Ns(ノシル=2-Nitrobenzenesulfonyl)基といえば、アミンの保護および活性化の役割を果たす非常に頼もしい保護基です。ご存じの通り、菅敏幸先生、福山透先生によって開発された保護基です。
Kan, T.; Fukuyama, T. Chem. Commun. 2004, 353.
DOI: 10.1039/b311203a
言うまでもないと思いますが、Ns基はチオフェノールなどのチオールを求核付加させると、Meisenheimer錯体を経由して脱保護されます。この脱保護の反応条件は、多くの場合、他の保護基とオルトゴナルに脱保護することができます。
Ns基は2位にニトロ基を持ちますが、保護、アルキル化、脱保護のどの観点からしても、ニトロ基の位置は4位でも良い気がします。むしろニトロ基は4位にあった方がNMRの芳香環領域が見やすくて良い気がします。
一般的な表記ではないかもしれませんが、「人名反応に学ぶ有機合成戦略」という本では、この4位にニトロ基を有するタイプの保護基(すなわち4-Nitrobenzenesulfonyl基)を「Nos」という略語で示しています。実際Nos基でもNs基と同様の反応が行えるようです。しかしながら、保護基の導入において用いるNosClは、NsClと比べると非常に高価なので、あまり好んで利用する人はいないでしょう。これら2つの保護基が反応性に影響を及ぼすという報告例があれば面白そうです。
2位と4位の両方にニトロ基を有するタイプの保護基はときどき見かけます。DNs基です。
ニトロ基が増えた分、Ns基よりも弱い求核剤でMeisenheimer錯体を形成し、容易に脱保護されます。今年、福山先生の講演を聞く機会があったのですが、「Meisenheimer錯体」が今、有機化学の教科書にきちんと載っているか心配されていました。
Meisenheimer錯体、ちゃんと多くの教科書に載っています。教科書の知識をいかに日々の研究に活かそうとするか、というところがNs基のケミストリーのような面白いケミストリーの発展に繋がっていくわけですね。
【追記 】
静岡県立大の菅敏幸先生より
1)Nos基よりもNs基を用いる理由
2) DNs基の利点
3) 脱保護に用いるチオールの悪臭問題の解決法
を直接教えて頂きました。ありがとうございます!
Nos基(p-ニトロベンゼンスルホニル)でなく、Ns基(o-ニトロベンゼンスルホニル)を第一選択としている理由は、安価であることも一つの理由です。しかし、それだけでなくNos基の脱保護では副反応が進行する報告があるためです[1]
また、光延反応を行う場合はNs基の方が良好である場合が多いです。DNs基は、Ns基存在下、選択的な除去が可能[2[であり、より穏和な条件にて脱保護できるため不安定な化合物合成に有効です。[3]
また本保護器の脱保護の際、チオフェノールの悪臭の問題をよく聞かれます。アミン合成の場合は、過剰量を必要としますが4-カルボキシフェニルチオールを用いると微臭かつ後処理が簡便なようです。[4] また、フェノールのNs保護体の場合は 、2-アミノフェニルチオールが簡便です。
参考文献
- Wuts, P. G.M.;Northuis, J. M. Tetrahedoron Lett, 1998, 39, 3889. DOI: 10.1016/S0040-4039(98)00684-4
- Fukuyama, T.; Cheung, M.; Jow, C-K.; Hidai, Y.; Kan. T. Tetrahedron Lett. 1997, 38, 5831. DOI: 10.1016/S0040-4039(97)01334-8
- Wakimoto, T.; Asakawa, T.; Akahoshi, S.; Suzuki, T.; Nagai, K.; Angew. Chem. Int. Ed. 2011, 50, 1168. DOI;10.1002/anie.201004646
- M. Node et. al, Synth. Commun 2008, 38, 119.
- Aihara, Y.; Yoshida, A.; Furuta, T.; Wakimoto, T.; Akizawa, T.; Konishi, M.; Kan, T. Bio. Med. Chem. Lett, 2009, 19, 4171. DOI:10.1016/j.bmcl.2009.05.111
by ブレビコミン 2011.11.6
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