[スポンサーリンク]

一般的な話題

Reaxys Prize 2012受賞者決定!

[スポンサーリンク]

 

 

5月末に発表された世界の有機化学、無機化学分野における45名の「精鋭」たち(前回の記事はこちら)。Reaxys Ph. D. Prizeは博士課程に在籍しているもしくは1年以内に博士を取得した学生に与えられる国際賞です。350通以上の応募のうち、この最終選考に残った45名、その中からたった3名今年のReaxys Ph.D. Prize受賞者が選ばれます。そして先日、栄えある受賞者が決定しました!以下の3名です!

 

  Debashsi Mandal (Nagoya University)

Gregory Hamilton (UC Berkeley)

Craig Stivala  (UC Santa Barbara)

 

おめでとうございます!受賞者にはACSMeetingの招待講演、$1500以上の渡航費補助、$2000のお小遣いが与えられます。幸運にも筆者の学生も受賞者3名に食い込むことができました。それでは今回もそれぞれの受賞者のお仕事を詳細に紹介しましょう。

Mr. Debashis Mandal

ishot-91.png

受賞論文

“Synthesis of Dragmacidin D via Direct C–H Couplings”

J. Am. Chem. Soc., 2011, 133, 19660–19663. DOI: 10.1021/ja209945x

ja-2011-09945x_0004.gif

 

何を隠そう、筆者のはじめての博士課程の学生です。宗教上の理由などで仕方がないことではありますが、インド人は食べれないものが多かったり、お酒も飲めない人もいるなか、彼はなんでも食べる、飲む、受け入れる、ちょっと酔っ払うと厄介ですが、とってもよくできる学生です。当時一番やりたかった芳香環直接連結反応を駆使したdragmacidin Dの全合成研究に携わってもらいました。ゼロからの反応開発からはじめなければならなかったので、苦労しましたが、なんとか2年ほどでまとめ上げることができました。ファイナリストには残ると期待していましたが、まさか受賞できるとは思っていなかったので、嬉しい限りです。彼は今年の秋にPh.Dを取得する予定で、その後スクリプス研究所のK. C. Nicolaou教授の元で博士研究員を行なうことが決まっています。アカデミック志望でできれば日本でポジションをと考えています。G30プログラムなどで大学の国際化が進んでいる今後、日本でPh.Dを所得したアジア系の博士として重宝されてほしいものです。ぜひよいお話があればよろしくお願い致します。

 

Dr. Gregory Hamilton, Ph. D.

ishot-92.png

受賞論文

“A Powerful Chiral Counterion Strategy for Asymmetric Transition Metal Catalysis”

Science ,2007, 317, 496-499  DOI:10.1126/science.1145229

 2007年、金触媒を用いた反応において、キラルなカウンターアニオンを用いると、高い不斉収率で生成物が得られる反応をみつけました。これまで、金属の対イオン(カウンターイオン)をキラルなものを用いて、高い不斉収率を発現させた例はほとんどありませんでした。カリフォルニア大学バークレー校で金触媒を用いた有機合成反応で最近名をはせているToste教授らはAu触媒を用いたアレーンのヒドロアルコキシ化反応において、対アニオン(カウンターアニオン)としてキラルなホスフェート触媒を用いる、つまりキラルな対イオンを用いて不斉を発現することに成功したのです。(過去のケムステ記事「遷移金属の不斉触媒作用を強化するキラルカウンターイオン法」より)

本筆頭著者である、Hamilton博士は、2011年に博士号を取得し現在はカルフォニア大学サンフランシスコ校のKevan Shokat研究室で博士研究員をしています。どうやら、少し分野を変えてみたいのか、経験としてもしくは今後アカデミックポジションを取り新しい独自の研究を行なうために知識を得たいのかわかりませんが、分野を変えているようです。受賞論文は内容が少し古いものの、金属触媒を用いた不斉触媒反応において、新しい概念を与えたことは疑いの無いことだと思います。

 

Mr. Craig Stivala

ishot-93.png

受賞論文

“Highly Enantioselective Direct Alkylation of Arylacetic Acids with Chiral Lithium Amides as Traceless Auxiliaries”

J. Am. Chem. Soc., 2011, 133, 11936–11939 DOI: 10.1021/ja205107x

ja-2011-05107x_0007.gif

キラルリチウムアミドを用いたとα-アリール酢酸の直接的不斉アルキル化反応の開発が受賞理由です。一見、ありそうな反応ですが不斉補助基を必要とせず、カルボン酸のままでカルボニル基のα位の不斉アルキル化を行いました。キログラム合成にも対応できるそうです。指導教授のカリフォルニア大学サンタバーバラ校のZargarian教授は複雑な天然物合成でも有名ですが、今回の受賞者であるStivala氏はこの反応開発の他に非常に構造が困難なピンナトキシン類の全合成を含む10報近くの論文に関わっており素晴らしいプロダクティビティをもっています。未だ学生のようで、今後どうするのか楽しみですね。

というわけで、第三回を迎えたReaxys Ph.D Prizeの受賞者を簡単に紹介しました。後日、受賞者のインタビューも予定しているそうです。やはり今回も有機化学に偏ってしまったのは残念なところですが、応募の数と審査員からみたら仕方がないのかもしれません。最後は圧倒的でない場合ほぼ審査員の好みで決まってしまいますから。ちなみに気になる受賞者の行方ですが、ちょっと調べてみました。

第一回目の受賞者Thomas Maimone博士(Baran研)は著者の友人ですがBachwald研究室でのポスドクを経て、今年からカリフォルニア大学バークレー校でAssistant Professorとしてキャリアを始めています。宮村浩之博士は受賞時と同様に東京大学小林研究室の特定助教として受賞後も10報以上の論文を書いています。昨年一緒にあるカンファレンスをお手伝いさせていただきましてとっても良い方です。Robert Phipps博士は現在今回受賞したHamilton博士と同じToste研で博士研究員として活躍し、今年論文がでていました(DOI: 10.1021/ja303959p)。進路をどう考えているのかわかりませんが注目ですね。第二回目の受賞者に関しては未だ大きな動きはないようですが、今後に期待したいと思います。また、受賞まで行かなくともファイナリストにはなかなかタレント揃いで、行方をみているだけでも楽しいと思います。時間がありましたら「あの人は何処ヘ」と探してみてはいかがでしょうか。

それでは来年の第四回もお楽しみに!

Avatar photo

webmaster

投稿者の記事一覧

Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

関連記事

  1. 大学院生のつぶやき:第5回HOPEミーティングに参加してきました…
  2. 第98回日本化学会春季年会 付設展示会ケムステキャンペーン Pa…
  3. 【書籍】化学探偵Mr. キュリー
  4. レーザー光で実現する新たな多結晶形成法
  5. 会社説明会で鋭い質問をしよう
  6. 全フッ素置換シクロプロピル化試薬の開発
  7. カルボン酸からハロゲン化合物を不斉合成する
  8. 合成化学発・企業とアカデミアの新たな共同研究モデル

注目情報

ピックアップ記事

  1. 化学における特許権侵害訴訟~特許の真価が問われる時~
  2. メリフィールド ペプチド固相合成法 Merrifield Solid-Phase Peptide Synthesis
  3. Merck 新しい不眠症治療薬承認申請へ
  4. ケムステイブニングミキサー2016へ参加しよう!
  5. アルミニウム工業の黎明期の話 -Héroultと水力発電-
  6. アルカリ土類金属触媒の最前線
  7. ノーベル化学賞:下村脩・米ボストン大名誉教授ら3博士に
  8. 第27回ケムステVシンポ『有機光反応の化学』を開催します!
  9. ワートン反応 Wharton Reaction
  10. DIC岡里帆の新作CMが公開

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2012年6月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
252627282930  

注目情報

最新記事

MEDCHEM NEWS 34-1 号「創薬を支える計測・検出技術の最前線」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

医薬品設計における三次元性指標(Fsp³)の再評価

近年、医薬品開発において候補分子の三次元構造が注目されてきました。特に、2009年に発表された論文「…

AI分子生成の導入と基本手法の紹介

本記事では、AIや情報技術を用いた分子生成技術の有機分子設計における有用性や代表的手法について解説し…

第53回ケムステVシンポ「化学×イノベーション -女性研究者が拓く未来-」を開催します!

第53回ケムステVシンポの会告です!今回のVシンポは、若手女性研究者のコミュニティと起業支援…

Nature誌が発表!!2025年注目の7つの技術!!

こんにちは,熊葛です.毎年この時期にはNature誌で,その年注目の7つの技術について取り上げられま…

塩野義製薬:COVID-19治療薬”Ensitrelvir”の超特急製造開発秘話

新型コロナウイルス感染症は2023年5月に5類移行となり、昨年はこれまでの生活が…

コバルト触媒による多様な低分子骨格の構築を実現 –医薬品合成などへの応用に期待–

第 642回のスポットライトリサーチは、武蔵野大学薬学部薬化学研究室・講師の 重…

ヘム鉄を配位するシステイン残基を持たないシトクロムP450!?中には21番目のアミノ酸として知られるセレノシステインへと変異されているP450も発見!

こんにちは,熊葛です.今回は,一般的なP450で保存されているヘム鉄を配位するシステイン残基に,異な…

有機化学とタンパク質工学の知恵を駆使して、カリウムイオンが細胞内で赤く煌めくようにする

第 641 回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院理学系研究科化学専攻 生…

CO2 の排出はどのように削減できるか?【その1: CO2 の排出源について】

大気中の二酸化炭素を減らす取り組みとして、二酸化炭素回収·貯留 (CCS; Carbon dioxi…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー