(論文[1]より)
2011年のノーベル化学賞が決まって、1ヶ月が経とうとしています。恥ずかしながらその時まで準結晶を知らなかったのですが。ノーベル化学賞の受賞対象がどのような場面で役立っているかというのは気になるところですが、化学屋として自分の分野で(私は高分子化学ですが)どのように関わっているのかというのも興味があります。
という訳で、少し古いですが2007年に名古屋大学の松下裕秀教授、高野敦志准教授、京都大学の堂寺知成准教授らが世界で初めて観測した、高分子の準結晶を紹介します。
(左図:星型ポリマー 右図:自己組織化 論文[1]より)
この3種のポリマーたちはそれぞれ相性が悪く、なるべく他のポリマーから離れて同種で集まろうとします。その結果、上図のように人が手を加えなくても組織だった構造をとるようになります(自己組織化)。
今回のポリマーは、結合点が一直線に並ぶ構造をとることが知られており、それによってシリンダー状の構造をとります。
(バルク中の星型ポリマーのモルフォロジー 論文[1]より)
松下教授らは、星型ポリマー中の各ポリマーの組成比を変化させ、モルフォロジーの変化を観察していく・・・ということを繰り返し行い、今回の準結晶を発見しました。見にくいですが下の図は組成比とそのときのタイリングパターンです(TEMで測定)。
(関連リンク[1]より)
パッと見ただけでも異なるタイリングだということがわかりますが、これらは組成比をちょっとだけ変えるだけでこれほど変化します。膨大な数の実験、測定をされたことが容易に想像できますが、準結晶ができる確信があったのに、中々姿を表さなかったのでやきもきしていたようです。
実験をすれどもすれども結果が出てこないと、だんだんと落ち込んでくるものですが、それを励まし続けながらやっとこさ発見にこぎつけたとのこと。
そして、これが星型ポリマーの準結晶です。
(星型ポリマーのTEM画像 論文[1]より)
結晶学に疎いので左の図だけでは私はわからなかったのですが、縁取ってみると確かにタイリングされていることがわかります。そして、X線散乱からは準結晶の証?である12個の回折ピークが観測されました。確かに12個の回折点がわかります。
(X線散乱によって得られた12個の回折点 論文[1]より)
今回は当時世界で初めて観測された高分子の準結晶について紹介しました。世界で初めてというだけで価値があると思いますが、松下教授らは、この研究によって
(1)準結晶がどのサイズスケールでも見られる普遍的なものであること。
(2)準結晶が様々な物質で構成されること。
を挙げています。まさに、高分子科学と準結晶の研究を活性化させる火種になった素晴らしい研究だと思います。
X線散乱はSpring-8を利用したもので、この研究もSpring-8のHPでトピックとして紹介されています。また、インターネット上にワークショップ時に用いたと思われるPDFもあります。どちらも一見の価値がありますので、興味が湧いた方はぜひご覧になって下さい。
- 参考文献