1月に発表されたWolf化学賞ですが、2012年はUniv. HarverdのCharles Lieber博士、UC BerkreyのPaul Alivisatos博士に授与されました。[1]
Wolf賞とはイスラエルのWolf財団が設立した賞で、ノーベル賞に匹敵する権威ある賞とされています。日本では野依良治先生なども受賞されております。これまでノーベル賞を初めとした大型の賞レースではナノケミストリー周りの受賞者は少なかったのですが、今回の受賞はそのジンクスを破る結果です。
受賞理由はPaul Alivisatos博士が、ナノクリスタルの合成方法の確立とその潜在的可能性を示したこと。Charles Lieber博士がナノワイヤーの開拓とその先駆的な有用性の研究、(筆者要約)とのことです。[1]両者とも、この分野を牽引する研究者で、また大学での研究のみならず、多方面で活躍しています。、ケムステでも昨年のノーベル賞候補者に挙げさせていただきました(参照:ノーベル化学賞2011候補者まとめ)。今回は記念として彼らの足跡を簡単に紹介したいと思います。
(1)論文
リンク[2]はこの2000年から2010年の間の化学論分の中で、どの研究者の論文がどれだけ引用されたかのデータです。この間に出された論文ではCharles Lieber博士の1枚の論文の平均引用数は240とトップ、Paul Alivisatos博士の論文は93本の論文を出して156の平均引用数があります。この2人にNorth Western大学のChad Mirkin博士(この間の総合引用数20505とトップ)を加えた3人はナノケミストリーの中でも図抜けた引用数を記録しています。まさにこの分野での代表的な研究者と言えます。
(2)Nano Letter
両氏はACS(アメリカ化学会)のNano Lettersという学会誌の創設者でありメイン編集者でもあります。このNano Lettersという雑誌はアメリカ化学会のメイン誌であるJACS(Journal of American Chemical Society:アメリカ化学会誌)を凌ぐインパクトファクター(2011年は12!)を持つ非常に影響力の強い学会誌です。
(3)Nanosys[3]
また2人はシリコンバレーの巨人とも言われているベンチャー”Nanosys”の創設者にも名を連ねています。このNanosysという会社はナノテクノロジーを使った製品を世の中に出そうとしている会社で、現在は量子ドット(半導体ナノ粒子のこと)をつかった新型のディスプレイやナノテクノロジーを使った新型リチウムイオン電池の開発などが主な事業のようです。Wikipediaによると、Peidong Yang、Uni Banin、Philippe Guyot-Sionnestなどといったそうそうたるナノケミストリーの科学者面々を技術顧問に迎えていてまさに最強の布陣。ベンチャーとはいえ様々な大企業との取引もしている注目の会社です。
(4)Paul Alivisatos博士の来歴[4]
Paul Alivisatos博士はそのキャリアを物理化学から始めているようで、キャリア初期にはそちら方向での論分の投稿が目立ちます。そのためか論文の傾向として、新しい現象を発見し、解明し、応用していくという研究スタイルのように思われ、非常に“役に立つ”論文が多いように感じます。例えば、ナノクリスタルの融点や高圧下での挙動に関する研究はおおよそ教科書レベルの知見になりつつあります。またナノクリスタルにDNAをつける研究や、様々な形のナノクリスタル合成方法を確立するなど、有名な論文を挙げていくとキリがありません。
(5)Charles Lieber博士の来歴[5]
Charles Lieber博士は最初の原著論文がNatureの筆頭著者であり、その後も非常に影響力の強い論文を中心に投稿しています。近著もトップ中のトップジャーナルのみに投稿しているようです。論文の傾向としては、ナノワイヤーを使い、それがどのように電気製品もしくは生体応用に使われるかを、先見的に示す論文が多く、“慧眼” “天才”という言葉がぴったりと当てはまるスタイルと思います。化学の枠にとらわれない氏の研究はまさにこの分野の“パイオニア”であると感じさせます。
(6)最後に
このような大きな賞が自分の研究分野で与えられると、非常に嬉しいものです。これからもこの分野が発展し、また化学分野の発展に大きく寄与することを願って、この紹介文を締めさせて頂きます。おめでとうございます!