[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

人を器用にするDNAーナノ化学研究より

[スポンサーリンク]

 

 

「俺のDNAにはナニかを形作るナニかが刻みこまれている!」

みたいないいまわしは時々、漫画か何かででてきそうな科白です。

そして実際にDNAには何かを形作る“ナニか”はあるのです。

 

DNAとナノ粒子を使ってつくる、超分子的なストラクチャーを作るの研究は20年くらい前から始まったのですが、ここ最近でノースウエスタン大学のMirkinグループを中心に劇的な進歩が見られていて、非常にアツいので紹介したいと思います。

DNAとは、4つの基本ユニットであるATCGと呼ばれる分子が連なる分子のことです。(*1)

この4つのユニットはAとT、CとGが選択的に接合します。ちょうど2対のはめ込み式のボタンのようなものです。

このはめ込みボタンが、うまく揃った時、(つまり例えば長いAの連なりとTの連なりがあるとき、)一対一対が吸着しあい、DNAはお互いをジップします。

 

ナノパーティクルにDNAをくっつけてなにか面白いこと出来ないか?ということで発表されたのが1996年のことで、AlivisatosグループとMirkinグループから同じ号のNatureに掲載されました。(ライバルグループが同じ号のNatureに同じテーマで掲載とは、これまた「生物と無生物の間」的なドラマがありそうな予感ですねぇ)

2015-07-31_01-46-38

 

ナノ粒子とDNAが上手くくっつく絵 (文献1bより)

当時は、TEMでナノ粒子同士のくっつき方をコントロールしたり、もしくは単にナノ粒子が水に溶けているか、溶けないかをコントロールするものだったのですが(*2)、それから時はたち約20年後、この技術は物凄く洗練されています。

 

例えば、ナノ粒子のある表面に選択的にDNAを配することにより、ナノ粒子同士が吸着する面が制御され、結果色々な形が出来上がります。

様々な形のナノ粒子を、接着剤としてDNAを使い、様々なアーキテクチャを作る。まさにプラモデル的。(*3)

2015-07-31_01-48-40

ナノ粒子とDNAによって作られる構造の一例 (文献2bより)

 

さらに最近のリポートでは、特定の部分にスペーサーを配することによって、 より密度の低いストラクチャーを作ったりしていて、まさに彼らに作れない構造はないのではという疑惑まで浮上してしまいます。

 

2015-07-31_01-50-09

ナノパーティクルとDNAそしてスペーサーによって作られる構造の一部 (文献2dより)

いやはやナノの世界を完全に制している気すらします。

このように生物の中にあるDNAという分子とナノ化学の分野が合体すると、人はナノメートル単位で3次元構造を操ることができるようになってきています。さてさて人はこれからどれだけ”器用”になれるのでしょうか?そしてその先にはナニが出来るようになっているのでしょうか?

福岡伸一先生の「生物と無生物のあいだ」ではありませんが、「バイオロジカルとナノ化学のあいだ」で生まれるこれらの研究にこれからも目が離せません!

 

(*1)正確にいうとDNAはリン酸と塩基の2つからなり、その塩基が4種類あるということです。

(*2)溶ける、溶けないという表現はコロイド系のナノパーティクルの分散系では厳密な意味では正しくなく、性格には分散(dispersed)と凝集(aggregated)という意味です。この場合ナノ粒子の表面にsingle strandのDNAを配置しているものを見ていて、十分に小さくまた表面がDNAにより親水化されている粒子は通常の状態では水系、もしくは一定のイオン濃度をもつ水系で、分散します。

(*3)ただし、これらは全てThermodynamicに安定な経路でできているわけではなく、つまりKinetics的なPathwayも重要な要素と考えられているので、接着剤的な表現はその意味では雑です。

 

参照文献

  1. (a) Mirkin C. et al  Nature 382, 607 – 609 (15 August 1996); doi:10.1038/382607a0 (b) Alivisatos P. et al. Nature 382, 609 – 611 (15 August 1996); doi:10.1038/382609a0
  2. (a) Mirkin C. et al  Nature 451, 553-556 (31 January 2008) doi:10.1038/nature06508 (b) Nature Mater. 9, 913–917 (2010). DOI: 10.1038/NMAT2870 (c) Science 334, 204–208 (2011) DOI:10.1126/science.1210493 (d) Nature Nanotech. 7,24–28(2012)doi:10.1038/nnano.2011.222

やすたか

投稿者の記事一覧

米国で博士課程学生

関連記事

  1. ジアルキル基のC–H結合をつないで三員環を作る
  2. 真空ポンプはなぜ壊れる?
  3. 分子があつまる力を利用したオリゴマーのプログラム合成法
  4. 製薬系企業研究者との懇談会
  5. 塩にまつわるよもやま話
  6. 「転職活動がうまくいかない」と思ったらやるべきリフレクションとは…
  7. 大学院生のつぶやき:研究助成の採択率を考える
  8. 微生物の電気でリビングラジカル重合

注目情報

ピックアップ記事

  1. タミフルの新規合成法・その2
  2. アメリカ化学留学 ”実践編 ー英会話の勉強ー”!
  3. 開発者が語る試薬の使い方セミナー 2022 主催:同仁化学研究所
  4. アスタキサンチン (astaxanthin)
  5. 第136回―「有機化学における反応性中間体の研究」Maitland Jones教授
  6. 2つのアシロイン縮合
  7. 大正製薬、女性用の発毛剤「リアップレディ」を来月発売
  8. 2つのグリニャールからスルホンジイミンを作る
  9. リヒャルト・エルンスト Richard R. Ernst
  10. 光触媒水分解材料の水分解反応の活性・不活性点を可視化する新たな分光測定手法を開発

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2012年4月
 1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
30  

注目情報

最新記事

Host-Guest相互作用を利用した世界初の自己修復材料”WIZARDシリーズ”

昨今、脱炭素社会への実現に向け、石油原料を主に使用している樹脂に対し、メンテナンス性の軽減や材料の長…

有機合成化学協会誌2025年4月号:リングサイズ発散・プベルル酸・イナミド・第5族遷移金属アルキリデン錯体・強発光性白金錯体

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2025年4月号がオンラインで公開されています!…

第57回若手ペプチド夏の勉強会

日時2025年8月3日(日)~8月5日(火) 合宿型勉強会会場三…

人工光合成の方法で有機合成反応を実現

第653回のスポットライトリサーチは、名古屋大学 学際統合物質科学研究機構 野依特別研究室 (斎藤研…

乙卯研究所 2025年度下期 研究員募集

乙卯研究所とは乙卯研究所は、1915年の設立以来、広く薬学の研究を行うことを主要事業とし、その研…

次世代の二次元物質 遷移金属ダイカルコゲナイド

ムーアの法則の限界と二次元半導体現代の半導体デバイス産業では、作製時の低コスト化や動作速度向上、…

日本化学連合シンポジウム 「海」- 化学はどこに向かうのか –

日本化学連合では、継続性のあるシリーズ型のシンポジウムの開催を企画していくことに…

【スポットライトリサーチ】汎用金属粉を使ってアンモニアが合成できたはなし

Tshozoです。 今回はおなじみ、東京大学大学院 西林研究室からの研究成果紹介(第652回スポ…

第11回 野依フォーラム若手育成塾

野依フォーラム若手育成塾について野依フォーラム若手育成塾では、国際企業に通用するリーダー…

第12回慶應有機化学若手シンポジウム

概要主催:慶應有機化学若手シンポジウム実行委員会共催:慶應義塾大学理工学部・…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー