さて、2010年ノーベル化学賞が決定してからはやいもので、もうすぐ1ヶ月半を過ぎようとしています。急激な歓喜の渦から落ち着きを取り戻し、メディアからも、様々な視点からノーベル化学賞の対象であるクロスカップリング反応を正しく解説する記事が増えてきました。そんな中、シー・エム・シー出版から「クロスカップリング反応 基礎と産業応用」という書籍が出版されました。出版社のご好意からいち早く手に入れることができましたので、内容を解説したいと思います。
この書籍は冒頭に記した2010年ノーベル化学賞受賞を記念して緊急出版されたものです。これまで、クロスカップリング反応に関わる研究者がそのなかのあるトピックについて書かれた総合論文(2006年ー2010年)をまとめ1冊の書籍にしたものであり、主要構成は以下の様になっております。
第1編 基礎編
鈴木-宮浦クロスカップリングの概要(鈴木章)
有機ボロン酸およびその誘導体合成の動向(村田美樹)
鈴木-宮浦クロスカップリング反応に用いられるホウ素類(E.R.Burkhard K.Matos,浦木史子)
薗頭反応,溝呂木・ヘック反応(森敦紀)第2編 産業応用
鈴木カップリング反応の最近の進歩(鈴木章)
ニッケル触媒鈴木-宮浦反応の開発(神川卓)
ピリジン環のリチオ化を経るピリジルホウ素化合物の製法とその反応(西田まゆみ)
(医薬品)Buchwald-Hartwigアミノ化反応(花崎保彰)
(中間体)Pd触媒を用いた実用的合成法(ヘック反応)の展開(窪田周平)
(有機エレクトロニクス)二金属反応剤のクロスカップリング反応(清水正毅,檜山爲次郎)第3編 クロスカップリングの新時代
新しいタイプの求核剤・求電子剤(中尾佳亮,檜山爲次郎)
含フッ素官能基導入法の検討(井上宗宣,荒木啓介)
マイクロ波合成によるカップリング反応(牧岡良和,田中正人)
フルオラスケミストリーとカップリング反応(松原浩,柳日馨)
リサイクル型固定化Pd触媒の開発(金田清臣,森浩亮 他)
鉄触媒クロスカップリング反応(清家弘史,中村正治)
鈴木カップリングを革新するボロン酸誘導体(山本靖典,宮浦憲夫)
序章のクロスカップリング反応の1つである檜山カップリング反応を開発した京都大学の檜山爲次郎教授のクロスカップリング反応解説に始まり、ノーベル賞受賞化学者である鈴木章北海道大学名誉教授による2つの総合論文が掲載されています。内容的に超最新結果とは言いがたいものの、鉄触媒クロスカップリング反応や、有機トリオールボレート塩を用いた鈴木ー宮浦クロスカップリング反応など最近のブレークスルーにも言及しています。
その他、鈴木ー宮浦クロスカップリング反応に用いられるホウ素化合物の種類とその違いや、カップリング反応の一つであるBuchwald-Hartwigカップリング反応の歴史とその変遷、マイクロ波やフルオラス溶媒という特殊な環境下を用いたカップリング反応など様々な観点からクロスカップリング反応を述べています。一章がすべて20ページ弱となっており読み物としてもよいでしょう。
なにより240ページ近くある専門書籍で2500円という破格の価格(1ページ=約10円)で発売されており、一言でいうと非常にお買い得であるといったところです。
筆者もカップリング反応を活用しており、改めて頭を整理する分にもなかなか役立つ書籍です。ひとつ欠点を言うならばもう少し「産業応用」の部分を充実させて頂きたかったと思います。もちろんクロスカップリングの「手法」は医薬品や有機材料などの産業界で広く用いられているものの、具体的な代表製品が筆者としては知っているものしかありませんでした。そういえば、この化学者のつぶやきでもクロスカップリング反応に関していくつかの観点で解説記事を公開していますが(関連記事参照)、その具体的な製品についてはお話していなかったので、知っている限りのものですが後々お話したいと思います。
絶対に買って損はないと思われますのでぜひ、購入してみてはいかがでしょうか?オススメです!