[スポンサーリンク]

一般的な話題

Nature Chemistry誌のインパクトファクターが公開!

[スポンサーリンク]

 

世の中には星の数ほどのジャーナルが溢れています。
どのジャーナルがよい論文を載せているのか?―これは大まかにはインパクトファクター(IF)という数値で表されています。

ご存じない方のため簡単に説明しておきますと、IF値とは

A = 対象の雑誌が(n-2)年に掲載した論文数
B = 対象の雑誌が(n-1)年に掲載した論文数
C = 対象の雑誌が(n-2)年・(n-1)年に掲載した論文が、n年に引用された延べ回数
C÷(A+B) = n年のインパクトファクター (引用:Wikipedia)

という公式で計算されます。要するに過去2年間で各論文が平均何回引用されたか、ということを示す値ですね。こういった定義上の理由から、創刊から最低でも2年経たないと計算できないわけです。

さて、2009年に鳴り物入りで化学界デビューした総合化学ジャーナルNature Chemistry。先日創刊2周年を迎え、IF値が計算される運びとなりました。
前評判はかなりのものでしたが、はてさて気になるその値は・・・?

 

なんと 17.9 !!!

既存の主要化学ジャーナルをぶっちぎりで置いて行ってしまいました・・・。
主要化学ジャーナルのIF値は、おそらくご存じない方もいるでしょう。以下に比較掲載しておきます。(すべて2010年の値)

Nature            36.101
Science           31.364
Nature Chemistry            17.927
Nature Materials              29.897
Nature Nanotechnology        39.306
Nature Chemical Biology       15.808
J. Am. Chem. Soc.            9.019
Angew. Chem. Int. Ed.         12.730
Chem. Sci.                    創刊2年未満
Chem. Commun.                5.787
Chem. Eur. J.                5.476
Chem. Asian. J.                4.188
Bull. Chem. Soc. Jpn.       1.574
Chem. Lett.           1.400
Acc. Chem. Res.(総説誌)      21.840
Chem. Rev. (総説誌)         33.033
Chem. Soc. Rev. (総説誌)    26.583
Proc. Natl. Acad. Sci. USA     9.771

このように簡便な比較ができる利点がある反面、IF値は評価基準としていろいろ片手落ちとも言われています。

総論文数で除した平均値なので、当然ながら必ずしも特定の論文のインパクトを反映しているわけではありません。

また同一分野で比較する限りにおいては、ある程度の妥当性をもつ値ですが、分野横断型の比較には向きません。流行であったり研究者人口が多い分野のジャーナルは、引用数が多くなってしかるべきだからです。

紹介目的で引用しやすい総説文献を掲載しているジャーナルもIF値が高くなります。高インパクト研究が多数掲載される、化学最高峰ジャーナルJ. Am. Chem. Soc.誌のIF値は、意外にも高くないことがおわかりかと思います。これは総説文献を一切載せていないことが一因です。

また時にはひとつの論文だけが異常な回数引用されてしまい、結果として雑誌のIF値を実情を反映していない値にまで上げてしまうことが起こりえます。
たとえば結晶学専門誌Acta Cryst. Aというジャーナルは、G.M.Sheldrickによる2008年の論文“A short history of SHELX”が6000回以上引用されたため、結果として専門誌にしてはあり得ないIF=49.9(2009年)を叩きだしています。これが引用カウントから外れる2011年には、通常通りのIF=1.5-2.5という値に戻るとされています。

ですからあくまで参考程度に見ておくのが良いスタンスと言えるでしょうね。「インパクトファクターが高いジャーナルに載った仕事=革新的な仕事、素晴らしい仕事」という公式は当然ながら成り立たず、論文の重要性はあくまで自分の目で判断するべきと思います。

ともあれこのIF=17.9というのは、間違いなく驚異的な数値です。Natureのブランド力はいつの時代でも健在ですね。

 

関連リンク

※IF値は各ジャーナル誌のホームページに掲載されていますが、引用文献データベースWeb of Knowledgeを使って調べることもできます。トムソン社の公式文書PDFに載っていますので、詳しくはそちらをご参照ください。

Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. OPRD誌を日本プロセス化学会がジャック?
  2. 電池で空を飛ぶ
  3. 第49回ケムステVシンポ「触媒との掛け算で拡張・多様化する化学」…
  4. ベンゼン環が壊れた?!ー小分子を活性化するー
  5. ぼっち学会参加の極意
  6. 工程フローからみた「どんな会社が?」~タイヤ編 その2
  7. 「リジェネロン国際学生科学技術フェア(ISEF)」をご存じですか…
  8. 日本化学会 第103春季年会 付設展示会ケムステキャンペーン P…

注目情報

ピックアップ記事

  1. 総合化学大手5社、4-12月期の経常益大幅増
  2. 高純度フッ化水素酸のあれこれまとめ その1
  3. 日本薬学会  第143年会 付設展示会ケムステキャンペーン Part 1
  4. 日本化学連合シンポジウム 「海」- 化学はどこに向かうのか –
  5. 化学は切手と縁が深い
  6. 有機反応を俯瞰する ーシグマトロピー転位
  7. バイアグラ /viagra
  8. シイタケ由来成分に抗アレルギー効果を確認
  9. JSR、東大理物と包括的連携に合意 共同研究や人材育成を促進
  10. 位置およびエナンチオ選択的Diels-Alder反応に有効な不斉有機触媒

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2011年7月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

注目情報

最新記事

有機合成化学協会誌2025年4月号:リングサイズ発散・プベルル酸・イナミド・第5族遷移金属アルキリデン錯体・強発光性白金錯体

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2025年4月号がオンラインで公開されています!…

第57回若手ペプチド夏の勉強会

日時2025年8月3日(日)~8月5日(火) 合宿型勉強会会場三…

人工光合成の方法で有機合成反応を実現

第653回のスポットライトリサーチは、名古屋大学 学際統合物質科学研究機構 野依特別研究室 (斎藤研…

乙卯研究所 2025年度下期 研究員募集

乙卯研究所とは乙卯研究所は、1915年の設立以来、広く薬学の研究を行うことを主要事業とし、その研…

次世代の二次元物質 遷移金属ダイカルコゲナイド

ムーアの法則の限界と二次元半導体現代の半導体デバイス産業では、作製時の低コスト化や動作速度向上、…

日本化学連合シンポジウム 「海」- 化学はどこに向かうのか –

日本化学連合では、継続性のあるシリーズ型のシンポジウムの開催を企画していくことに…

【スポットライトリサーチ】汎用金属粉を使ってアンモニアが合成できたはなし

Tshozoです。 今回はおなじみ、東京大学大学院 西林研究室からの研究成果紹介(第652回スポ…

第11回 野依フォーラム若手育成塾

野依フォーラム若手育成塾について野依フォーラム若手育成塾では、国際企業に通用するリーダー…

第12回慶應有機化学若手シンポジウム

概要主催:慶應有機化学若手シンポジウム実行委員会共催:慶應義塾大学理工学部・…

新たな有用活性天然物はどのように見つけてくるのか~新規抗真菌剤mandimycinの発見~

こんにちは!熊葛です.天然物は複雑な構造と有用な活性を有することから多くの化学者を魅了し,創薬に貢献…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー