[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

アルドール・スイッチ Aldol-Switch

[スポンサーリンク]

 

ポリフェノールの一種であるresveratrolに食品アレルギー予防効果があるという記事を先日ケムステニュースで紹介しました。

ケムステニュース 「ポリフェノールに食品アレルギー予防効果」

 

ところで、このresveratrol、植物ではどのように生合成されているのでしょうか?

 

今回は、resveratrol生成に関わるstilben synthase(STS)の反応機構について紹介してみたいと思います。

 

resveratrolは、赤ワインに豊富に含まれるポリフェノールです。天然では、p-coumaloyl-CoAmalonyl-CoAを原料としてstilben synthase(STS)という酵素により生合成されています。

pathway.gif

 

stilbene synthase(STS)は、type III PKSという酵素に属しています。type III PKSは、KSドメインのみを持つPKSです。stilbene synthase(STS)は、同じくtype III PKSであるカルコン合成酵素Chalcone Synthase (CHS)とアミノ酸レベルで75?90%という高い相同生を持ちます。どちらの酵素も同じ基質からtetraketide中間体を生成しますが、2つの酵素で環化様式が異なるため、異なる生成物を生み出します。

 

では、なぜ環化様式が異なるのでしょうか?

 

酵素の反応機構を知るにはX線結晶構造を見るのが一番です。結晶構造を見てみましょう!

 

structure.gif

上の図は、CHSの結晶構造です。CHSはホモダイマーを形成しています。図Aの赤い四角のところが活性部位です。図Bが活性部位のアミノ酸残基を表しています。STSもほぼ同じ結晶構造をしています。type III PKSでは、164番目のCystein、303番目のHistidine、336番目のAsparagineで、Cys-His-Asnのcatalytic triadを形成しています。

(type III PKSは非常に良く研究されており、酵素キャビティを構成する一つ一つのアミノ酸残基について役割が調べられているのですが、今回は紙面の都合上説明を省略します。)

 

condensation mechanism.png

type III PKSの酵素反応機構は上図に示すようになっております。

まず、開始基質(p-coumaloyl-CoA)が酵素活性部位に取り込まれCys上にロードされます。その後、伸長基質であるmalonyl-CoAが脱炭酸を伴い開始基質に縮合されます。この縮合反応の繰り返しによりポリケト鎖が伸長されていきます。

tetra ketide中間体ができた後の環化反応ですが、CHSではC6→C1Claisen-typeの環化が起きるのに対し、STSではC2→C7Aldol-typeの環化が起きています。

なぜ環化様式にこのような違いが生じるのでしょうか?

 

その答えは、CHSSTSの結晶構造を比較すれば分かります。

 

Aldol switch.png

図 灰色:CHS,  緑:STS

CHSとSTSの結晶構造を比べたところ、数カ所のアミノ酸残基で違いが見られました。変異実験などの結果により、132番目Threonin残基の位置が非常に重要であることが分かりました。(上図(B)参照)

STSでは、T132E192S338の3残基で水で水素結合ネットワークを形成しており、これは’’アルドールスイッチ’’として知られています。(上図D参照)

 

active site.gif

アルドールスイッチは水分子を活性化し、水分子の求核攻撃によりtetra ketide中間体と酵素とのチオエステル結合を切断します。CHSでは、T132と水分子との距離が遠いため水分子を活性化できないようです。

 

 

CHS STS mechanism.png

 

以上説明したように、たった一残基のアミノ酸の違いで、反応様式がガラッと変わってしまうのです。酵素の反応機構を研究していると、反応制御の精巧さに驚かされます。

 

参考論文

  • ’’An Aldol Switch Discovered in Stilbene Synthases Mediates Cyclization Specificity of Type III Polyketide Synthases’’ Michael B. Austin, Marianne E. Bowman, Jean-Luc Ferrer, Joachim Schroder, and Joseph P. Noel Chemistry & Biology, Vol. 11, 1179–1194 (2004) DOI 10.1016/j.chembiol.2004.05.024
  • ’’Structure and function of the chalcone synthase superfamily of plant type III polyketide syntheses’’ Ikuro Abe and Hiroyuki Morita Nat. Prod. Rep., 2010, 27, 809–838 | 809  DOI: 10.1039/b909988n
Avatar photo

ゼロ

投稿者の記事一覧

女の子。研究所勤務。趣味は読書とハイキング ♪
ハンドルネームは村上龍の「愛と幻想のファシズム」の登場人物にちなんでま〜す。5 分後の世界、ヒュウガ・ウイルスも好き!

関連記事

  1. 国内最大級の研究者向けDeepTech Company Crea…
  2. 2/17(土)Zoom開催【Chem-Station代表 山口氏…
  3. 最近の金事情
  4. 2022年度 第22回グリーン・サステイナブル ケミストリー賞 …
  5. 金属原子のみでできたサンドイッチ
  6. 第48回ケムステVシンポ「ペプチド創薬のフロントランナーズ」を開…
  7. 室温で緑色発光するp型/n型新半導体を独自の化学設計指針をもとに…
  8. アゾ重合開始剤の特徴と選び方

注目情報

ピックアップ記事

  1. ボロン酸触媒によるアミド形成 Amide Formation Catalyzed by Boronic Acids
  2. シンクロトロンで実験してきました【アメリカで Ph.D. を取る: 研究の非日常の巻】
  3. 環歪みを細胞取り込みに活かす
  4. 「新規高活性アルコール酸化触媒 nor-AZADOの有用性」 第1回 Wako 有機合成セミナー オンデマンド配信を開始! 富士フイルム和光純薬
  5. 建石寿枝 Hisae Tateishi-Karimarta
  6. 科学警察研究所
  7. 「2010年トップ3を目指す」万有製薬平手社長
  8. シリンドロシクロファン生合成経路の解明
  9. Elsevierのニッチな化学論文誌たち
  10. リチウムイオンに係る消火剤電解液のはなし

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2012年9月
 12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930

注目情報

最新記事

第11回 野依フォーラム若手育成塾

野依フォーラム若手育成塾について野依フォーラム若手育成塾では、国際企業に通用するリーダー…

第12回慶應有機化学若手シンポジウム

概要主催:慶應有機化学若手シンポジウム実行委員会共催:慶應義塾大学理工学部・…

新たな有用活性天然物はどのように見つけてくるのか~新規抗真菌剤mandimycinの発見~

こんにちは!熊葛です.天然物は複雑な構造と有用な活性を有することから多くの化学者を魅了し,創薬に貢献…

創薬懇話会2025 in 大津

日時2025年6月19日(木)~6月20日(金)宿泊型セミナー会場ホテル…

理研の研究者が考える未来のバイオ技術とは?

bergです。昨今、環境問題や資源問題の関心の高まりから人工酵素や微生物を利用した化学合成やバイオテ…

水を含み湿度に応答するラメラ構造ポリマー材料の開発

第651回のスポットライトリサーチは、京都大学大学院工学研究科(大内研究室)の堀池優貴 さんにお願い…

第57回有機金属若手の会 夏の学校

案内:今年度も、有機金属若手の会夏の学校を2泊3日の合宿形式で開催します。有機金…

高用量ビタミンB12がALSに治療効果を発揮する。しかし流通問題も。

2024年11月20日、エーザイ株式会社は、筋萎縮性側索硬化症用剤「ロゼバラミン…

第23回次世代を担う有機化学シンポジウム

「若手研究者が口頭発表する機会や自由闊達にディスカッションする場を増やし、若手の研究活動をエンカレッ…

ペロブスカイト太陽電池開発におけるマテリアルズ・インフォマティクスの活用

持続可能な社会の実現に向けて、太陽電池は太陽光発電における中心的な要素として注目…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー