希土類金属元素を高濃度で含む海底泥が太平洋に存在することを日本チームが発見
ランタン・セリウム・プラセオジム・ネオジム・プロメチウム・サマリウム・ユウロピウム・ガドリニウム・テルビウム・ジスプロシウム・ホルミウム・エルビウム・ツリウム・イッテルビウム・ルテチウム、15のランタノイド元素に、スカンジウム・イットリウムの2つを加えて希土類金属元素と呼びます。
産業上、重要なこれらの資源が、海の底で大量に眠っているという報告を、今回は紹介します。従来、中国一極集中で依存していた希土類金属元素の供給問題を打開し、将来的には日本の元素戦略に新たな局面をもたらしうる注目の研究成果です。
最近のニュースでは”RARE EARTH“を「希土類」とせずに「レアアース」とカタカナにしてしまうこともしばしばですが、一方で昔のテレビCM、キドカラーの「キド」で希土類元素のことを思い出される年配の方もいらっしゃるかもしれません。強力な永久磁石に用いられるネオジム[2]、光ファイバーを通るうちに減衰した信号を増幅するために用いられるエルビウム[3]をはじめ、これらの希土類元素は、磁気材料・光学材料、そしてさらに触媒材料といった最先端技術の中で活躍しています。
これら希土類元素それぞれの詳しい性質は、原子レベルでそれぞれ考察しても面白いことでしょう。しかし、今回の内容は、地球レベルのもっともっと巨視的な世界のお話です。
- 果てしなき大海原に財宝をもとめて
イットリウムを含めて希土類元素の世界需要は急激に増加しています。最新の電気機器や自然エネルギー技術には、今や希土類元素が必要不可欠です。食材に喩えると、鉄や銅やアルミニウムなど身近によくある金属を穀物や肉や野菜とするならば、希土類元素は塩コショウなど調味料のようなものであると言えます。スパイスの効いていない食事ほど味気ないものはありません。
「ある種の海底沈殿物として希土類元素が高濃度に濃縮しているかもしれない」
このような可能性は、1980年代から言われていたようです。しかし、目的の沈殿物がどのように分布しているのか情報が不十分であったため、海底沈殿物は希土類元素の資源としてみなされていませんでした。まさか、そんなにたくさんあるわけがない!?
2011年に、日本の研究チームは、太平洋の大部分をカバーする78ヶ所について、1メートルの深さの間隔で得られたのべ2000サンプル以上の海底沈殿物について元素組成を調べました。この解析結果により、ハワイ諸島南部から太平洋南東部にかけて広範囲で、深海泥に希土類元素が高濃度に含まれていることがわかりました。見積もりによれば、希土類元素について現在の世界の年間消費量を、わずか5平方キロメートルの場所から、供給することができます。
また、希土類元素は海底沈殿物から容易に取り出すことができたようです。論文[1]の中の実験でも、0.2mol/Lの硫酸であるとか、0.5mol/Lの塩酸であるとか、書かれており、ずいぶんと薄くて済むものだ、という印象を持ちます。
希土類元素と言えば、中国産の鉱石が有名です。希土類元素の鉱石は中国産以外にもあるのですが、ほとんどすべて、ランタノイドだけではなくアクチノイドも含まれてしまうことが難点です。放射性元素のウランやトリウムが入っていると、産業上、使い物にはなりません。今回報告された海底沈殿物では、そういった放射性元素がほとんど含まれていない点もポイントです。その上、海底沈殿物に含まれる希土類元素の濃度が高いこともあり、中国の鉱石より品位が高いとされます。
(有機化学美術館・分館 様より中国語周期表の一部をお借りしました)
深海泥を有望で巨大な希土類元素の資源にすることが可能なのか、採掘技術を含め、今後の進展に期待が集まりそうです。
- 参考文献
[3] “Low-noise erbium-doped fibre amplifier operating at 1.54μm.” Mears RJ et al. Electron. Lett. 1987 DOI: 10.1049/el:19870719
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