さて大津会議の紹介記事に続きまして、実際に第二回大津会議に選出された参加者、藤田大士博士*に参加体験レポートを書いて頂きましたので紹介したいと思います。
経歴:東京大学大学院工学研究科(藤田研2012年卒)現在、日本学術振興会特別研究員(博士)(同大学院理学研究科菅研究室)
大津会議ープロローグ
ショッピングモールなんかに行くと、ガラス張りのエレベーターってありますよね。僕はあのシースルータイプのエレベーターが好きです。エレベーターが動き始める、あの「フワッ」という感覚。そして上昇と共に広がる視界。
「上からみると、こんな感じなんだー」
と、フロアを歩いているだけでは気付かない、小さな発見があったりします。
昨年10月に滋賀県の大津市で開催された「大津会議」。この会議に参加して僕が体験したことは、思えば、このシースルーエレベーターの体験にちょっと似ていたかもしれません。
大津会議?なんだそれ?
この、正直名前も聞いたことのなかったようなイベントに、僕が興味を持ち参加を申し込んだのは、実は極めて単純なミーハーな気持ちからでした。でもこのミーハーさ、皆様にもきっと理解して頂けると思います。なにしろ、この大津会議、そこに名を連ねる組織委員の面々は、
丸岡啓二|京都大学
山本尚|シカゴ大学
柴崎正勝|微生物化学研究所
鈴木國夫|名古屋産業科学研究所
と豪華な大御所ばかり。この名前を聞いたら、有機化学の分野に身を置く人間として、興奮せざるを得ないでしょう。これらの先生方が、「日本の化学界を率いる次世代のリーダーを育成しよう」と2010年に新しく立ち上げたのが、この大津会議です。
参照:〔対談〕「日本の化学」未来は明るいか? 山本 尚 vs. 柴﨑正勝 月刊化学Vol.67, pp12-17
通常の学会より応募するために少しだけ手間がかかりましたが、応募に必要な「研究概要」、「作文」、「推薦状」、「論文リスト」等を揃えて参加申込したのが、去年の夏前のこと。熱意が通じたのか、幸いにも16名のメンバーに入れて頂き、琵琶湖の湖畔、大津プリンスホテルへと乗り込む運びとなりました。
ありそうでなかった体験
博士課程も後半に差し掛かかり、後輩の指導等にも余裕が出てくると、いつからともなく、ちょっと「研究ができる」ようになった気がしてくるものです。僕自身も例外でなく、「このテーマ全然いまいちだなぁ」とか「これができたら面白いんじゃね?」などと、上から目線で偉そうなことを考えておりました。が、この「自分は色々とよく考えている」という不相応な自信は、大津会議で用意されたプログラムを前に、脆さを露呈してしまうことになります。
教授を始めとする研究室メンバーと、自分達の研究についてディスカッションすることは、皆様も日常的にやっていることですね。研究室によっては、研究プロポーザルを発表する機会も設けられているかもしれません。では、自分の研究の延長線上にないまったく新しいテーマ、これをしっかりとした形でプロポーザルし、本気でディスカッションしたことはありますか?
大津会議では、通常の研究発表(現在の研究)に加え、
「独立した助教ポストが得られた場合にやりたいプロジェクト」
という題目で、将来の研究について互いに発表し合います。皆が自信満々に発表する色とりどりなアイデア、それに対する様々な意見。ディスカッション中、組織委員の先生方が下さる思慮深いコメントもあり、非常に刺激的な時間でした。
「日本の学生には、研究プロポーザルを書く機会がほとんどない。だがアメリカでは、同世代の若者が、分厚いタイトな研究プロポーザルを書いてくる。もっとプロポーザルを書く機会を持って下さい。プロポーザルを書く機会を持つことで、論文を読む視点もまた新しいものになってきます。」
これは、シカゴ大の山本尚先生の言葉です。山本先生のご指摘通り、これまでを振り返れば人前で研究プロポーザルをし、評価される機会などまったくの皆無でした。大津会議という機会がなければ、この大事さに気付くこともなかったと思います。
さらに会議では、ラウンドテーブルディスカッションとして、
「20年後の有機合成化学」
「我が国が取るべき道」
の2つのテーマについて討論する機会も設けられています。これも予定されていた時間を大幅に超過するほど、議論は盛り上がりをみせました。今時の若者の一人としては若干の恥ずかしさもありましたが、こうしたトピックに正面から向き合う事で初めて、「自身の研究の立ち位置」、「化学の発展の方向性」、そしてこれに対し「自分がどのようなアプローチで研究を進めるか」など、頭の片隅で意識し始めることができるようになったと思っています。
「あぁ、この高さから物事を考えなくちゃいけないのか。」
まるでエレベーターが上昇した時のような視野の広がり。これが琵琶湖の湖畔で得られた何にも代えがたい経験です。
10年後、20年後の未来に向けて
「大津会議を一泊二日のイベントのみに終わらせるつもりはない。同窓生同士、仲間として、ライバルとして、互いに切磋琢磨できるコミュニティとして育てていく。」
この方針に基づき、参加者同士の継続的な交流を重視する点が、大津会議のもうひとつの特徴です。特に、同じ年の参加者同士の「横のつながり」だけではなく、歴代の参加者も含めた「縦のつながり」ができるよう、様々な工夫が凝らされています。
大津会議参加者にはそれぞれ会員番号が与えられ、名簿は毎年最新のものへと更新されます。この他にも、定期的に同窓会が開催される、会員限定のfacebookグループが作成されるなど、大津会議参加者間はもちろん、組織委員の先生方とも常に近い距離が保てる仕組みになっています。将来的には、大津会議会員だけが参加できるシンポジウムの開催など、現在進行形で様々なアイデアが検討されています。
このように、大津会議には「将来へと繋がる継続的な価値」を提供し続けて行こうという強い意志があります。大津会議が近い未来、有機化学界の中で存在感を増してゆくことは間違いないでしょう。個人的には、大津会議参加者の中から次々と有力な研究者が誕生し、大津会議が「若手の登竜門」と呼ばれる日も遠くないと確信しています。
化学の研究者を目指す熱い志を抱いている方、実験の繰り返しの毎日に何か新しい刺激が欲しい方、ぜひ大津会議への参加を検討してみてはいかがでしょうか?大津会議への参加が、あなたの将来に夢を実現するにあたり、何かの手助けになるかもしれません。
編集後記(ケムステ代表より)
以上、2つの記事に渡り大津会議の詳細および参加者からの体験レポートを紹介させていただきました。様々な意見があると思います。筆者としては我々の世代にはなかったこの新しい試みを羨ましく、そしてうれしく思います。化学は競争ではありません。しかし化学、研究に限らず、どの分野においても切磋琢磨できる仲間(ライバル)が必須であり、その存在が自分の120%の力を発揮させる、広い視野をもつきっかけとなる一助になる時が往々にしてあります。そんな化学における「類友」をつくることのできるこの会議にぜひチャレンジしていただきたいと思います。
応募〆切は6/15(金)ですのでお早めに!
余談ですが、この体験レポートを掲載するにあたり、どんな輩だこの野郎!(喧嘩売っているわけではないですよw)と勝手に思いまして、今年の「同窓会」の後の「2次会」に強引に乱入させていただきました。皆良い意味で活気があり、なによりも目が輝いていました。それだけで彼らのレベルの高さを理解し、満足させていただきました。