石油代替材料の創成~今や非常に重要な研究課題の一つである。
多糖バイオマス。古くから使われ、今もその用途開発が進められている。
しかし適当な溶剤がないなどの難点があり、その成形方法は極めて限られていた。本稿では、多糖に着脱が容易な誘導体化を施すことにより、その成形性を改善した論文を紹介したい。
今やセルロース、デンプンをグルコースにまで分解し、発酵させることにより生み出されるエタノールを燃料にしようという研究が盛んになっています。石油代替材料ということなのですが、何も石油は燃やすだけではないので、できれば、高分子である多糖の特性を生かした材料化の幅を広げてやりたいというもの。もちろん、現時点においても多糖由来の材料をあげれば枚挙に暇がありません。
例えば、綿や麻や紙。これらはセルロースでできています。また、寒天やナタデココも多糖でできています。なので、工業的には十分に利用されているといってもそんなに間違っていないと思います。
しかし、これらは植物等からえられる有望な資源であることから、もっと多くの使い道を探索すべきと筆者は考えています。そのため、何とか化工するための工夫が必要ですが、多くのヒドロキシ基がある割には水への溶解性が極めて乏しいという現実もあります。
そこでヒドロキシ基の誘導化、と言うことになります。
それも既にいくつか報告されていて、アセチル化処理が一番有名で、酢酸セルロースなどは、たばこのフィルターや液晶のフィルムに利用されています。これらはこれで有用な材料であることはいうまでもないことですが、多糖そのものとはもはや違う材料であり、元の特性が当然失われてしまいます。そこで、誘導体化をしやすく、かつ、容易に外すことのできる、シリル基を導入する方法の適用が報告されてきました。
揮発性の溶剤に溶かすだけならば、アセチル基やベンジル基でもいいのでしょうが、要点は元に戻すために簡単に外せる誘導体化と言うこと。
シリル基、特にトリメチルシリル基は比較的簡単に外すことができます。
デンプンやセルロースではある程度の効率で導入することは比較的古くより報告例は知られていたのですが、2位にアセトアミド基を有するキチンでは2005年にようやくトリメチルシリル化が報告されました。
Keisuke Kurita, Kazuhiro Sugita, Naoki Kodaira, Masaaki Hirakawa, and Jin Yang
Biomacromolecules, 2005, 6, 1414–1418
DOI: 10.1021/bm049295p
この完全シリル化キチンは多くの汎用有機溶媒に可溶となり、その後、直接6位をトリチル化したり、完全アセチル化したりすることができるようになった。
そして最近、このトリメチルシリル化キチンを活用した、キチン超薄膜の調製法が報告されました。
Ultrathin Chitin Films for Nanocomposites and Biosensors
Joshua D. Kittle, Chao Wang, Chen Qian, Yafen Zhang, Mingqiang Zhang, Maren Roman, John R. Morris, Robert B. Moore, and Alan R. Esker
Biomacromolecules, 2012, 13, 714–718
DOI: 10.1021/bm201631r
有機溶剤に溶解するトリメチルシリル化キチンは容易にスピンコートすることができ、かつ、塩酸を吹き付けるだけでトリメチルシリル基が簡単に外せ、再生キチンが容易にえられるということ。キチンはアルカリ水溶液やLiCl/DMFの溶剤でしか扱えなかったことを考えると、今回報告された報告は、いろいろな機能化が期待されているキチンを思いのままの形に変えることができる手法として非常に期待できます。
今後、キチンベース材料の開発が期待できそうです。最も、シリル化剤の価格次第でしょうが・・・。