A Diarylethene Cocrystal that Converts Light into Mechanical Work
Morimoto, M.; Irie, M. J. Am. Chem. Soc. 2010, 132, 14172. doi: 10.1021/ja105356w
なにはともあれまずは動画を。
ペラペラな板のように見えるものは、とある化合物の結晶です。その上に、大きな金属球が乗っかっています。これに紫外光(UV)をあててやると、なんとみるみるうちに金属球が持ち上げられます。
この金属球は、なんと結晶自体の200倍~600倍もの重さ! もの凄い力が発揮されています。その値は実に44MPa、人間の筋力(およそ0.3MPa)のおよそ100倍以上もの力が生じている計算になります。
実はこれ、以前紹介した「光で変形する結晶」のグレードアップ版なのです。
結晶の中身は、ジアリールエテンおよびペルフルオロナフタレンと呼ばれる化合物を共結晶化させたもの。ジアリールエテンはいわゆる光駆動型分子の一種であり、紫外光/可視光の照射によって、閉環体と開環体の間を繰り返し行き来できる特性を持ちます。閉環体になると、分子の形状は横方向に短く、縦方向に長くなります。
結晶にUVを当てると、表面にある分子の構造だけが変化するため、下図のようにぐにょ~と曲がってくるという理屈です。光を遮ると曲がったままの状態がキープされ、可視光に晒すとまたもとに戻ります。
(図は論文より引用)
驚くべきことにこの結晶は、250回以上繰り返し照射しても壊れることがありません。なぜパッキングが崩れること無く、これほど多数の繰り返しに堪えるのか―著者らは、
①ジアリールエテンの変形度がそこまで大きくないこと
②共結晶たるペルフルオロナフタレンとの弱いπ-π相互作用
が、緩衝的機能も果たしている ということを理由として考察しています。
小さな結晶での実験なので、アクチュエータなどの実用に供するのはまだ難しいでしょうが、見た目も中身も魅力たっぷりな基礎研究の一つだと思います。
関連論文
- (a) Irie, M.; Kobatake, S.; Horiuchi, M. Science 2001, 291, 1769. DOI: 10.1126/science.291.5509.1769 (b) Kobatake, S.; Takami, S.; Muto, H.; Ishikawa, T.; Irie, M. Nature 2007, 446, 778. doi:10.1038/nature05669
関連リンク
- 色の変わる分子~クロミック分子 (有機って面白いよね!)
- アクチュエータ – Wikipedia
- ジアリールエテン – Wikipedia