[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

グリコシル化反応を楽にする1位選択的”保護”反応

[スポンサーリンク]

有機合成化学者の間でも”嫌われる”糖合成反応は、糖ドナー分子次第でその成否が決まるため、その調製法を如何に簡便にするかが肝になっている。

糖ドナー分子合成の手順と問題

糖ドナー分子は、1位に活性化基(脱離基)、その他のヒドロキシ基に保護基を入れるのが通例になっており、その保護基の如何でグリコシル化反応の効率や立体選択性が左右される。

通常その合成過程は、

  1. 全てのヒドロキシ基の保護
  2. 1位への活性化基の導入
  3. グリコシル化

と進む。糖=ポリオールと言っても無数にヒドロキシ基があるわけではないが、目的物に応じて丁寧に保護しなければならない。理屈の上ではこれらをクリアすれば合成可能であるが、問題を難しくしているのは脱離基と保護基の導入反応の相性である。でき上がってしまえばなんてことのない糖ドナー合成反応であるが、脱離基導入の際に保護基が外れてしまう、またはその反対もあり得ることから、自由自在に組み合わせることは困難である。

新規保護糖「アルコキシアミン糖」

最近、Nitzらは、アルコキシアミン誘導体が1位の保護基になることを報告した[1]。 1位はヘミアセタール性ヒドロキシ基であることから、ごくわずかであるものの、アルデヒド基が存在する。これを利用すると、糖の還元末端にアミン類を 選択的に反応させることができる。(糖のラベル化でよく利用される還元的アミノ化はその代表的な使い方である。ヒドロキシルアミン/アルコキシアミンは、アルキルアミンより反応性が高いことから糖のラベルに利用されている。)

protectinggroup1.png

図 1 提案された糖ドナー合成戦略(図は論文より)

Nitzらは1998年に報告された反応[2] に着目した。このアルコキシアミン糖誘導体がヒドロキシ基を保護する反応に対して不活性であると想定し、様々な保護基をかけることを検討した。事実、アセチル基はもちろん のこと、ベンジル基、シリル基、ベンジリデン基を導入する反応においても、1位の”保護基”は安定であった。保護基導入後、N-クロロスクシンイミド+加水分解処理によって1位保護基のみ選択的に除去可能であった。また、水以外のアルコールを用いれば加溶媒分解を起こすことができ、対応す るグリコシドが生成する。

さらに、1位がヒドロキシ基になれば、より活性な脱離基である、イミデート基等の導入も可能である。そしてこの糖誘導体 は、イミデート糖やチオグリコシドの活性化条件下においても安定であり、糖アクセプターとしても利用できる。

糖鎖関連化合物の合成法は、タンパク質や核酸のように簡単には一般化できない。今回の論文のように、従来の方法とは異なる手順で合成を進めるというというコンセプトは、これまで困難であった糖鎖化合物の合成ルートの構築に役に立つかもしれない。

 

関連文献

  1. Dasgupta, S.; Nitz, M. J. Org. Chem. 201176, 1918. DOI:10.1021/jo102372m
  2. Peri, F.; Dumy, P.; Mutter, M. Tetrahedron, 199854, 12269. DOI:10.1016/S0040-4020(98)00763-7

関連書籍

[amazonjs asin=”3527317805″ locale=”JP” title=”Handbook of Chemical Glycosylation: Advances in Stereoselectivity and Therapeutic Relevance”]
Avatar photo

あぽとーしす

投稿者の記事一覧

微生物から動物、遺伝子工学から有機合成化学まで広く 浅く研究してきました。論文紹介や学会報告などを通じて、研究者間の橋掛けのお手 伝いをできればと思います。一応、大学教員で、糖や酵素の研究をしております。

関連記事

  1. 外部の大学院に進学するメリット3選
  2. 日本化学会 第104春季年会 付設展示会ケムステキャンペーン P…
  3. 「あの人は仕事ができる」と評判の人がしている3つのこと
  4. 生体内での細胞選択的治療を可能とする糖鎖付加人工金属酵素
  5. カルベンで炭素ー炭素単結合を切る
  6. 最先端バイオエコノミー社会を実現する合成生物学【対面講座】
  7. 部分酸化状態を有する純有機中性分子結晶の開発に初めて成功
  8. 安全性・耐久性・高活性を兼ね備えた次世代型スマート触媒の開発

注目情報

ピックアップ記事

  1. 岩塩と蛍石ユニットを有する層状ビスマス酸塩化物の構造解析とトポケミカルフッ化反応によるその光触媒活性の向上
  2. E.・ピーター・グリーンバーグ E. Peter Greenberg
  3. ゴールドエクスペリエンスが最長のラダーフェニレンを産み出す
  4. バイオマスからブタジエンを生成する新技術を共同開発
  5. (-)-ナカドマリンAの全合成
  6. 高効率な可視-紫外フォトン・アップコンバージョン材料の開発 ~太陽光や室内LED光から紫外光の発生~
  7. イミダゾリニウムトリフラート塩の合成に有用なビニルスルホニウム塩前駆体
  8. のむ発毛薬の輸入承認 国内初、年内にも発売へ
  9. ハワイの海洋天然物(+)-Waixenicin Aの不斉全合成
  10. ホットキーでクールにChemDrawを使いこなそう!

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2011年11月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
282930  

注目情報

最新記事

植物由来アルカロイドライブラリーから新たな不斉有機触媒の発見

第632回のスポットライトリサーチは、千葉大学大学院医学薬学府(中分子化学研究室)博士課程後期3年の…

MEDCHEM NEWS 33-4 号「創薬人育成事業の活動報告」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

第49回ケムステVシンポ「触媒との掛け算で拡張・多様化する化学」を開催します!

第49回ケムステVシンポの会告を致します。2年前(32回)・昨年(41回)に引き続き、今年も…

【日産化学】新卒採用情報(2026卒)

―研究で未来を創る。こんな世界にしたいと理想の姿を描き、実現のために必要なものをうみだす。…

硫黄と別れてもリンカーが束縛する!曲がったπ共役分子の構築

紫外光による脱硫反応を利用することで、本来は平面であるはずのペリレンビスイミド骨格を歪ませることに成…

有機合成化学協会誌2024年11月号:英文特集号

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2024年11月号がオンライン公開されています。…

小型でも妥協なし!幅広い化合物をサチレーションフリーのELSDで検出

UV吸収のない化合物を精製する際、一定量でフラクションをすべて収集し、TLCで呈色試…

第48回ケムステVシンポ「ペプチド創薬のフロントランナーズ」を開催します!

いよいよ本年もあと僅かとなって参りましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか。冬…

3つのラジカルを自由自在!アルケンのアリール–アルキル化反応

アルケンの位置選択的なアリール–アルキル化反応が報告された。ラジカルソーティングを用いた三種類のラジ…

【日産化学 26卒/Zoomウェビナー配信!】START your ChemiSTORY あなたの化学をさがす 研究職限定 キャリアマッチングLIVE

3日間で10領域の研究職社員がプレゼンテーション!日産化学の全研究領域を公開する、研…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP