研究に関わる皆さんは、いつから"研究"を始めましたか。
多くの人が、大学や高専で研究室に配属されてからでしょう。なかには高校の化学部で研究を行っていた方もいることでしょう。高校の理数科などで、課題研究を授業で行った経験があるかもしれません。
私の場合も、早くから化学に興味を持ち、高校生の頃から研究に携わってきました。しかし、部活や理数科ではなくSSHクラスという少し変わったクラスの中で研究を体験していました。そのSSHが今回紹介する未来の科学者を育てる政策です。
- SSHとは?
SSHは、文部科学省が科学技術や理科・数学教育を重点的に行う高校を指定する制度[1]のことです。この制度は2002年度から始まり現在は150を超える高校が指定を受けてきました。指定校になると理数教育のために高価な実験機器の購入や大学の先生の講演、海外研修の費用を支援してくれます。また、SSH指定校が集まって発表会を行い生徒同士が研究について切磋琢磨します。
どのようなことをやるかは高校ごとに異なりますが、多くの高校が、課題研究を活動のメインとしています。ちなみに私の高校の場合、特別なクラス(SSHクラス)の中で課題研究はもちろんのこと、科学英語の勉強や発表会への参加、研究所見学を普通の授業に加えて行っていました。
SSHの役割(文部科学省の資料から転載[2])
- 私の体験談
私は、高校の三年間の中でSSH関連の活動にかなり力を入れました。具体的には、高校2年から3年の夏まで光触媒について研究を行い、最後に口頭発表を行いました。課題研究以外にも企業の研究所を訪問したり、授業ではやらない実験を体験しました。大学受験ではこのSSHでの実績を生かしてAO入試で入りました。現在は修士課程2年でバリバリ研究をやっていますが、研究のやり方を知っているので多少なりとも他の学生よりもアドバンテージを持って研究を進めることが出来たと思っています。今振り返れば普通の部活とは全然違う、大変貴重な体験(高級ホテルに泊まれるなどのオイシイ体験も含めて)が出来たことは良かったと思っています。
機器の価格が非常に高いので高校において最新の化学実験を行うことは困難です。しかし、このSSHによって最新の機器を購入することができ、例えば私の高校では、液クロ、UV-Vis、マッフル炉、エバポレーターなどをがそろっていました。その他にもガスクロやSEMを購入した高校も知っています。このように大学並みの設備によって最新の研究に携わることができました。
- 活躍する高校生
私は大した結果を残せたわけではありませんが、このSSHを活用した高校生が面白い研究成果を発表しています。例えば、研究結果がJournal of Physical Chemistry Aに載った例はケムステでも紹介されました。また、特許出願までに至った事例もあるようです。国際的な学会や科学オリンピックでもSSH指定校の生徒が成果を上げています。また、SSH指定校になると大学の進学実績が良くなることも報告されています。もちろんその後、大学の研究室に入り、素晴らしい成果を出している人もたくさんいます。このように、このSSHが色々な所に影響[3]を与えているようです。
- 科学者をいかに育てるか
このSSHについてはいろいろと批判もあり、指定校にだけ予算を配分するのは教育の機会均等の観点から好ましくないという声もあります。しかし、前述の通り成果が確実に出ています。また、このような貴重な体験をしてきた生徒を受け入れるプログラムを用意している大学もあります。ですから、一人でも多くの生徒がSSHで最先端の科学に触れて科学者になることを目指してほしいと思います。国としても最先端の研究の支援だけでなくこのSSHを含めて科学者を育てる事業も拡張してほしいものです。
もしも、みなさんの研究室にすごく研究ができる新入生が入ってきたら、その人はSSHで鍛えあげられた学生かもしれませんね。
- 参考資料