[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

ハリーポッターが参考文献に登場する化学論文

[スポンサーリンク]

なんちゃって『ハリーポッターと血の紋様』

 

小説『ハリーポッターと秘密の部屋』に登場する「リドルの日記」をご存知でしょうか。真っ白な無地のノートに見えて、リドルが過ごした日々について問いかける文章を書き込むと、返事の文章が浮かび上がるというファンタジックな魔法のアイテムです。

羽ペンに黒のインクをつけて書き込むわけではありませんが、この発想を真似て、血のインクを紙にしみこませると、血液型の返事が文字として浮かび上がるファンタスティックな紙が開発されました。掲載誌はどこかと言うと、化学専門誌でインパクトファクターがトップの「アンゲバンテ・ケミー」です。

しっかりばっちりハリー・ポッターが登場しているという、血液型が浮かび上がる紙の開発を報告した論文[1]はこちらです。

Paper-Based Blood Typing Device That Reports Patient’s Blood Type “in Writing”

Miaosi Li, Junfei Tian, Mohammad Al-Tamimi, and Wei Shen

Angewandte Chemie International Edition 2012  

この論文はオーストラリアにあるモナシュ大学(Monash University)の研究チームが発表したものです。コイルドコイル構造を持つタンパク質を新たに設計して、タンパク質材料の制御に取り組むなど、他にもいくつかの業績[2]があるところです。

 

論文の書き出しは次のようになっていました。

The British author, J. K. Rowling, presented a visionary idea in her novel “Harry Potter and the Chamber of Secrets” that one can interrogate a piece of paper for information and get unambiguous answers from the paper in writing.

日本語に翻訳しておくとこんな感じです。

イギリスの作家J.K.ローリング『ハリーポッターと秘密の部屋』は、書き込むことで情報をやりとりできる紙(おそらくリドルの日記のこと)のアイディアを示している。

このあとに、「これにインスパイアして実現しました」といった趣旨の文章が続いています。

ちゃんと、引用(reference)にも『ハリーポッターと秘密の部屋(Harry Potter and the Chamber of Secrets )』があります。

2015-11-29_14-39-03

論文[1]より

 

原理はと言うと、抗原抗体反応を使ったもので、単純な理屈です。高校生向けの大学入試問題にちょうどいいんじゃなかろうか、というくらいです。

血液型のうちABO式の分類は、赤血球の表面にある糖鎖のわずかな違いによります。わずかとは言え、抗体タンパク質ならば、この違いをはっきりくっきり識別できます。準備として、抗A抗体と抗B抗体を紙へ付着させます。また、Oの位置は最初から赤く印刷しておきます。ここに血液を垂らし、その後に洗い流すと、抗原抗体反応が起こったところだけ血液成分が残り、あたかも赤く文字が浮かび上がるかのようだ、という寸法です。

 

この研究、みなさんはどう思いますか。ユニークだと思いますか。それともアンゲバンデ・ケミ―らしい(よく皮肉される[3])典型的なおもしろペーパーでしょうか。

 

参考文献・ウェブサイト

  1.  “Paper-Based Blood Typing Device That Reports Patient’s Blood Type in Writing” Miaosi Li, Junfei Tian, Mohammad Al-Tamimi, and Wei Shen Angew. Chem. Int. Ed. 2012 DOI: 10.1002/anie.201201822
  2. “Tuning the erosion rate of artificial protein hydrogels through control of network topology” Wei Shen et al. Nature Marerials 2006 DOI: 10.1038/nmat1573
  3. The Perfect Papers For Each Journal

“An Actually Useful and Interesting Paper (We Reviewed This One, We Promise), Brought to You With a Wincing, Toe-Curling Pun in the Abstract”

“The First Plutonium-Plutonium Quintuple Bond. Who’s Going to Say It Isn’t?”
http://pipeline.corante.com/archives/2013/06/20/the_perfect_papers_for_each_journal.php

関連書籍

[amazonjs asin=”491551269X” locale=”JP” title=”ハリー・ポッターシリーズ全巻セット”][amazonjs asin=”B00FA7VLHY” locale=”JP” title=”【初回生産限定】ハリー・ポッター ブルーレイ コンプリートセット Blu-ray”]

 

Avatar photo

Green

投稿者の記事一覧

静岡で化学を教えています。よろしくお願いします。

関連記事

  1. 材料開発の変革をリードするスタートアップのデータサイエンティスト…
  2. 近くにラジカルがいるだけでベンゼンの芳香族性が崩れた!
  3. 一次元の欠陥が整列した新しい有機−無機ハイブリッド化合物 -ペロ…
  4. Carl Boschの人生 その6
  5. iPadで計算化学にチャレンジ:iSpartan
  6. 不安定さが取り柄!1,2,3-シクロヘキサトリエンの多彩な反応
  7. 良質な論文との出会いを増やす「新着論文リコメンデーションシステム…
  8. 天然物の構造改訂:30年間信じられていた立体配置が逆だった

注目情報

ピックアップ記事

  1. 電子デバイス製造技術 ーChemical Times特集より
  2. 宮浦・石山ホウ素化反応 Miyaura-Ishiyama Borylation
  3. 錬金術博物館
  4. ダニシェフスキー・北原ジエン Danishefsky-Kitahara Diene
  5. パテントクリフの打撃顕著に:2012製薬業績
  6. 向山酸化剤
  7. 相良剛光 SAGARA Yoshimitsu
  8. カガン・モランダーカップリング Kagan-Molander Coupling
  9. 傷んだ髪にタウリン…東工大などの研究で修復作用判明
  10. ヨウ化サマリウム(II) Samarium(II) Iodide SmI2

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2012年5月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
28293031  

注目情報

最新記事

MEDCHEM NEWS 34-1 号「創薬を支える計測・検出技術の最前線」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

医薬品設計における三次元性指標(Fsp³)の再評価

近年、医薬品開発において候補分子の三次元構造が注目されてきました。特に、2009年に発表された論文「…

AI分子生成の導入と基本手法の紹介

本記事では、AIや情報技術を用いた分子生成技術の有機分子設計における有用性や代表的手法について解説し…

第53回ケムステVシンポ「化学×イノベーション -女性研究者が拓く未来-」を開催します!

第53回ケムステVシンポの会告です!今回のVシンポは、若手女性研究者のコミュニティと起業支援…

Nature誌が発表!!2025年注目の7つの技術!!

こんにちは,熊葛です.毎年この時期にはNature誌で,その年注目の7つの技術について取り上げられま…

塩野義製薬:COVID-19治療薬”Ensitrelvir”の超特急製造開発秘話

新型コロナウイルス感染症は2023年5月に5類移行となり、昨年はこれまでの生活が…

コバルト触媒による多様な低分子骨格の構築を実現 –医薬品合成などへの応用に期待–

第 642回のスポットライトリサーチは、武蔵野大学薬学部薬化学研究室・講師の 重…

ヘム鉄を配位するシステイン残基を持たないシトクロムP450!?中には21番目のアミノ酸として知られるセレノシステインへと変異されているP450も発見!

こんにちは,熊葛です.今回は,一般的なP450で保存されているヘム鉄を配位するシステイン残基に,異な…

有機化学とタンパク質工学の知恵を駆使して、カリウムイオンが細胞内で赤く煌めくようにする

第 641 回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院理学系研究科化学専攻 生…

CO2 の排出はどのように削減できるか?【その1: CO2 の排出源について】

大気中の二酸化炭素を減らす取り組みとして、二酸化炭素回収·貯留 (CCS; Carbon dioxi…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー