“Highly Efficient, Organocatalytic Aerobic Alcohol Oxidation”
Shibuya, M.; Osada, Y.; Sasano, Y.; Tomizawa, M.; Iwabuchi, Y.* J. Am. Chem. Soc. 2011, ASAP doi:10.1021/ja110940c
金属を使わず、空気中の酸素を使って化合物を酸化する―これは化学者であれば誰しもが夢見る、理想的な化学反応の一つでしょう。有害性が低く、原理的には水だけが廃棄物になるという、クリーンかつ安全な反応にできるためです。
しかし誰もが望む反応形式でありながら、そのような触媒条件は今もって実用レベルにありません。とりわけ大気濃度が20%しかない空気中の酸素を活用するには、相当に効率のよい触媒を開発しなくてはならず、開発難度は高いとされています。
このたび東北大学の岩淵好治グループは、そのような理想的化学反応のひとつ、「常温常圧でアルコールを空気酸化する触媒反応」の開発を成し遂げました。
鍵となるのは、著者らによって独自開発された有機触媒「AZADO」[1]。同カテゴリに属する酸化触媒TEMPOに比べ活性点周りの立体障害が少ないため、より優れた触媒活性を示すことが知られています。
著者らは既報の条件[2]を参考に、亜硝酸ナトリウムを共触媒として加えることで、フッ素置換型AZADOによる触媒的酸素酸化を達成しました。この触媒系のアドバンテージは、低い触媒使用量(1 mol%)、多官能基性の化合物に広く適用可能な点にあります。特に自己アルドール縮合やα位のエピメリ化などを引き起こしがちできれいな酸化が困難とされる、脂肪族第一級アルコールを効率よく酸化できる点は、特筆に値するのではないでしょうか。
また著者らはフッ素の導入により実際に酸化電位が上昇し、活性の向上に寄与していること(5-F-AZADO=+413mV、AZADO=+236mV)、活性中間体とされるオキソアンモニウム塩を単離し、同様の酸化触媒活性を持つことを実験的に確かめています。
以上を踏まえて、下記のような触媒サイクルが提唱されています。
なかなかに使ってみたくなる条件であり、触媒が安価に入手できるようになれば一気に普及する力を持った手法に見受けられます。今後更なる改善が進むことを期待したいです。
関連文献
[1] (a) Shibuya, M.; Sato, T.; Tomizawa, M.; Iwabuchi, Y. Chem. Commun. 2009, 1739. DOI: 10.1039/B822944A (b) Shibuya, M.; Tomizawa, M.; Suzuki, I.; Iwabuchi, Y. J. Am. Chem. Soc. 2006, 128, 8412. DOI: 10.1021/ja0620336 [2] Liu, R.; Liang, X.; Dong, C.; Hu, X. J. Am. Chem. Soc. 2004, 126, 4112. DOI: 10.1021/ja031765k
関連書籍
関連リンク
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1-Me-AZADO使ってみました (若き有機合成化学者の奮闘記)
AZADOの解説記事
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