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化学者のつぶやき

その電子、私が引き受けよう

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個人的な印象ですが、典型元素化学において、扱う元素が高周期に行くほどマニアックな化学、と言うイメージがある気がします。扱いにくさや毒性等を考えると仕方ないのかもしれません。

が!たった一つ、高周期典型元素の中でいずれ、より巨大一分野へと展開するだろうと、ずーっと注目してきた元素があります。

それが、高周期諸島のパラダイス地、   ビスマスッ!!

なぜかっ??!!

 

簡単にポイントを挙げると、

  1. 安い!(よく原料として用いられるBiCl3、筆者の国では25g/2500円程度。ここでは高いと言われておりますが・・それにしても美しい)
  2. 毒性が低い!(と、言われていますが、この辺りはもうちょっと検証が必要かと)
  3. 15族のくせにルイス酸としても働く!
  4. 三価と五価の状態をとれる

とまぁ、まるで優しい遷移金属みたいなヤツなんですよ。

実は日本には以前より、低配位から触媒反応、有機合成に至るまで、ビスマスを扱う化学者が多く存在します [1]。
しかーし、現時点では、立体や電子状態を制御した有機化合物として意のままに合成する手法や、上述のルイス酸的性質を含め反応性等の化学的性質の点において、まだまだ開拓&発展し得る分野であると言えると思います。

サクサク展開できていない要因の一つとして、C-Bi結合の弱さが挙げられます。キレちゃうんです。
そのため、まだまだ隠れた性質満載と思われるビスマス化合物ですが、最近Angew誌に報告された論文から、その新しい性質についてご紹介。

まずはこちら。

”σ-Accepting Properties of a Chlorobismuthine Ligand”
Tzu-Pin Lin, Iou-Sheng Ke, Francois P. Gabbai, Angew. Chem. Int. Ed. 2012, 51, 4985. DOI: 10.1002/anie.201200854.

Texas A&M UniversityのGabbaiらのグループは、ホスフィンが置換したフェニル基を三つもつビスマス化合物 を合成し、それを二当量のAuClと反応させました。その結果、ビスマス上から一つフェニル基が外れた金錯体 が得られています。
いやー相変わらずC-Bi結合、切れてますねぇ(本反応では金二核錯体 も得られています)。

rk04251201.gifrk042512compound2.jpg

  (図:論文より)

注目すべきはAuとBi間の相互作用。
これね、Bi:→Auじゃなく、Bi←Auなんです。

ほぉ??
と思いましたが、どうやらCl-Biのσ*へ金からd電子が流れ込んでいる、いわゆる3中心4電子型の相互作用のよう。
(注:段階的にイメージするためσ*と書きましたが、Biのp軌道にClとAuから2電子ずつです)

ほほぉ。

で、同様に合成したPd錯体 においても、類似の現象(Bi←Pd)が観測されています。

rk04251202.gifさて、この論文がオンライン上で現れたわずか8日後に、同じくAngew誌にビスマス化合物の論文が登場しました。フンボルト大学のLimbergらのグループによるもの。

“Gold– and Platinum–Bismuth Donor–Acceptor Interactions Supported by an Ambiphilic PBiP Pincer Ligand”
Carolin Tschersich, Christian Limberg, Stefan Roggan, Christian Herwig, Nikolaus Ernsting, Sergey Kovalenko, Stefan Mebs, Angew. Chem. Int. Ed. 2012, 51, 4989. DOI: 10.1002/anie.201200848.

彼らはホスフィンが置換したフェニル基を二つ持つ塩化ビスマス化合物 を合成し、それを一当量の(Ph3P)AuClと反応させました。

で、得られた化合物は・・・・上述論文の化合物 !全く同じです、はい。

rk04251203.gif

ここでもBi←Au相互作用について、見事なまでに同様に考察されています。
また、こちらの論文では、もう一つの例としてPt錯体 が合成されています。

両論文ともBiはL型よりむしろZ型の配位子として働く(そして6s軌道中の孤立電子対はほとんど電子供与性を示さない)、と結論づけています。

まぁ、塩素原子がBiのルイス酸性の向上にかなり貢献しているようですが、このタイプのリガンドにおいてBi上の置換基を修飾することで、錯体の遷移金属周りの電子状態を制御できそう、とのことです。

電子供与性の高い配位子が注目され続けてきた昨今まことしやかに電子欠損型の配位子開発が注目され始めているのも事実ですよね。

あくまでもリガンドとしての可能性を示唆していますが、筆者が注目しているのは遷移金属との錯体よりもビスマス化合物そのもの。

特に、ルイス酸性を示しているこの6p軌道は、例えば金触媒において不飽和結合等の活性化に作用している軌道と同じ。そして上述したC-Bi結合の弱さを利点と捉えて展開することで、ビスマス化合物自体が、より多様な反応に利用できる代替触媒となり得る日も近いと感じます。

ビスマスで済ます・・・

ビスマス マスマス注目デス (村井君のブログ風

 

参考文献

[1] Selected
(a) N. Tokitoh, Y. Arai, R. Okazaki, S. Nagase, Science (1997) 277, 78. DOI: 10.1126/science.277.5322.78.
(b) T. Ooi, R. Goto, K. Maruoka, JACS (2003) 125, 10494. DOI: 10.1021/ja030150k.
(c) H. Qin, N. Yamagiwa, S. Matsunaga, M. Shibasaki, JACS (2006) 128, 1611. DOI: 10.1021/ja056112d.
(d) S-F. Yin, J. Maruyama, T. Yamashita, S. Shimada ACIE (2008) 47, 6590. DOI: 10.1002/anie.200802277.
(e) K Komeyama, N. Saigo, M. Miyagi, K. Takaki, ACIE (2009) 48, 9875. DOI: 10.1002/anie.200904610.
(f) Y. Nishimoto, M. Takeuchi, M. Yasuda, A. Baba, ACIE (2012) 51, 1051. DOI: 10.1002/anie.201107127.

関連書籍

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