2010年から始まったエルゼビアによる超若手化学者(博士課程終了後1年以内の化学者)に送られるReaxys Prize。(昨年度の結果はこちら)半月前にファイナリストの発表がありましたが、ようやく受賞者3名が決定しました。今年も300名以上の応募があり、非常に競争が激しかったようです。栄えある受賞者はこちら!
Vikram Bhat (University of Chicago)
Steven Malcolmson (Boston College)
Dixit Parmar(University of Manchester)
残念ながら今年は日本人の受賞は有りませんでしたが、折角なのでそれぞれの受賞者とその仕事を簡単に紹介したいと思います。
Vikram Bhat, Ph.D
米国シカゴ大学のViresh Rawal教授のもとで行ったN-Methylwelwitindolinone D Isonitrileの全合成が受賞理由のようです。welwitindolinone類はWoodやBaranらも過去に素晴らしい展開しました。この合成は2つのエノラートのルイス酸触媒を用いたアルキル化および触媒的アリール化反応により骨格を構築しています。どうやらこの方、これが博士課程初論文のようです。特筆すべき合成ではない気がしますが(すみません)、非常に綺麗に全合成を行っています。昨年Baran研でwelwitindolinone Aを保護基を用いない全合成でこの賞を受賞したTom君の受賞があったので、これでこのインドールアルカロイド類2回目の受賞となります。
“Total Synthesis of N-Methylwelwitindolinone D Isonitrile”Bhat,V.; Allan, K.M Rawal, V. H. J. Am. Chem. Soc. 2011, 133, 5798.DOI: 10.1021/ja201834u
Steven Malcolmson, Ph.D.
米国ボストンカレッジのAmir H. Hoveyda教授の研究室で行った、エナンチオ選択的オレフィンメタセシスが主な業績ですNature1報、その他4報、総説2報、2つの書籍と学生としては飛び抜けた全く申し分ない業績だと思います。現在ハーバードメディカルスクールのChristopher Walsh教授のところで博士研究員をしているようです。アカデミアに残るかわかりませんが、もし残るならメタセシスと生物化学の知識で何をするのかが楽しみなところですね。ところでHoveyda教授は最近Z選択的オレフィンメタセシスを同じくNatureに出しているので、第一著者は未来のReaxys Prize候補?
“Highly efficient molybdenum-based catalysts for enantioselective alkene metathesis”Malcolmson, S. J.; Meek, S. J.; Sattely, E. S.; Schrock, R. R.; Hoveyda, A. H. Nature 2008, 456, 933. DOI:10.1038/nature07594
Dixit Parmar, Ph. D
英国マンチェスター大学のDavid Procter教授のもとで行ったヨウ化サマリウム/水を用いたラクトンの還元的カスケード環化反応が代表的な仕事のようです。Procter教授は若手の教授でヨウ化サマリウム大好き。Parmar博士はこの他にももう一報ヨウ化サマリウムを用いた反応を開発しているようです。
“Reductive Cyclization Cascades of Lactones Using SmI2-H2O” Parmar, D.; Price, K.; Spain, M.; Matsubara, H.;Bradley, P. A.; Procter, D. J. J. Am. Chem. Soc. 2011, 133, 2418. DOI:10.1021/ja1114908
この受賞者3名を除いて、第一次審査に通過したファイナリストはこちらです。
Jenefer Alam Robert Andrews Abdulkader BaroudiAlan Burns Matthew Cain Justin ChalkerChangle Chen Karl Collins Lei FangAnastasia Hager Xiaoyu Han Shenshen HuMasayuki Iwasaki Pankaj Jain Liqun JinRonen Kreizman Christian Andreas Kuttruff Florian LobermannAndreas Lorbach Liang-Qiu Lu Ting MaMichael Muratore Timothy Newhouse Weidong RaoUrs Rauwald Alexander Reznichenko Sarah RyanSubhas Samanta Corinna Schindler Christopher SerpellXiao Shen Zhuangzhi Shi Andrey SolovyevJohannes Sprafke Haichao Xu Charles YeungElena Zaborova Jason Zbieg Qi ZhangHaiyan Zhao Jun Feng Zhao Qianghui Zhou
ちょっと覗いてみると、シンガポールTeck-Peng Loh教授のところで、向山アルドールでペプチドやタンパク質の官能基化を行ったAlam博士、スクリプス研究所Stoddart研で[2]Catenanesを合成したFang博士、Aiwen Lei教授のもとで、ニッケル触媒を用いた酸化的カップリング反応を行なったJin博士、カナダのVy Dong教授出身のYeung博士、Ma教授のところでEnglerin Aの全合成を行なった、Zhou博士などなど。実は、ミュンヘン大のTrauner教授のところからは3人ものファイナリストがでています。Procter教授のところからはもう一人Collins博士がファイナリストに残っていたようです。また、日本人からは京都大学大嶌研究室でレトロアリル化反応を行った岩崎博士が唯一ファイナリストに残っています。実のところ、Baran研のTim君(Timothy Newhouse博士)の受賞を期待していたのですが、ファイナリストまでで残念。来年には筆者の共同研究者でpalau’amineを合成したIan君(Ian Seiple博士)に取ってもらいたいものです(応募すればですが)。
….と最後は個人的な話になってしまって、さっぱりわからないかもしれませんが、それぞれ研究室を支える素晴らしい博士課程の学生であったことは間違いありません。この中に未来の化学者のリーダーとなる人がいるかもしれませんよ。博士課程に在籍している腕に自身のある大学院生はぜひ応募してみてはいかがでしょうか?
何にせよ、受賞おめでとうございます!それでは来年もお楽しみに!