2012年 センター試験より
センター試験、こういうほんのちょっとだけ考える趣向の出題形式が好きみたいですね。雰囲気で酸化還元反応っぽいと判断するのではなく、酸化数を考えて解くというのが、セオリーです。
ではでは、次のケムステオリジナル問題はどう答えますか?
よーく考えてくださいね。
酸化還元反応にまつわる出題は他の年でもセンター試験に出題されています(クリックで拡大)。
2011年 センター試験より | 2008年 センター試験より |
酸化還元反応は重要単元のひとつのようです。そこで、先ほど出題しました「NaHの水素原子の酸化数」を考えてみましょう。高校の教科書の端やら資料集やらで、水素化ナトリウムNaHというものを見聞きしていたりして、ちょっとした化学好き高校生ならば安心して答えてくれるはず。「水素原子の酸化数は-1です」、と。
「異議あり!」
問題文中では、一言も「水素化ナトリウム(sodium hydride; Na+H-)」とは言及していません。特別なアミンと混合した条件の下では「インバース水素化ナトリウム(hydrogen sodide; Na-H+)」という変わりものが存在するのです[1]。
この場合、「水素原子の酸化数は+1です」、と答えなければなりません。
「なっナトリウムアニオン!?」
そんな物質が合成できたのかと驚いたあなたに、インバース水素化ナトリウムの作り方はこちらです。まず酢酸アンモニウムと同じ勢いで、ヒドロキシ酢酸アダマンザニウムを用意します。そして、液体アンモニア下で、金属ナトリウムを加えて反応させます。すると、ヒドロキシ酢酸がナトリウムアルコキシドになってカルボン酸ナトリウム塩になったものが固化し、さらに水素ガスが気化します。そして、アダマンザンとインバース水素化ナトリウムの混合物ができあがります。
爆発の恐れがあるためよく検討して適切な設備で実験しましょう
わずかに黄色みを帯びた針状の結晶が得られたようで、結晶構造解析のデータも論文に示されています。-30℃以上にしたところ色が失われたことから、このあたりの温度では不安定なようです。
インバース水素化ナトリウムとアダマンザンがいっしょになった結晶が得られた
数学の確率の問題でわざわざサイコロやコインがいびつかどうかに言及しないのと同様に、化学の問題で高校の設備で安価に安全にできる条件かどうかをわざわざ問題文に書く必要は感じないものの、物事にはたいてい例外があることは意識しておくとよいかもしれませんね。教科書にないものを取り扱う研究者(のタマゴ)としては。
えっ……。百歩譲ってアダマンザンがあることは目をつぶるにしても、陽イオンを先に、陰イオンを後に書くのがイオン結晶のお約束だから、それはNaHじゃなくてHNaでしょって? そう言えば、確かに。
参考論文
- “Inverse Sodium Hydride: A Crystalline Salt that Contains H+ and Na-” Mikhail Y. Redko et al. J. Am. Chem. Soc. 2002 DOI: 10.1021/ja025655
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