緑色蛍光タンパク質(green fluorescent protein; GFP)は、研究の世界で今や欠かすことのできない存在となっています。その重要さが認められ、オワンクラゲからの単離に成功した下村脩氏は、2008年にノーベル化学賞を受賞しました。今回は、タンパク質ではなく、RNAでも光らせよう、という話題を紹介します。
緑色蛍光タンパク質など一連の遺伝子産物は、いろいろな場面で用いられており、GFPで光らせることができたからこそ分かった知見には膨大なものがあります。緑色だけではなく、緑色蛍光タンパク質を改変して作った黄色蛍光タンパク質(yellow fluorescent protein; YFP)・青色蛍光タンパク質(blue fluorescent protein; BFP)・赤色蛍光タンパク質(red fluorescent protein; RFP)などもまたよく用いられています。蛍光タンパク質を用いたよくある手法として、機能未知のタンパク質とGFPの融合遺伝子産物について、細胞のどこに分布するのか調べるというようなことが、例としてあげられます。また、詳しく原理は述べませんが、これに加えて、蛍光共鳴移動によるタンパク質間相互作用の検出での役割も重要です。緑色蛍光タンパク質の結晶構造解析の結果を載せておきますのでご覧ください。
結晶構造解析データをProtein Data Bankより出力
タンパク質と同じく、RNAもまた細胞の機能に重要な役割を持ち、いろいろな場面で解析の対象になります。DNAから転写されてRNAへ、RNAから翻訳されてタンパク質へと、遺伝情報がやりとりされるセントラルドグマにおける記憶媒体のような役割だけが、RNAの機能ではありません。RNAの多彩な機能が、近年になって明らかになりはじめ、注目を集めています。さながら、ヨーロッパのルネサンスのように、はなひらいた研究分野です。リボザイム、リボスイッチ、RNA干渉、RNA編集などなど、興味深い研究課題は枚挙にいとまがありません。しかしながら、RNA分子の挙動を、蛍光によって追跡する方法は、タンパク質の場合と異なって不足しています。
今回、コーネル大学のJaffreyらの研究チームは、GFPの蛍光原子団を参考にして、RNAの特別な配列を認識して結合する蛍光分子を設計しました。[1]
GFPの蛍光原子団は次のようになっており、チロシンに由来する構造が特徴的です。この蛍光原子団はGFPの中央にあり、周囲をペプチド鎖で囲まれることで、水分子による消光を抑制しています。
図は論文[1]より
このGFPの蛍光原子団の後に、まず見てもらいたい分子が、今回、報告されたこの分子です。周りを囲まれることで鮮やかな輝きを発揮するという性質が、上手く利用されています。
おおっ!似ている!
さらに、ベンゼン環の置換基を変えて、いろいろな蛍光分子を作成したようです。そして、RNAの特別な配列と結合する蛍光分子を、いくつか開発しました。また、青色・緑色・黄色・赤色というように、可視光の範囲で多彩に光らせることにも成功しました。カラフルな色彩を、ぜひ論文の図2D(Fig. 2D)で確認したいところです。
さて、RNAを光らせる手順を簡単に確認しましょう。例えば、このようなRNAが転写されるような配列を、調べたい遺伝配列の近傍につないで、ゲノムDNAに遺伝子導入します。GFPの蛍光原子団を囲むペプチド鎖の代わりに、このRNA配列が水分子による消光をブロックします。
このようなRNA
そして、このような蛍光分子を生きたままの培養細胞に取り込ませます。フッ素原子が入っていますが、肝心要の部分は共通です。
このような蛍光分子
ここで励起光を当てて蛍光顕微鏡で観察すると、目的のRNAの挙動を可視化できます。このような技術は、RNAとRNA、あるいはRNAとタンパク質の相互作用を、蛍光共鳴移動のような方法で検出する際にも活用できるだろうと期待されています。
生命現象を解き明かすために、生命現象を模倣して、自然にないものを人の手で作る。化学の魅力を感じる報告でした。
参考論文
[1] 緑色蛍光タンパク質のRNA模倣物質“RNA Mimics of Green Fluorescent Protein” Paige, J.P.; Wu, K. Y.; Jaffrey, S. R. Science 29 July 2011 DOI: 10.1126/science.1207339