4月の誕生石 ダイヤモンド
世界一硬い物質としてダイヤモンドは知られ、他の物質では歯が立たず、そのためダイヤモンドはダイヤモンド自体でもって磨かれます。なんという発想の転換、子どもの頃それを聞いて驚いたものです。4月になりましたので誕生石にちなんで、ダイヤモンドがなぜ磨けるのか、分子動力学のシミュレーション結果を紹介したいと思います。ただ単に、硬いもの同士で砕かれていたというわけではないようですよ。物理変化だけではなく、ダイヤモンドの研磨に潜んでいた化学反応とはいったい?
永遠の絆の象徴として、宝飾品でおなじみのダイヤモンド。ずば抜けて高い屈折率を持ち、電気は通さないものの熱はよく通し、ひっかき傷に対する硬さではナンバーワン。炭素の単体として知られ、産業界でも重要な材料です。
硬いダイヤモンドを「磨く」というのだから、変化はやはりダイヤモンドの表面で起きています。研磨にともなう変化の舞台となるダイヤモンドの表面はどうなっているのかというと、高校ではごまかされてしまったと思いますが、アルキル基の水素原子であったり、ヒドロキシ基であったり、カルボニル基であったりして、永遠に炭素原子が続くわけではありません。今回、紹介する分子動力学シミュレーション[1]では、炭素原子の連なる端は便宜上すべて水素原子であるものとして演算しています。
ダイヤモンドは端まで永遠に炭素原子が続くわけではないッ!
ダイヤモンドで通常もとの炭素原子は4方向に結合がのびるsp3混成軌道を取っています。メタンやエタンと同じアレです。
強い力をかけてダイヤモンドどうしをこすりあわせると、まず3方向に結合がのびるsp2混成軌道になります。エチレンと同じアレです。
さらに、このまま続けると、炭素原子が2方向に結合がのびるsp混成軌道を取ります。アセチレンと同じアレです。
炭素がアモルファスに変化するとともに、ここで大気中の酸素分子が登場し、sp軌道を取った不安定な炭素原子と反応して、二酸化炭素なり一酸化炭素なりが生成するようです。単に砕かれていたわけではなく、磨かれるとダイヤモンドは表面だけ燃えていたというのです。
以前から知られていた減圧下ではダイヤモンドを擦りあわせても磨かれにくいという観察を、このシミュレーション結果は上手く説明することができます。酸素分圧がかなめだったのでしょう。
論文[1]より
さすがダイヤモンド!
他の物質たちにできないことを平然とやってのけるッ!
参考論文
[1] “Anisotropic mechanical amorphization drives wear in diamond” Lars Pastewka et al. Nature Materials 2010 DOI: 10.1038/NMAT2902
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