「書物から学ぶ有機化学」と題し、何回かに分けて、様々な本とそれにまつわる有機化学の話をしてみたいと思います。
できるだけ多くの方に興味を持っていただけるよう、簡単に読める本や最近話題の小説なども取り入れていきたいと考えています。
なお、Chem-Stationには、化学全般の書籍紹介ページ「化学の本棚」があります。参考にして頂けたらと思います。
「夢を持ち続けよう!」 根岸 英一 共同通信社
どの本を選ぼうかかなり迷ったのですが、2010年ノーベル化学賞を受賞された根岸英一先生のこの本を選ばさせていただきました。
この本の主題は、好きなことは長く続けられる、続けられることをとことん追究しよう、というところにあります。実際、根岸先生は、「やりだしたら全部を見て考えないと気がすまないタイプ」とのこと。根岸カップリングの発見に至ったエピソードとして、有機合成に使えそうな金属元素70種類を2つ組合わせれば70×70=4900の組み合わせがあり、「この組み合わせの中から系統的にいいものを見つけていこうという発想をもってアプローチした」と述べており、並みならぬ追究っぷりです。
根岸カップリングなどに代表されるクロスカップリング反応は日本で発展したと言っても過言ではなく(こちらも参考にしてください)、日本の重要な財産です。そして実は、多くの場合カップリング反応で必要となるハロゲン(X)のうち、ヨウ素は日本が誇る資源の1つです。震災後に「放射性ヨウ素」という言葉をよく耳にするため、ヨウ素そのものが悪者のようにされてしまっており大変残念ですが……
少々まとまりのない文章となってしまいましたが、根岸先生の恩師であるBrown先生の口癖として挙げられている以下の言葉で締めくくりたいと思います。
“From little acorns to tall oaks…” 「大きな樫の木も小さなドングリから」