[スポンサーリンク]

一般的な話題

化学クラスタ発・地震被害報告まとめ

[スポンサーリンク]

まずは東北太平洋地震で被災された方々にはお悔やみ申し上げ、亡くなられた方々のご冥福をお祈りいたしします。

長時間にわたる大きな横揺れと巨大な津波など、いかんとも対策しようがない数々の自然災害が今回の特徴でした。

筆者の所属するラボでも、震度5弱という未体験震度を経験することになりました。幸いにも大きな事故はなく、事なきを得ましたが、震災の余波はあちこちに見受けられます。

今回はTwitterやメールから聞こえてきました、「地震に際して起きた事故例」を、筆者の把握する限りでまとめて公開させていただきます。

せっかく人よりも多くの情報が得られ、また多人数に情報発信できる立場にいるのですから、こういった情報をまとめて公表することで、皆さんの注意喚起できればよいと思いました。またこれこそが化学情報サイトの担える使命のひとつではないかとも思えるのです。

地震大国日本、遠からず近場での大地震や巨大な余震が起きることを考え、これが被害を最小限にするための一助となってくれれば幸いです。

NMRがクエンチした!

筆者の所属機関では大丈夫でしたが、これは複数の場所で起きていたようです。
NMRでいうクエンチとは超電導状態の停止事故のことで、結果として電気抵抗による発熱が生じ、液体ヘリウムや窒素が急激に気化します。地震によっても、マグネットにひずみが生じたりすれば起こりうるとのこと。実際にどんな様子になるかは、動画をご覧ください。不活性気体が密閉空間に充満するので、窒息死亡事故などにつながる大変危険な事故のひとつです。

大型器具やボンベ・本棚を固定していたボルトがゆるむ

地震対策として大型器具や本棚にはボルト止め、ボンベには転倒防止のチェーンが張ってあることが多いです。しかしかの巨大地震のあと、大きなエネルギーがかかったために、そもそものボルトが抜けたり緩んだりしてしまっている、という報告がありました。これは気づきにくい点ですし、大きな余震の際にさらなる被害を引き起こす可能性があるものです。ケムステTwitterでも注意喚起させていただきましたが、是非いま一度、ご自身の所属環境でそういうことが起こっていないか、チェックをお願いいたします。

 

THFの蒸留塔がONだった

これは筆者のラボで実際にありました。普段から使っていますので全く致し方ないのですが、蒸留塔自体は、倒れないようしっかり固定してあったので事なきを得ました。常日頃からちょっとでも揺れを感じたらすぐオイルバスをOFFにするように努めていますが、倒れて割れてケチルがopen airになってしまうと、火災事故など大変なことになることは想像に難くありません。

 

オイルバスがひっくり返る

ひっくり返るまではいかなくとも、揺れに揺れてオイルがあちこちにまき散らかされてるものもたくさんありました。加熱中のオイルはやけどの原因になり、怖いです。揺れてる時は近づかないように。

 

エバポレーターが落下して壊滅

器具の構造上、完全固定して使うものではないですから、この事故は多くのラボで生じていたようです。正直防ぎようがない感じですね。何かいい案がある方はぜひとも教えて欲しいです。

割れたガラスにだけは気をつけるようにしましょう。

 

サンプルを保存してあるフラスコ、試薬瓶が床に落ちて割れる

日々の化学物質を扱う身としては、小さな地震といえども身の危険を感じることが多いです。
なぜなら有毒・激臭な試薬瓶が数本割れるだけで、大変なことになるのですから。

筆者の環境では、地震直後にまず試薬棚をチェック、倒れたり漏れ出してる試薬がないかを確認しました。鍵がかかる棚に収められているので試薬そのものが飛び出してくることはなく、そこは一安心でした。大きな瓶や小瓶サンプルは深めのバットやケースなどに入れるようにしてあり、それも功を奏したようです。結果として倒れにくくなっていたわけです。

自分のベンチにあるフラスコは、別に地震云々じゃなくとも、クランメルでちゃんと固定する習慣をつけるほうが良いと思います。不意につついて倒してしまうこともたくさんあるので。基本的なとこですね。サンプルなども、落下防止のガードレールが付いてる棚に置くようにしたいです。なければタコ糸を横渡しに張ってガードにするだけでもだいぶ違いますよ。

 

大学後期入試が繰り下げ、しかし多くの大学では決行

余震が続き、緊急地震速報が頻繁に鳴る中ですが、被災地から距離的に遠い多くの国公立大学では後期入試が決行されました。試験監督も不測の事態に対応すべく、いつも以上に気を引き締めて臨んでいたようです。

センター試験当日じゃなかったのが、まだ不幸中の幸いといえるでしょうか。

被災地のかたがたにはもちろん配慮があるようで、追試がちゃんと行われるようです。安心してください。さすがに震源地近くの大学では延期が多くありました。スケジュール一覧はこちらによくまとまっています。

 

最終講義の最中に地震が起きて避難

まさに地震が起きたとき、全合成化学の大御所・竜田邦明教授の最終講義が行われていたそうです。さすがに中断、全員避難する事態になったようです。おそらくそうそうたるメンバーが参加していたでしょうから、会場崩落など起きていたら日本有機化学界の一大損失になっていたかもしれません。実際には大きなダメージはなかったようで一安心。講義はその後ちゃんとつつがなく行われたようです。

 

計画節電に伴う対応

初めての試みたる計画停電。いろいろ不便もあるでしょうが、このような非常事態ですから、みなで助け合って取り組む姿勢が必要だと思われます。

電車も止まってしまうため、関東圏では多くの遠方通勤者がラボにやってこれなくなりました。実質的に学級閉鎖状態になってるとこもあるようです。

ラボ単位では、常時電源ONで使用している数多くの分析機器やグローブボックス、真空ポンプ、ワークステーションなどに対応が必要だと思われます。停電でデータが失われたり、予期せぬ続発事故がおきないように、準備しておく必要があるでしょう。

節電によりドラフトをとめるところもあるようですが、有機系だと溶媒充満などのほうが、よほどリスキーかもしれません。よく考えて実行されるのがベターでしょう。

以上まとめてきましたが、Twitterで流れてくると情報は基本的に被害少なめなところのものに思われます。震源地付近では、おそらくインフラが壊滅状態でしょうから、いまだどのような状況なのか詳しい情報が流れてこないという現実です。こちらとしても把握しきれていない、というのが正直なところです。震源地付近の情報をお持ちの方は、積極的にお寄せいただければ幸いに思います。

突然の地震、こんな予期せぬ事故が起きた!という事例が、「つぶやき」読者の皆さんにもあるかと思います。そういった体験をお持ちの方は、ぜひTwitter(@chemstation)やコメント欄でお知らせいただければ幸いです。データベース的意義をもたせるため、随時ここに追加させていただきます。

 

外部リンク

Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. 続・日本発化学ジャーナルの行く末は?
  2. 第97回 触媒化学融合研究センター講演会に参加してみた
  3. Anti-Markovnikov Hydration~一級アルコ…
  4. ケムステイブニングミキサー2017ー報告
  5. 紫外線に迅速応答するフォトクロミック分子
  6. ボリルヘック反応の開発
  7. シクロプロパンの数珠つなぎ
  8. 自己組織化ホスト内包接による水中での最小ヌクレオチド二重鎖の形成…

注目情報

ピックアップ記事

  1. 第131回―「Nature出版社のテクニカルエディターとして」Laura Croft博士
  2. MEDCHEM NEWS 30-4号「ペプチド化学」
  3. 銅触媒と可視光が促進させる不斉四置換炭素構築型C-Nカップリング反応
  4. メリフィールド氏死去 ノーベル化学賞受賞者
  5. 有機合成化学協会誌2023年11月号:英文特別号
  6. 第64回―「ホウ素を含むポルフィリン・コロール錯体の研究」Penny Brothers教授
  7. MEDCHEM NEWS 32-4 号「創薬の将来ビジョン」
  8. 芝哲夫氏死去(大阪大名誉教授・有機化学)
  9. 犬の「肥満治療薬」を認可=米食品医薬品局
  10. マシュー・ゴーント Matthew J. Gaunt

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2011年3月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
28293031  

注目情報

最新記事

乙卯研究所 2025年度下期 研究員募集

乙卯研究所とは乙卯研究所は、1915年の設立以来、広く薬学の研究を行うことを主要事業とし、その研…

次世代の二次元物質 遷移金属ダイカルコゲナイド

ムーアの法則の限界と二次元半導体現代の半導体デバイス産業では、作製時の低コスト化や動作速度向上、…

日本化学連合シンポジウム 「海」- 化学はどこに向かうのか –

日本化学連合では、継続性のあるシリーズ型のシンポジウムの開催を企画していくことに…

【スポットライトリサーチ】汎用金属粉を使ってアンモニアが合成できたはなし

Tshozoです。 今回はおなじみ、東京大学大学院 西林研究室からの研究成果紹介(第652回スポ…

第11回 野依フォーラム若手育成塾

野依フォーラム若手育成塾について野依フォーラム若手育成塾では、国際企業に通用するリーダー…

第12回慶應有機化学若手シンポジウム

概要主催:慶應有機化学若手シンポジウム実行委員会共催:慶應義塾大学理工学部・…

新たな有用活性天然物はどのように見つけてくるのか~新規抗真菌剤mandimycinの発見~

こんにちは!熊葛です.天然物は複雑な構造と有用な活性を有することから多くの化学者を魅了し,創薬に貢献…

創薬懇話会2025 in 大津

日時2025年6月19日(木)~6月20日(金)宿泊型セミナー会場ホテル…

理研の研究者が考える未来のバイオ技術とは?

bergです。昨今、環境問題や資源問題の関心の高まりから人工酵素や微生物を利用した化学合成やバイオテ…

水を含み湿度に応答するラメラ構造ポリマー材料の開発

第651回のスポットライトリサーチは、京都大学大学院工学研究科(大内研究室)の堀池優貴 さんにお願い…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー