[スポンサーリンク]

一般的な話題

「ラブ・ケミストリー」の著者にインタビューしました。

[スポンサーリンク]

 

3月初旬に発売され、化学クラスタを中心に大好評を得ている喜多喜久著の「ラブ・ケミストリー」。化学系のラブコメ&ミステリーがいままで存在せず、そのアイデアを実現し見事出版された著者の喜多氏が大変気になりました。そこで、アポ無しで突撃インタビューを試みたところ、快く応じてくれました(メールでの仮想インタビューですが)。地震の為、通常の記事を自粛しており掲載が遅れましたが、ラブ・ケミストリー執筆のきっかけや秘密について聴いてきましたのでぜひご覧ください!

 

さて、始まりました、著者の喜多さんにラブケミについてインタビュー!それではどうぞ!

Q1. 現在製薬会社勤務という事ですが、どうして小説を書こうと考えたのですか?また化学者の大学院生を主人公にした理由は?

 
koushi.png

かつて孔子はこう言ったそうです。「吾、十五にして学に志す。三十にして立つ」と。
僕は三十歳を迎えたとき、言いようのない不安に駆られました。
あまりに毎日に変化がなさすぎる、と今更ながらに気づいてしまったのです。
そこで僕は、全力でのめり込める「趣味」を探す旅に出ました。
昔から本が好きだったので、まずは「小説を書くこと」に挑戦しようと決めました。
とはいえ、いきなり物語を作れるわけもなく、実体験を元にしようにも、自分には有機化学のバックグラウンドしかありませんでした。

普通なら諦めるところです。しかし、これはあくまで趣味なのです。僕は、遠慮は無用! と自分に暗示を掛け、アマチュア的開き直りをもって、いっそ清々しいほどに堂々と有機化学を題材にすることにしました。
そんなプロセスを経て、全合成をやっている大学院生を登場させることになったわけです。

Q2. 実際かなりの専門的な描写があり、化学系の方には大変うけがいいところだと思います。ただ、一般的には結構難しいのではないかと思いますが、この点に関してどのように思慮いたしましたか。

ns_tbs.png
確かに、本文中には様々な化学用語が出てきます。しかも、それなりにマニアックです。
ノシル基やTBSClなんて単語が平気で飛び出します。もちろん、説明は一切ありません。
でも、それが登場人物たちの日常なのだから、それでいいんじゃないかな、と僕は思っています。
考えてみれば、普通の小説を読んでいても、十全に説明されない単語が山ほど出てきます。
例えば、『P≠NP予想』、『オッカムの剃刀』、『オルバースのパラドックス』などがそうです。(ヒマな人は、元ネタが出てくる本を探してみてください)

どの単語も、ほいほい正しい意味を答えられるものではありません。それでも僕はその本を楽しく読めました。
だから、ストーリーが理解できるように書かれてさえいれば、あとは何を書いても自由なのでは、と思います。

Q3. 登場人物(藤村君、神崎先生、ヒロインなどなど)にモデルはいるのでしょうか。

whoaremodel.png
基本的にモデルはいませんが、男性陣の立ち居振る舞いには僕自身の考えが反映されているような気がします。
美少女フィギュアを集める趣味はありませんが。
巷では神崎先生のモデルは「あの人」なのでは、と噂されていますが、断じて違いますので、くれぐれもその方にチクリメールなどを送りつけないようにご注意ください。

Q4. 合成化学界の「フェルマーの最終定理」と呼ばれるまでになっている天然物プランクスタリン。構造は興味深いですね。この構造に決めた理由を教えてください。

pla2.png
低分子で、なおかつ幾何学的に美しい、というのがコンセプトになっています。
本当はテトロドトキシンのように立体的にしたかったのですが、イマイチうまくいかなかったので、スピロ環で妥協しました。元になった構造は、Chem-Stationでも取り上げられていた『Palau’amine』です。
簡略化し過ぎたせいで、全合成のプロにとっては物足りなくなってしまったかもしれません。
(不安定すぎて分解してしまうのでは、という気もしますが……)
余談ですが、構造はフリーソフトである『ChemSketch』で描きました。
下側の環のNについたHの向きが気に入らなかったのですが、直し方が分からなかったので
結局そのままになってしまい、あまつさえ裏表紙にデカデカと描かれてしまいました……。

Q5.喜多さん自身の学生時代はいかがでしたか?

lovechem7.png
藤村くんのように天才的なヒラメキがあるわけではないので、地道に実験をしていました。
もちろん、M2で論文10報、などということもありません。むしろ、あまり結果が残せなかったので、卒業して八年が経った今でも、指導教官の先生に対して申し訳なく思っているくらいです。
え? 恋愛はどうだったか、ですか ええ、それはもうヒドイ有様でした。
<
div>理系恋愛論(*)みたいことを夜な夜な考えては、何とか精神の平衡を保っていました。
(*詳しくは、『ラブ・ケミストリー』のp82?84をご参照下さい)

Q6. 「ラブケミ」読者もしくは読みたいと思っている人に一言お願いします。

ラブ・ケミストリー

読み終わった方からは、とても読みやすかったというコメントをいただいています。
反応を待つ空き時間でサラっと読めると思いますので、未読の方は実験のお供にいかがでしょうか。
ウワサによれば、一冊持っておくと実験の成功率が上がるとか上がらないとか

Q7.今から次回作が大変期待されますが、もしかして再び化学者や化学が舞台のお話ですか(だとしたらうれしいです)

lovechem5.png
数学、物理、生物のエンターテイメント小説にはそれぞれ先駆者がいらっしゃいます。
しかし、今のところ、化学をメインテーマに据えている人は(たぶん)いないはずなので、
ちょっぴりニッチなこの分野に、ネタが枯渇するまで徹底的にこだわりたいと思っています。
というわけで、次回作ももちろん有機化学が出てきます。

次は化学が持つ力、すなわち、「え? そんなモノからそんなヤバいブツが作れるの?」
というネタで書くつもりです。おそらく、どこかに構造式(あるいは反応式)が登場するはずです。
ガチでまだ一行も書いてないので大きなことはとても言えませんが、年内に出せれば言う事なしです。

 

Q8.最後にケムステについてなにかいいたいことがあれば宜しくお願いします。

lovechem6.png
いつも楽しく拝見しています。特にこの「化学者のつぶやき」はほぼ毎日見ています。心のオアシスです。
時々、「このネタ、ネットで見たぞ!」と思う記事があり、一人でこっそりニヤついたりもしています。今後も、時事ネタ、マニアックなネタ、笑えるネタを適切に織り交ぜた、素敵なコンテンツを提供していってもらいたいと思います。

喜多さんインタビューにご協力いただきありがとうございました。化学コミュニティとしては、今後の喜多さん活動を応援していきたいと思っておりますので、これからも面白い化学を舞台にした小説を執筆していってくださいね!

関連書籍

[amazonjs asin=”4796688579″ locale=”JP” title=”ラブ・ケミストリー (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)”][amazonjs asin=”4800209692″ locale=”JP” title=”猫色ケミストリー (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)”][amazonjs asin=”B00ESZXLWW” locale=”JP” title=”化学探偵Mr.キュリー (中公文庫)”]
Avatar photo

webmaster

投稿者の記事一覧

Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

関連記事

  1. 研究のプロフェッショナルに囲まれて仕事をしたい 大学助教の願いを…
  2. 円偏光発光を切り替える色素ー暗号通信への応用に期待ー
  3. 可視光応答性光触媒を用いる高反応性アルキンの生成
  4. 室温固相反応で青色発光物質Cs₃Cu₂I₅の良質薄膜が生成とその…
  5. サッカーボール型タンパク質ナノ粒子TIP60の設計と構築
  6. 多置換ケトンエノラートを立体選択的につくる
  7. 脂質ナノ粒子によるDDS【Merck/Avanti Polar …
  8. 【11月開催】第3回 マツモトファインケミカル技術セミナー 有機…

注目情報

ピックアップ記事

  1. 有機合成のための新触媒反応101
  2. イミンを求核剤として反応させる触媒反応
  3. エイダ・ヨナス Ada E. Yonath
  4. Whitesides教授が語る「成果を伝えるための研究論文執筆法」
  5. 始まるPCB処理 利便性追求、重い代償
  6. 新しい構造を持つゼオライトの合成に成功!
  7. アルケンの実用的ペルフルオロアルキル化反応の開発
  8. 空気と光からアンモニアを合成
  9. 【書籍】研究者の仕事術~プロフェッショナル根性論~
  10. 多成分連結反応 Multicomponent Reaction (MCR)

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2011年3月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
28293031  

注目情報

最新記事

植物由来アルカロイドライブラリーから新たな不斉有機触媒の発見

第632回のスポットライトリサーチは、千葉大学大学院医学薬学府(中分子化学研究室)博士課程後期3年の…

MEDCHEM NEWS 33-4 号「創薬人育成事業の活動報告」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

第49回ケムステVシンポ「触媒との掛け算で拡張・多様化する化学」を開催します!

第49回ケムステVシンポの会告を致します。2年前(32回)・昨年(41回)に引き続き、今年も…

【日産化学】新卒採用情報(2026卒)

―研究で未来を創る。こんな世界にしたいと理想の姿を描き、実現のために必要なものをうみだす。…

硫黄と別れてもリンカーが束縛する!曲がったπ共役分子の構築

紫外光による脱硫反応を利用することで、本来は平面であるはずのペリレンビスイミド骨格を歪ませることに成…

有機合成化学協会誌2024年11月号:英文特集号

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2024年11月号がオンライン公開されています。…

小型でも妥協なし!幅広い化合物をサチレーションフリーのELSDで検出

UV吸収のない化合物を精製する際、一定量でフラクションをすべて収集し、TLCで呈色試…

第48回ケムステVシンポ「ペプチド創薬のフロントランナーズ」を開催します!

いよいよ本年もあと僅かとなって参りましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか。冬…

3つのラジカルを自由自在!アルケンのアリール–アルキル化反応

アルケンの位置選択的なアリール–アルキル化反応が報告された。ラジカルソーティングを用いた三種類のラジ…

【日産化学 26卒/Zoomウェビナー配信!】START your ChemiSTORY あなたの化学をさがす 研究職限定 キャリアマッチングLIVE

3日間で10領域の研究職社員がプレゼンテーション!日産化学の全研究領域を公開する、研…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP