[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

大学院生のつぶやき:研究助成の採択率を考える

[スポンサーリンク]

natureダイジェスト日本語版12月号に、「研究助成金の申請は、こうして落とされる」という日本語記事が掲載されていました。(日本語記事はこちら、英文の元記事はこちら

研究助成がどのようなプロセスを経て決定されるのか、審査員へのインタビューも交えて述べられています。

先生の申請書もこんなに厳しく審査されて、それを突破したから今日の実験ができるんだなあ…と胸が熱くなる一方で、予算を獲得する厳しさに身が引き締まるような話となっています。学部生の方にも興味深いかと思います。英文で読むに越したことはないのですが、日本語に訳されているととっつきやすいですよね。

さて、この記事では、研究助成の採択率について興味深い話があり、いろいろ考えさせられました。日本の状況も含めて、少し考察してみたいと思います。

世界的な不景気が、研究予算や審査の過程に大きな影響を与えています。最近のNature Medicineにも、世界的な科学関連予算の減額がとりあげられています(こちら)。例えば、米国立衛生研究所(NIH)の研究助成においては、研究助成に使える予算が減少している一方で、申請件数の増加が続き、2009年は採択率が21%となっています(図1)。研究をいかに「採択するか」ではなく、いかに「落とすか」ということに審査員は頭を悩ませているようです。

2015-11-28_08-58-21
図1. NIHの研究助成申請件数と交付数の変化 (冒頭の日本語記事より引用)

採択率30%程度では、

審査過程はうまく機能し最高の科学研究を選び出すことができる

そうです。一方で、採択率20%以下では

同程度に価値のある複数の助成研究計画書からいずれかを選ぶという、不可能な選択を強いられている感じ

となるようで、採択率が低い状況での審査は

あら探しの場と化し、マイナス思考に包まれ、各委員は、申請案件の長所を取り上げるのではなく、交付金を出さないための言い訳を探すようになる

とまで述べられています。たった10%の違いでもその審査は厳しくなり、本来ならば支援したい研究でも落とさざるを得ない状況となるようです。

では、日本の研究助成金の採択率はどれほどでしょうか。データを見てみましょう(学振はこちら、科研費はこちらから引用)。

【学振】(平成22年度) DC…30%, PD…12%

【科研費】 (平成21年度) 基盤A…24%, 基盤B…25%, 基盤C…24%, 萌芽…12%, 若手A…19%, 若手B…28%

全体的に30~20%の間の採択率となっているものが多いようです。本文中で必要とされている採択率30%を達成できれば「落とされて」しまった研究も採択される可能性が出てくるのではないでしょうか(もちろん、以上の話は、日米の違いがあるため、採択率30%ならばよくて20%ならばダメ、といった単純な議論はできませんが)。

大学院生の筆者としては、学振のDC枠が気になるところですが、うまく機能するとされている30%の採択率となっています(平成23年度では採択率低下の見込みです)。一方で、学振PD枠の採択率の低さが目を引きます。PD枠に申請する方は、アカポスなどと併せて申請している場合も多いかとは思いますが、それでも、この採択率の低さは…厳しいですね。

最近行われた政策コンテストにおいて、学振PDおよび科研費若手ABの予算はC判定を受けました。これらの予算は減額される可能性が高く、平成23年度の採択率は一層低下することが見込まれます。既に採択率20%を割り込んでいる学振PDや若手Aが、さらに狭き門となることが予測されます。果たして、このような状況で優れた研究への十分な支援や若手研究者の育成が行えるのでしょうか?

科学関連予算も、不景気による財政危機の影響を受けない訳にはいきませんが、今回は採択率という面からこの問題を院生なりに考えてみました。学生・教員・企業など、様々な立場からの考え方があると思います。みなさんは、科学関連予算の減額、そしてこの採択率について、どうお考えでしょうか?

 

関連書籍

[amazonjs asin=”4758120595″ locale=”JP” title=”科研費獲得の方法とコツ 改訂第4版〜実例とポイントでわかる申請書の書き方と応募戦略”]
Avatar photo

suiga

投稿者の記事一覧

高分子合成と高分子合成の話題を中心にご紹介します。基礎研究・応用研究・商品開発それぞれの面白さをお伝えしていきたいです。

関連記事

  1. 金属ヒドリド水素原子移動(MHAT)を用いた四級炭素構築法
  2. リケジョ注目!ロレアル-ユネスコ女性科学者日本奨励賞-2013
  3. コンピューターが有機EL材料の逆項間交差の速度定数を予言!
  4. 第38回ケムステVシンポ「多様なキャリアに目を向ける:化学分野の…
  5. ケムステV年末ライブ2023を開催します!
  6. 兄貴達と化学物質+α
  7. 金属-金属結合をもつ二核ランタノイド錯体 -単分子磁石の記録を次…
  8. クラリベイト・アナリティクスが「引用栄誉賞2020」を発表!

注目情報

ピックアップ記事

  1. ウルリッヒ・ウィーズナー Ulrich Wiesner
  2. The Art of Problem Solving in Organic Chemistry
  3. Whitesides’ Group: Writing a paper
  4. 三菱化学、来年3月にナイロン原料の外販事業から撤退=事業環境悪化で
  5. 研究リーダーがPJを成功に導く秘訣
  6. 化学エンターテイメント小説第2弾!『猫色ケミストリー』 
  7. 自動車のスリ傷を高熱で自己修復する塗料
  8. 室温以上で金属化する高伝導オリゴマー型有機伝導体を開発 ―電子機能性を制御する新コンセプトによる有機電子デバイス開発の技術革新に期待―
  9. マテリアルズ・インフォマティクスにおける分子生成の基礎
  10. リッター反応 Ritter Reaction

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2010年12月
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
2728293031  

注目情報

最新記事

植物繊維を叩いてアンモニアをつくろう ~メカノケミカル窒素固定新合成法~

Tshozoです。今回また興味深い、農業や資源問題の解決の突破口になり得る窒素固定方法がNatu…

自己実現を模索した50代のキャリア選択。「やりたいこと」が年収を上回った瞬間

50歳前後は、会社員にとってキャリアの大きな節目となります。定年までの道筋を見据えて、現職に留まるべ…

イグノーベル賞2024振り返り

ノーベル賞も発表されており、イグノーベル賞の紹介は今更かもしれませんが紹介記事を作成しました。 …

亜鉛–ヒドリド種を持つ金属–有機構造体による高温での二酸化炭素回収

亜鉛–ヒドリド部位を持つ金属–有機構造体 (metal–organic frameworks; MO…

求人は増えているのになぜ?「転職先が決まらない人」に共通する行動パターンとは?

転職市場が活発に動いている中でも、なかなか転職先が決まらない人がいるのはなぜでしょう…

三脚型トリプチセン超分子足場を用いて一重項分裂を促進する配置へとペンタセンクロモフォアを集合化させることに成功

第634回のスポットライトリサーチは、 東京科学大学 物質理工学院(福島研究室)博士課程後期3年の福…

2024年の化学企業グローバル・トップ50

グローバル・トップ50をケムステニュースで取り上げるのは定番になっておりましたが、今年は忙しくて発表…

早稲田大学各務記念材料技術研究所「材研オープンセミナー」

早稲田大学各務記念材料技術研究所(以下材研)では、12月13日(金)に材研オープンセミナーを実施しま…

カーボンナノベルトを結晶溶媒で一直線に整列! – 超分子2層カーボンナノチューブの新しいボトムアップ合成へ –

第633回のスポットライトリサーチは、名古屋大学理学研究科有機化学グループで行われた成果で、井本 大…

第67回「1分子レベルの酵素活性を網羅的に解析し,疾患と関わる異常を見つける」小松徹 准教授

第67回目の研究者インタビューです! 今回は第49回ケムステVシンポ「触媒との掛け算で拡張・多様化す…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP