[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

C-H活性化触媒を用いる(+)-リゾスペルミン酸の収束的合成

[スポンサーリンク]

近年一大研究領域に発展しているC-H活性化型触媒反応

膨大な報告例がここ数年でなされてきていますが、多数の官能基を有する複雑天然物のような化合物合成に応用することは、未だ難しいとされています。

そんな中でも開拓的な研究は徐々に報告されてきています。今回取り上げるスクリプス研究所・Jin-Quan Yuらによる全合成[1]は、C-H活性化触媒の優れたアプリケーションの一つと言えるでしょう。


本合成で一番のキーとなっているのは、Yuら自身が開発したC-H活性化型オレフィン連結反応[2]。
アミノ酸から誘導される配位子を共存させることで、格段の反応加速効果が見られることを見出しています。またこの触媒系の特性たる高い化学選択性を活かして、二つのフラグメントを合成終盤で結合させることに成功しています。

このように「複雑な反応に耐えうる反応系を、あえて合成終盤で用いる」という考え方は、近年とくに注目を集めています。

そういったルート設計がもたらす最大の利点は、「活性のある形状に近い化合物に対しても構造修飾を行える」ということ、言い換えれば医薬としてヒットしやすいものを加工できるため、改良可能性を高くできるということにあります。また現実的生産性という面からも、ルートの収束度を上げつつ、直線的合成の最少化にも寄与するため、総収率の向上や並行作業性の改善などが見込めます。

こういった考え方はLate-Stage Functionalizationと呼ばれ、汎用性の高い概念として確立されつつあります。もちろんこの目的に使えるほどに完成度の高い反応は現状限られているため、実際にはまだまだこれからの考え方といえるでしょう(「つぶやき」の解説記事:フッ素化反応の例)。しかし本合成は、その強力さの片鱗を見せつけている例の一つです。今後の発展がますます気になるところですね。

関連文献

  1.  Wang, D.-H.; Yu, J.-Q. J. Am. Chem. Soc. 2011 ASAP. doi:10.1021/ja2010225
  2. (a) Wang, D.-H.; Engle, K. M.; Shi, B.-F.; Yu, J.-Q. Science 2010, 327, 315. DOI: 10.1126/science.1182512 (b) Engle, K. M.; Wang, D.-H.; Yu, J.-Q. Angew. Chem., Int. Ed. 2010, 49, 6169. DOI: 10.1002/anie.201002077 (c) Engle, K. M.; Wang, D.-H.; Yu, J.-Q. J. Am. Chem. Soc. 2010, 132, 14137. DOI: 10.1021/ja105044s

関連リンク

Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. 5/15(水)Zoom開催 【旭化成 人事担当者が語る!】202…
  2. Q&A型ウェビナー マイクロ波化学質問会
  3. 創発型研究のススメー日本化学会「化学と工業:論説」より
  4. 給電せずに電気化学反応を駆動 ~環境にやさしい手法として期待、極…
  5. 知の市場:無料公開講座参加者募集のご案内
  6. シリコンバレーへようこそ! ~JBCシリコンバレーバイオ合宿~
  7. 即戦力のコンパクトFTIR:IRSpirit
  8. 武装抗体―化学者が貢献できるポイントとは?

注目情報

ピックアップ記事

  1. ヘテロカンシラノール
  2. 進化するCAS SciFinderⁿ
  3. ケムステの記事が3650記事に到達!
  4. 科学探偵 シャーロック・ホームズ -警察やFBIに先駆けて犯罪捜査に科学を取入れた探偵
  5. 温故知新ケミストリー:シクロプロペニルカチオンを活用した有機合成
  6. 有機合成化学協会誌2023年3月号:Cynaropicri・DPAGT1阻害薬・トリフルオロメチル基・イソキサゾール・触媒的イソシアノ化反応
  7. 科学とは「未知への挑戦」–2019年度ロレアル-ユネスコ女性科学者日本奨励賞
  8. フェネストレンの新規合成法
  9. リチウムイオン電池 電解液の開発動向と高機能化
  10. 混ぜるだけで簡単に作製でき、傷が素早く自己修復する透明防曇皮膜

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2011年4月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
252627282930  

注目情報

最新記事

MEDCHEM NEWS 34-1 号「創薬を支える計測・検出技術の最前線」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

医薬品設計における三次元性指標(Fsp³)の再評価

近年、医薬品開発において候補分子の三次元構造が注目されてきました。特に、2009年に発表された論文「…

AI分子生成の導入と基本手法の紹介

本記事では、AIや情報技術を用いた分子生成技術の有機分子設計における有用性や代表的手法について解説し…

第53回ケムステVシンポ「化学×イノベーション -女性研究者が拓く未来-」を開催します!

第53回ケムステVシンポの会告です!今回のVシンポは、若手女性研究者のコミュニティと起業支援…

Nature誌が発表!!2025年注目の7つの技術!!

こんにちは,熊葛です.毎年この時期にはNature誌で,その年注目の7つの技術について取り上げられま…

塩野義製薬:COVID-19治療薬”Ensitrelvir”の超特急製造開発秘話

新型コロナウイルス感染症は2023年5月に5類移行となり、昨年はこれまでの生活が…

コバルト触媒による多様な低分子骨格の構築を実現 –医薬品合成などへの応用に期待–

第 642回のスポットライトリサーチは、武蔵野大学薬学部薬化学研究室・講師の 重…

ヘム鉄を配位するシステイン残基を持たないシトクロムP450!?中には21番目のアミノ酸として知られるセレノシステインへと変異されているP450も発見!

こんにちは,熊葛です.今回は,一般的なP450で保存されているヘム鉄を配位するシステイン残基に,異な…

有機化学とタンパク質工学の知恵を駆使して、カリウムイオンが細胞内で赤く煌めくようにする

第 641 回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院理学系研究科化学専攻 生…

CO2 の排出はどのように削減できるか?【その1: CO2 の排出源について】

大気中の二酸化炭素を減らす取り組みとして、二酸化炭素回収·貯留 (CCS; Carbon dioxi…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー