[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

神秘的な海の魅力的アルカロイド

[スポンサーリンク]

沖縄の海には、鮮やかな色の珊瑚や魚が存在します。映像を眺めているだけで、神秘的な感覚に陥ります。実は沖縄の海の生き物等から単離される化合物もまた、神秘的であり合成化学者を魅了してやみません。

そのなかの一つがナカドマリンA (1)です。ナカドマリンA (1)は沖縄産の海綿から単離された天然物であり、マンザミン類と呼ばれるアルカロイド群の代表格です。構造上の特徴として、他のマンザミン類にはないフラン環の存在や、含窒素15員環、8員環を含む高度に縮合した6環性構造を有していることが挙げられます。ナカドマリンA (1)の興味深い構造は多くの合成化学者を惹き付け、既に数例の全合成が報告されております。

以前、この化学者のつぶやきでもマンザミン類の全合成を2つ紹介しました。(記事:(-)-ナカドマリンAの全合成; (+)-マンザミンAの全合成)今回は、最新のナカドマリンAの全合成について簡単に紹介します。

Total Synthesis of Nakadomarin A

Mark G. Nilson and Raymond L. Funk, Org. Lett., 2010, 12, 4912-4915

DOI: 10.1021/ol102079z

 

著者らは既にナカドマリンA (1)の合成研究を報告しており、ルイス酸を用いたエンカルバメート体2の分子内Michael付加と生じたN-アシリウムイオン 3が近接したフラン環にトラップされ、4環性化合物4を与える反応を報告しております。この戦略をさらに官能基化された基質に適用することで、ナカドマリンA (1)の全合成が達成できると考え本研究に着手しました。

naka chem1re.png図は論文より引用

 

以下に著者らの逆合成解析を示しました。即ち、ナカドマリンA (1)の8員環は4環性化合物5から誘導される化合物の閉環メタセシスで構築し、15員環は閉環アルキンメタセシスと生じたアルキンの還元により構築可能と考えました。5は、以前の合成研究で見出したエンカーバメート体7の連続的な分子内反応により合成し、7はアルデヒド体8とアミドエステル体9のE/Z制御の縮合で調整する計画を立案しました。

 

naka chem1.png

図は論文より引用

別途調製した89のE/Z制御による縮合で鍵反応の基質7を合成し、得られた7を塩化インジウムと処理すると、予期した通り連続的な分子内反応が進行し、一挙に高度に官能基化された4環性化合物5を与えました。続いて、脱炭酸を行い16へ誘導後、閉環アルキンメタセシスにより、15員環を構築し5環性化合物17を得ています。

 

naka chem 2.png

図は論文より引用

以後、17から (-)-ナカドマリンA (1)の全合成を達成しています。

魅力的な化合物が多数存在する沖縄の海。神秘的な海は化学者の視点から眺めたら、興味深い化合物群が織りなす芸術世界なのかもしれません。

 

関連書籍

[amazonjs asin=”B00WU6SAPE” locale=”JP” title=”Alkaloids: Chemistry, Biology, Ecology, and Applications”]

関連記事

  1. 【追悼企画】水銀そして甘み、ガンへー合成化学、創薬化学への展開ー…
  2. 音声入力でケムステ記事を書いてみた
  3. レーザー光で実現する新たな多結晶形成法
  4. 【第14回Vシンポ特別企画】講師紹介:酒田 陽子 先生
  5. 巧みに設計されたホウ素化合物と可視光からアルキルラジカルを発生さ…
  6. 窒素を挿入してペリレンビスイミドを曲げる〜曲面π共役分子の新設計…
  7. Dead Endを回避せよ!「全合成・極限からの一手」⑥
  8. 反応機構を書いてみよう!~電子の矢印講座・その1~

注目情報

ピックアップ記事

  1. 史跡 佐渡金山
  2. 名大・山本名誉教授に 「テトラへドロン賞」 有機化学分野で業績
  3. 【書籍】クロスカップリング反応 基礎と産業応用
  4. 第107回―「ソフトマター表面の物理化学」Jacob Klein教授
  5. DNAを切らずにゲノム編集-一塩基変換法の開発
  6. リチウムイオン電池の特許動向から見た今後の開発と展望【終了】
  7. “follow”は便利!
  8. ブルース・リプシュッツ Bruce H. Lipshutz
  9. 新規抗生物質となるか。Pleuromutilinsの収束的短工程合成
  10. ボリルメタン~メタンの触媒的ホウ素化反応

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2010年12月
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
2728293031  

注目情報

最新記事

大人気の超純水製造装置を組み立ててみた

化学・生物系の研究室に欠かせない超純水装置。その中でも最も知名度が高いのは、やはりメルクの Mill…

Carl Boschの人生 その11

Tshozoです。間が空きましたが前回の続きです。時系列が前後しますが窒素固定の開発を始めたころ、B…

PythonとChatGPTを活用するスペクトル解析実践ガイド

概要ケモメトリクスと機械学習によるスペクトル解析を、Pythonの使い方と数学の基礎から実践…

一塩基違いの DNA の迅速な単離: 対照実験がどのように Nature への出版につながったか

第645回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院工学系研究科相田研究室の龚浩 (Gong Hao…

アキラル色素分子にキラル光学特性を付与するミセルを開発

第644回のスポットライトリサーチは、東京科学大学 総合研究院 応用化学系 化学生命科学研究所 吉沢…

有機合成化学協会誌2025年2月号:C–H結合変換反応・脱炭酸・ベンゾジアゼピン系医薬品・ベンザイン・超分子ポリマー

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2025年2月号がオンライン公開されています。…

草津温泉の強酸性硫黄泉で痺れてきました【化学者が行く温泉巡りの旅】

臭い温泉に入りたい!  というわけで、硫黄系の温泉であり、日本でも最大の自然温泉湧出量を誇る草津温泉…

ディストニックラジカルによる多様なアンモニウム塩の合成法

第643回のスポットライトリサーチは、関西学院大学理工学研究科 村上研究室の木之下 拓海(きのした …

MEDCHEM NEWS 34-1 号「創薬を支える計測・検出技術の最前線」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

医薬品設計における三次元性指標(Fsp³)の再評価

近年、医薬品開発において候補分子の三次元構造が注目されてきました。特に、2009年に発表された論文「…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー