希少金属であるレアメタルは日本には多くなく、もちろん世界に無限にあるものではありません。
だから金属に代替する材料というのは非常に重要なトピックです。いま世界にある金属が恒久的に使えるものであるという保証はどこにもないのです。
「金属がないならダイヤモンドを使えばいいじゃない」
いささかマリー・アントワネット的な台詞ではありますが、現実的でないわけではありません。永遠の輝きをもつ、宝石のようなダイヤモンドの合成はムズカシイのですが、ダイヤモンドの結晶構造をもつ、より結晶サイズの小さいダイヤモンドは比較的安価に作成できます。
そしてダイヤモンドにホウ素をドープすると、そのドープ濃度に応じてダイヤモンドは絶縁体、導電体、超電導とその導電性を高めていきます。
今回はいま注目のボロンドープダイヤモンドにスポットを当てていきたいと思います。
ダイヤモンドというのは炭素がsp3軌道による結合でできている炭素の結晶のことです。この結晶内の非常に短い共有結合は、強度を初め、ダイヤモンドの様々な性質を決めています。
ダイヤモンドの結晶構造(everyscience.comより転載)
ダイヤモンド構成する炭素原子、実はそのいくつかをホウ素原子で置き換える(ドープする)ことができます。ホウ素をダイヤモンドにドープすると、前述したようにその導電性に影響が出てきます。
ドープ濃度が低ければそのダイヤモンドは絶縁体ですが、ドープ濃度に応じて半導体→導電体と変化していき、おおよそ3%程度の高濃度ドープ率になると極低温で超電導性質を示すことも報告されています。
このようにして作られるボロンドープダイヤモンドは電極材料としても注目を集めています。導電性をもつダイヤモンド電極は電位窓が広く、バックグラウンド電流が小さいという、電極材料として非常に優れた特性を持っているためです。実際にこの性質を生かし、ヒ素などの有害金属物質や生体物質の電気化学センサーとしての有用性が示され、さらには実用化までもが目指されています。[1]
ダイヤモンド電極の電極特性(文献[1]より抜粋)
そしてこのボロンドープダイヤモンド電極を使い、メトキシラジカルを発生させて、それを有機合成に利用するという研究がごく最近Angewandte誌に発表されました。
Anodic Oxidation on a Boron-Doped Diamond Electrode Mediated by Methoxy Radicals
Takenori Sumi, Tsuyoshi Saitoh, Keisuke Natsui, Takashi Yamamoto, Mahito Atobe, Yasuaki Einaga, and Shigeru Nishiyama
Angew. Chem. Int. Ed. 2012 Early View, DOI: 10.1002/ange.201200878
このボロンドープダイヤモンドは、従来このような電極合成に使われるプラチナ電極やグラッシーカーボン電極に比べ、メトキシラジカルの発生が多いとされ、効率良く目的物の合成が達成されています。
(スキームは上記論文より引用)
このように従来の電極の能力を超えるボロンドープダイヤモンド。電気化学を必要とする現場に様々な革命を起こしていくかもしれません。
関連文献
- “Diamond electrodes for electrochemical analysis” Einaga, Y. J. Appl. Electrochem. 2010, 40, 1807. DOI:10.1007/s10800-010-0112-z
- “Diamond Electrochemistry” Edited by Akira Fujishima, Yasuaki Einaga, Tata N. Rao, Donald A. Tryk., BKC Inc. and Elsevier (2005)