こんにちは。新年度がスタートしました。本年度もChemStationを楽しんでいただければと思います。
さて、前回に引き続きルーブ・ゴールドバーグ反応を紹介します。「ルーブ・ゴールドバーグ反応」というのは、ピタゴラ装置などに代表される「ルーブ・ゴールドバーグ装置(Rube Goldberg Machine)」のように様々なカラクリを経由する楽しい反応のことです。
勝手な定義です。一般的な名称ではありませんから、これから就職活動される方は間違えて使わないように気を付けてくださいね。まぁ使わないと思いますが……
ちなみにタイトル図は寝過ぎないための装置。研究者はどうしても不規則な生活になりがちですのでこの装置を利用してみたらいかがでしょうか。ベッドを起こすほどの重たい球が転がっていきますので、利用の際は球を処理するための装置も別途必要となりますが……
ラジカルによる水素引き抜きを利用した反応を紹介します。同形式の反応はまとめて知っておくとよいかと思いますので。
まずはBarton反応から。この反応はアルコールを足掛かりに、飽和アルキル鎖にオキシムを導入することができます。一般式と対応する装置は下図の通りです。
A アルコールが塩化ニトロシルと反応し、
B 熱あるいは光照射により亜硝酸エステルが開裂、
C アルコキシラジカルがδ位から水素を引き抜き、
D 生じたアルキルラジカルはNOラジカルと反応、
E 互変異性を経て、オキシムが導入される。
F~Jはボールの動きを楽しんでください。
剛直な骨格を持つ分子でうまく反応が進行するため、ステロイド合成において古くから知られている反応です。
Practical Partial Synthesis of Myriceric Acid A, an Endothelin Receptor Antagonist, from Oleanolic Acid
J. Org. Chem. 1997, 62, 960-966.
今回は、ミリセリン酸Aの合成中間体の合成を紹介しました。本反応は、高い収率はあまり期待できない反応ですが、この系では85%という高収率で大量合成に成功しています。反応点である水酸基とメチル基がアキシャル方向に固定されているのが反応の進行に適切なのでしょう。
次はHLF(Hofmann-Loffler-Freytag Reaction)反応です。この反応も先ほどのBarton反応と同形式の反応ですが、多くの場合、導入されたハロゲンがよい脱離基となり、アミンからの巻き込みまでが一挙に進行します。基本的には下図のように、δ位水素を引き抜き、5員環形成が進行しますが、基質の設計次第で6員環を作ることもできます。
A アミンがハロゲンを攻撃、
B 窒素ラジカルが生成し、
C 水素を引き抜き、(基本的には分子間で基質から)ハロゲンを引き抜く。
D 生じたハロゲン化物はアミンからの攻撃により、
E 5員環(基質によっては6員環)を形成する。
この反応はBaranらによるオイデスマンテルペン類の全合成において巧みに利用されています。
Total synthesis of eudesmane terpenes by site-selective C-H oxidations
Nature 2009, 459, 824.
本合成の戦略は”two-phase”アプローチと呼ばれるもので、1)炭素骨格の構築、2)酸化、という2工程でテルペン類が生合成されるのを模倣したアプローチです。この研究の目標はタキソール(もしくはさらなる天然物・その類縁体合成への応用)にあるようで、タキソールの炭素骨格の構築、およびその酸化指針がそれぞれ報告されています。(Chem-Stationでも紹介されています)
最後に、「光で脱保護可能な保護基」を紹介しようと思います。ベンジル系の保護基と言われてすぐに思いつくのは、Bn基やPMB基といったところでしょうか。まぁメトキシ基がさらに増えたものもありますし、人によってはトリチル基もベンジル系保護基に含めるかもしれません。o-ニトロベンジル基!これ思いつきましたか?
Photosensitive Protective Groups
光照射で外せるんです。光照射によって生じた酸素ラジカルがベンジル位の水素を引き抜くというのが鍵になっています。
さて、今回はBarton反応、HLF反応、そしてo-ニトロベンジル基の脱保護の3つの反応を紹介しました。どれも素反応としては非常に古くから知られている反応ですが、立派なC-H結合の官能基化です。これらのルーブ・ゴールドバーグ反応を使って何か楽しいことができそうだと思いませんか?