[スポンサーリンク]

一般的な話題

海底にレアアース資源!ランタノイドは太平洋の夢を見るか

[スポンサーリンク]

希土類金属元素を高濃度で含む海底泥が太平洋に存在することを日本チームが発見

GREEN013.PNG

ランタンセリウムプラセオジムネオジムプロメチウムサマリウムユウロピウムガドリニウムテルビウムジスプロシウムホルミウムエルビウムツリウムイッテルビウムルテチウム、15のランタノイド元素に、スカンジウムイットリウムの2つを加えて希土類金属元素と呼びます。

産業上、重要なこれらの資源が、海の底で大量に眠っているという報告を、今回は紹介します。従来、中国一極集中で依存していた希土類金属元素の供給問題を打開し、将来的には日本の元素戦略に新たな局面をもたらしうる注目の研究成果です。

 

 

最近のニュースでは”RARE EARTH“を「希土類」とせずに「レアアース」とカタカナにしてしまうこともしばしばですが、一方で昔のテレビCM、キドカラーの「キド」で希土類元素のことを思い出される年配の方もいらっしゃるかもしれません。強力な永久磁石に用いられるネオジム[2]、光ファイバーを通るうちに減衰した信号を増幅するために用いられるエルビウム[3]をはじめ、これらの希土類元素は、磁気材料・光学材料、そしてさらに触媒材料といった最先端技術の中で活躍しています。

これら希土類元素それぞれの詳しい性質は、原子レベルでそれぞれ考察しても面白いことでしょう。しかし、今回の内容は、地球レベルのもっともっと巨視的な世界のお話です。

 

  • 果てしなき大海原に財宝をもとめて

イットリウムを含めて希土類元素の世界需要は急激に増加しています。最新の電気機器や自然エネルギー技術には、今や希土類元素が必要不可欠です。食材に喩えると、鉄や銅やアルミニウムなど身近によくある金属を穀物や肉や野菜とするならば、希土類元素は塩コショウなど調味料のようなものであると言えます。スパイスの効いていない食事ほど味気ないものはありません

ある種の海底沈殿物として希土類元素が高濃度に濃縮しているかもしれない

このような可能性は、1980年代から言われていたようです。しかし、目的の沈殿物がどのように分布しているのか情報が不十分であったため、海底沈殿物は希土類元素の資源としてみなされていませんでした。まさか、そんなにたくさんあるわけがない!?

2011年に、日本の研究チームは、太平洋の大部分をカバーする78ヶ所について、1メートルの深さの間隔で得られたのべ2000サンプル以上の海底沈殿物について元素組成を調べました。この解析結果により、ハワイ諸島南部から太平洋南東部にかけて広範囲で、深海泥に希土類元素が高濃度に含まれていることがわかりました。見積もりによれば、希土類元素について現在の世界の年間消費量を、わずか5平方キロメートルの場所から、供給することができます。

また、希土類元素は海底沈殿物から容易に取り出すことができたようです。論文[1]の中の実験でも、0.2mol/L硫酸であるとか、0.5mol/L塩酸であるとか、書かれており、ずいぶんと薄くて済むものだ、という印象を持ちます。

GREEN2012geo1.png

 

希土類元素と言えば、中国産の鉱石が有名です。希土類元素の鉱石は中国産以外にもあるのですが、ほとんどすべて、ランタノイドだけではなくアクチノイドも含まれてしまうことが難点です。放射性元素のウランやトリウムが入っていると、産業上、使い物にはなりません。今回報告された海底沈殿物では、そういった放射性元素がほとんど含まれていない点もポイントです。その上、海底沈殿物に含まれる希土類元素の濃度が高いこともあり、中国の鉱石より品位が高いとされます。

GREEN2012geo2.png

有機化学美術館・分館 様より中国語周期表の一部をお借りしました)

深海泥を有望で巨大な希土類元素の資源にすることが可能なのか、採掘技術を含め、今後の進展に期待が集まりそうです。

 

  • 参考文献
[1“Deep-sea mud in the Pacific Ocean as a potential resource for rare-earth elements” Yasuhiro Kato et al. Nature Geosciene 2011  DOI: 10.1038/ngeo1185

[2] “New Material for Permanent Magnets on a Base of Nd and Fe.” Masato Sagawa et al. J. Appl. Phys. 1984 DOI: 10.1063/1.333572

[3] “Low-noise erbium-doped fibre amplifier operating at 1.54μm.” Mears RJ et al. Electron. Lett. 1987 DOI: 10.1049/el:19870719

  • 関連書籍

 

 

 

Avatar photo

Green

投稿者の記事一覧

静岡で化学を教えています。よろしくお願いします。

関連記事

  1. 基礎有機化学討論会開催中
  2. 特許の基礎知識(2)「発明」って何?
  3. 論文チェックと文献管理にお困りの方へ:私が実際に行っている方法を…
  4. ケムステV年末ライブ2022開催報告! 〜今年の分子 and 人…
  5. マイクロフロー瞬間pHスイッチによるアミノ酸NCAの高効率合成
  6. 単純なアリルアミンから複雑なアリルアミンをつくる
  7. パラジウム触媒の力で二酸化炭素を固定する
  8. 半導体領域におけるマテリアルズ・インフォマティクスの活用-レジス…

注目情報

ピックアップ記事

  1. 留学生がおすすめする「大学院生と考える日本のアカデミアの将来2020」
  2. 【書籍】Pythonで動かして始める量子化学計算
  3. iPhone/iPodTouchで使える化学アプリケーション
  4. マテリアルズ・インフォマティクスの推進成功事例 -なぜあの企業は最短でMI推進を成功させたのか?-
  5. 第78回―「膜タンパク質の分光学的測定」Judy Kim教授
  6. 岩田浩明 Hiroaki IWATA
  7. 最も引用された論文
  8. 高分子マテリアルズ・インフォマティクスのための分子動力学計算自動化ライブラリ「RadonPy」の概要と使い方
  9. リガンド革命
  10. 2008年10大化学ニュース

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2011年11月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
282930  

注目情報

最新記事

日本化学連合シンポジウム 「海」- 化学はどこに向かうのか –

日本化学連合では、継続性のあるシリーズ型のシンポジウムの開催を企画していくことに…

【スポットライトリサーチ】汎用金属粉を使ってアンモニアが合成できたはなし

Tshozoです。 今回はおなじみ、東京大学大学院 西林研究室からの研究成果紹介(第652回スポ…

第11回 野依フォーラム若手育成塾

野依フォーラム若手育成塾について野依フォーラム若手育成塾では、国際企業に通用するリーダー…

第12回慶應有機化学若手シンポジウム

概要主催:慶應有機化学若手シンポジウム実行委員会共催:慶應義塾大学理工学部・…

新たな有用活性天然物はどのように見つけてくるのか~新規抗真菌剤mandimycinの発見~

こんにちは!熊葛です.天然物は複雑な構造と有用な活性を有することから多くの化学者を魅了し,創薬に貢献…

創薬懇話会2025 in 大津

日時2025年6月19日(木)~6月20日(金)宿泊型セミナー会場ホテル…

理研の研究者が考える未来のバイオ技術とは?

bergです。昨今、環境問題や資源問題の関心の高まりから人工酵素や微生物を利用した化学合成やバイオテ…

水を含み湿度に応答するラメラ構造ポリマー材料の開発

第651回のスポットライトリサーチは、京都大学大学院工学研究科(大内研究室)の堀池優貴 さんにお願い…

第57回有機金属若手の会 夏の学校

案内:今年度も、有機金属若手の会夏の学校を2泊3日の合宿形式で開催します。有機金…

高用量ビタミンB12がALSに治療効果を発揮する。しかし流通問題も。

2024年11月20日、エーザイ株式会社は、筋萎縮性側索硬化症用剤「ロゼバラミン…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー