[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

現代の錬金術?―ウンコからグラフェンをつくった話―

[スポンサーリンク]

今回は小ネタを一つ。タイトルだけ見ると「なんじゃそりゃぁああ!」ですが、レッキとした先端研究の一つというのだから驚き。

当該論文はこれ↓

”Growth of Graphene from Food, Insects, and Waste.”
Ruan, G.; Sun, Z.; Peng, Z.; Tour, J. M. ACS Nano 2011, 5, 7601. doi:10.1021/nn202625c

この研究を指揮したJames Tour教授は、ナノテクノロジー領域の先端で活躍する現役の研究者。しかし先端研究の傍らで、ナノプシャンとかナノカーなどといった遊び心満載な物体を合成することも忘れない、ユーモラスなお方でもあります。

そんなぼくらのアイドルTour教授が、またまたやってくれましたよ!

グラフェンは素材としての応用性が無限に考えうる炭素材料です。その有望性から、発見者には2010年のノーベル物理学賞が与えられたほど。難しいことはさておき、よーするに「グラフェン=非常に高価値な物質」だということをお分かりいただければ、それでOK。

グラフェンを作るにはChemical Vapor Depositionという手法が使われますが、そんな難しいことはさておき、炭素材料ですから原料として何かしらの炭素源が必要になるのはお分かりいただけるでしょう。

ここでTour教授のTour教授たるゆえんが発揮されます。

ふつうの炭素源を使わない!!何からグラフェンを作ったかというと・・・

・ガールスカウトのクッキー
・チョコレート
・プラスチック
・草
・ゴキブリの足

そして極めつけに
・犬のフン(!)

こんなことして大丈夫なのか!?むしろ高額な装置が心配・・・

しかしこんなゴミ同然のものからでも、かなり純度高いグラフェンがつくれるとか。錬金術にもほどがある! まさにこれはイグノーベル賞ものの快挙と言えるでしょう!(笑)

純粋学術的には「グラフェンの原料になる炭素源は別に純粋なものじゃなくてもいーんだよ」ってことを実証しただけなんですが、「ふーんなるほどね」でオシマイにさせないあたり、Tour教授はやはり非凡ですね。さすがにアピールの仕方とユーモア精神の発揮を心得ておられます。C&ENでもこの研究が取り上げられていますが、こんなんでなかなかパンチの効いた研究に見えるあたり凄い。

マジメすぎる日本人も少しは見習わねばいけませんかね(笑)

Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. 高純度フッ化水素酸のあれこれまとめ その2
  2. 荷電処理が一切不要な振動発電素子を創る~有機EL材料の新しい展開…
  3. アメリカ化学留学 ”大まかな流れ 編”
  4. 化学エネルギーを使って自律歩行するゲル
  5. 有機合成研究者必携! 有機合成用反応剤プロトコル集
  6. 男性研究者、育休後の生活を語る。
  7. アジドの3つの窒素原子をすべて入れる
  8. 最先端バイオエコノミー社会を実現する合成生物学【対面講座】

注目情報

ピックアップ記事

  1. UBEの新TVCM『ストーリーを変える、ケミストリー』篇、放映開始
  2. 【ケムステSlackに訊いて見た④】化学系学生の意外な就職先?
  3. 徹底的に電子不足化した有機π共役分子 ~高機能n型有機半導体材料の創製を目指して~
  4. 第20回ケムステVシンポ『アカデミア創薬 A to Z』を開催します!
  5. 化学作業着あれこれ
  6. 熱を効率的に光に変換するデバイスを研究者が開発、太陽光発電の効率上昇に役立つ可能性
  7. キャロル転位 Carroll Rearrangement
  8. ジョン・グッドイナフ John B. Goodenough
  9. 硫酸エステルの合成 Synthesis of Organosulfate
  10. Cell Pressが化学のジャーナルを出版

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2011年8月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293031  

注目情報

最新記事

有機合成化学協会誌2024年12月号:パラジウム-ヒドロキシ基含有ホスフィン触媒・元素多様化・縮環型天然物・求電子的シアノ化・オリゴペプチド合成

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2024年12月号がオンライン公開されています。…

「MI×データ科学」コース ~データ科学・AI・量子技術を利用した材料研究の新潮流~

 開講期間 2025年1月8日(水)、9日(木)、15日(水)、16日(木) 計4日間申込みはこ…

余裕でドラフトに収まるビュッヒ史上最小 ロータリーエバポレーターR-80シリーズ

高性能のロータリーエバポレーターで、効率良く研究を進めたい。けれど設置スペースに限りがあり購入を諦め…

有機ホウ素化合物の「安定性」と「反応性」を両立した新しい鈴木–宮浦クロスカップリング反応の開発

第 635 回のスポットライトリサーチは、広島大学大学院・先進理工系科学研究科 博士…

植物繊維を叩いてアンモニアをつくろう ~メカノケミカル窒素固定新合成法~

Tshozoです。今回また興味深い、農業や資源問題の解決の突破口になり得る窒素固定方法がNatu…

自己実現を模索した50代のキャリア選択。「やりたいこと」が年収を上回った瞬間

50歳前後は、会社員にとってキャリアの大きな節目となります。定年までの道筋を見据えて、現職に留まるべ…

イグノーベル賞2024振り返り

ノーベル賞も発表されており、イグノーベル賞の紹介は今更かもしれませんが紹介記事を作成しました。 …

亜鉛–ヒドリド種を持つ金属–有機構造体による高温での二酸化炭素回収

亜鉛–ヒドリド部位を持つ金属–有機構造体 (metal–organic frameworks; MO…

求人は増えているのになぜ?「転職先が決まらない人」に共通する行動パターンとは?

転職市場が活発に動いている中でも、なかなか転職先が決まらない人がいるのはなぜでしょう…

三脚型トリプチセン超分子足場を用いて一重項分裂を促進する配置へとペンタセンクロモフォアを集合化させることに成功

第634回のスポットライトリサーチは、 東京科学大学 物質理工学院(福島研究室)博士課程後期3年の福…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP