胞内に伝達されます。こういった一連の化学反応群を、シグナル伝達経路と呼びます。これが最終的には、特定の機能をもったタンパク質の発現を促したり、マクロレベルでは生理現象を引き起こしたりしていくわけです。

例えば神経が活性化されると、シナプス末端からアセチルコリンと呼ばれる神経伝達物質が放出されます。アセチルコリン分子が細胞表面の受容体に結合すると、細胞内にシグナル伝達が引き起こされます。この化学反応の結果として、筋肉を収縮させたりといった生理現象が生じているわけです。

nobelprize_chemistry_2012_3.gif光・匂いなどの外部刺激に対する生理応答、また情動が引き起こす発汗などの不随意反応(意志に基づかない不合理な反応)のほとんどは、受容体からのシグナル伝達を介して発現してきます。

Gタンパク共役受容体(GPCR)とはなんぞや?

細胞膜受容体には多くの種類が知られていますが、そのうちもっとも大きな母集団を占めるものが、今回の受賞対象となったGタンパク共役受容体(GPCR)です。α-ヘリックスというらせん構造が、細胞膜(脂質二重膜)を内外に行ったり来たりしているという構造的特徴を有しています。7回それが繰り返されているので、「7回膜貫通型タンパク」という名称で呼ばれることもあります。

nobelprize_chemistry_2012_4.png

GPCRの構造(引用:Riken Research

GPCRは体内のありとあらゆる場所に分布しており、ホルモン・光反応・匂い物質など、様々な種類のシグナルを起点とした、多種多様な情報伝達を仲介する役割を担っています。例えば、光を感じてものを見るという視覚に関わるロドプシン、におい物質に作用する嗅覚受容体、さまざまな生理現象を司る神経伝達物質(アドレナリン、ヒスタミン、セロトニンetc)受容体などは、全てGPCRの仲間です。

細胞膜受容体は情報伝達を仲介していると述べましたが、GPCRの場合はこれをGタンパクと呼ばれるタンパク質を使って行なっているために、このような名前がつけられています(Gタンパクは「グアニンヌクレオチド結合タンパク質」の略称)。どのGPCRでも、その機構は概ね類似です。速報ですので詳細まで立ち入ることはしませんが、以下に大まかなしくみを示しておきます。

 

nobelprize_chemistry_2012_1.png

(ノーベル化学賞プレスリリースより引用して改変)

薬物標的として重要なGPCR

GPCRの機能を人工的に調節することができれば、細胞内の情報伝達プロセスに影響を与えることができます。このような機能をもつ化合物は、多くの疾病に有効な医薬品となります。

以下に代表的なGPCRの種類と、阻害/亢進薬の作用例を挙げておきます。GPCRの多様性と相まって、実に既存の医薬品の約半数もが、何らかの形でGPCRの機能に影響を及ぼす形で薬理作用を示すものになっています。つまりGPCRは薬物標的として最重要な位置づけにあるのです。

nobelprize_chemistry_2012_5.gif

これら医薬品のメカニズムを調べ、新たな医薬品開発につなげていく為には、標的タンパクの構造を知ることがとても重要になります。3次元構造が分かれば、それを元にしたドッキングスタディなどをコンピュータ上で行えるため、どんな形状の化合物が医薬候補たり得るのか当てを付けたり、短時間で網羅的に可能性を調べることもできるようになるからです。

受賞者の業績

今年のノーベル化学賞は、前述したようにハワード・ヒューズ医科研究所/デューク大のロバート・レフコヴィッツ、スタンフォード大のブライアン・コビルカ両名に授与されました。

彼らはβアドレナリン作動性受容体を単離し、作用機構の解明、コードする遺伝子の同定を行いました。新たに分かった遺伝子配列は、体内各所に存在する受容体のコード配列と酷似しており、それぞれが構造的相同性を高く持っていることがわかりました。

この解明をきっかけとして、身体の中で別の場所にあるはずの受容体が、同じような構造・機構で働いているのではないかという統合的理解が促されることとなります。これがすなわち、現代で言うところのGPCRだったわけです。これまでに、実に1000種類を超えるGPCRが発見されてきています。

2011年にはコビルカらによって、GPCRがGタンパクを活性化させているまさにその瞬間の構造が解かれ、世界を驚かせました。そもそも膜タンパク自体、結晶化が大変に難しいものなのですが、加えてこれほどまでに複雑な複合体の解析を成し遂げてしまったこと自体、創造を絶する偉業という他ありません。

nobelprize_chemistry_2012_2.png

(ノーベル賞プレスリリースより引用して改変)

おわりに

過去に化学賞を授与された生化学研究は、結晶構造解析を武器とした生命現象へのアプローチを主軸とした研究が多いように見受けられます。X線結晶構造解析が物理化学領域に属する技術であること、その解析対象は生命ではなく、タンパク質やリガンドなどの有機分子であること、最先端の分析化学技術を活用しなければ、このような切り口からの生命現象解明はありえないことなどが、おそらく勘案されてのことでしょう。

一方で医学生理学賞は、「生体機能」の解明を焦点とした研究を選定しているように見受けられます。要するに生命現象に関わる化学物質の構造がわからなくとも、常識をくつがえすような生命現象を見つけてしまった人に与えられる賞のようです。

Gタンパクの機能解明研究には、既に1994年のノーベル医学生理学賞が授与されています。しかし今回の受賞は化学賞となっています。Gタンパクそのものではなく、それを活性化する側の「受容体(GPCR)」に関する研究、それも構造化学的貢献が大きく評価されたため、そういう選定になったのではないかと個人的には推測しています。

GPCRに関する研究は、医薬品の開発促進に多大なインパクトを与えた素晴らしいものであり、ノーベル賞に十分資する研究の一つであることは間違いありません。今年もまた邦人受賞者が先送り(?)になってしまったのは少し残念ではありますが、国籍などといった瑣末なことを問題とせず、人類すべての福祉向上に貢献を果たした歴史的業績を、純粋に称える機会とするのがよいと思います。

受賞者のみなさん、おめでとうございました!!!

P.S. 冒頭に記したように「2012年ノーベル化学者は誰の手に?」キャンペーン(見事当てた方にはAmazonギフト券3000円をプレゼント)の当選者はいませんでした。来年にキャリーオーバーしたいと思います。来年もお楽しみに!

 

参考文献・リンク

 

細胞の分子生物学 細胞の分子生物学
Bruce Alberts,Julian Lewis,Martin Raff,Peter Walter,Keith Roberts,Alexander Johnson,中村 桂子,中塚 公子,宮下 悦子,松原 謙一,羽田 裕子,青山 聖子,滋賀 陽子,滝田 郁子ニュートンプレス
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レフコヴィッツ教授による講義:Part I : 7回膜貫通型受容体

レフコヴィッツ教授による講義:Part 2 : βアレスチン

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cosine

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博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

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