[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

乾燥剤の脱水能は?

[スポンサーリンク]

“Drying of Organic Solvents: Quantitative Evaluation of the Efficiency of Several Desiccants”
Williams, D. B. G. ; Lawton, M. J. Org. Chem.201075, 8341. DOI:10.1021/jo101589h

 

副反応の生成や正確な測定のために、溶媒中の水分の除去は欠かすことのできない操作の一つです。

モレキュラーシーブス・シリカ・アルミナなど、一般的な乾燥剤を用いて溶媒をどれほど乾燥できるのか、詳細な分析がJOCに報告されていたのでご紹介します。

この論文で分析されている溶媒は、THF・トルエン・ジクロロメタン・アセトニトリル・メタノール・エタノールです。

市販のHPLCグレードの溶媒を用い、乾燥前後の水分含有量をカール・フィッシャー法水分計で分析しています。カール・フィッシャー法とは、試料中の水1分子につきヨウ素1分子が消費されるカール・フィッシャー反応を利用したもので、ヨウ化物イオンの電気分解から生じたヨウ素が、試料中の水分を全て消費するために必要とした電気量から水分量を求めることができます。下記にTHFの例を示します。

 

THFと乾燥剤

THFと乾燥剤 (出典:上記論文より)

 

全体的な傾向としては、どの溶媒においても、3Aのモレキュラーシーブが高い脱水能を発揮しています

トルエン・ジクロロメタン・アセトニトリルでは、10% mass/volume (m/v)のモレキュラーシーブと24時間置いておくだけで、数百~数十ppmだった含水量を、数ppmレベルにまで脱水しています。THF・メタノール・エタノールなどの吸水性の高い溶媒では、より多くのモレキュラーシーブを使わなくてはならず、メタノールでは20% m/vのモレキュラーシーブと20時間反応させることで数ppmまでの脱水を達成しています。

エタノールと同じ条件では、THF・メタノールは数十ppmまでしか脱水されていません。THFはアルミナカラムに通すことで数ppm程度まで脱水できるようですが、メタノールはKOHやMg/I2などを用いても数ppmまでの脱水は達成されませんでした。

筆者はTHFをよく使うのですが、脱水剤としてナトリウム/ベンゾフェノンを用いて蒸留した場合でも、40 ppm程度の水分が含まれていたことは意外でした。

 

しかし、この報告はあくまで一般的な乾燥剤を用いた溶媒の脱水について検討したものであり、最後に筆者らが指摘しているように、THFのように過酸化物や安定剤を含む溶媒では、それらを除去するために蒸留やカラムといった操作が欠かせません。十分に乾燥させた乾燥剤を用いることも重要です(この論文では300℃で24時間乾燥させています)。

また、水分含量10 ppm以下の脱水溶媒が市販されていますし、より精密な脱水には還元銅とアルミナのカラムを用いるのも選択肢の一つです[1]。溶媒の特性・用途・グレードに合わせて適切な精製方法を選択したいものです。

 

 参考文献

  1. Pangborn, A. B. et al. Organometallics 1996, 15, 1518-1520. DOI: 10.1021/om9503712

関連書籍

[amazonjs asin=”0123821614″ locale=”JP” title=”Purification of Laboratory Chemicals, Seventh Edition”]

外部リンク

Avatar photo

suiga

投稿者の記事一覧

高分子合成と高分子合成の話題を中心にご紹介します。基礎研究・応用研究・商品開発それぞれの面白さをお伝えしていきたいです。

関連記事

  1. カチオン性三核Pd触媒でC–I結合選択的にカップリングする
  2. 危険ドラッグ:創薬化学の視点から
  3. シグマ アルドリッチ構造式カタログの機能がアップグレードしたらし…
  4. Mestre NovaでNMRを解析してみよう
  5. 国内初のナノボディ®製剤オゾラリズマブ
  6. NMRの基礎知識【測定・解析編】
  7. ナイトレンの求電子性を利用して中員環ラクタムを合成する
  8. 引っ張ると頑丈になる高分子ゲル:可逆な伸長誘起結晶化による強靭性…

注目情報

ピックアップ記事

  1. ノーベル化学賞田中さん 富山2大学の特任教授に
  2. 先端領域に携わりたいという秘めた思い。考えてもいなかったスタートアップに叶う場があった
  3. 第123回―「遺伝暗号を拡張して新しいタンパク質を作る」Nick Fisk教授
  4. 米ファイザーの第3・四半期決算は52%減益
  5. オカモトが過去最高益を記録
  6. 初めての減圧蒸留
  7. エリック・ソレンセン Eric J. Sorensen
  8. “腕に覚えあり”の若手諸君、「大津会議」を目指そう!
  9. 試験概要:知的財産管理技能検定
  10. 2005年7月分の気になる化学関連ニュース投票結果

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2010年11月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
2930  

注目情報

最新記事

大人気の超純水製造装置を組み立ててみた

化学・生物系の研究室に欠かせない超純水装置。その中でも最も知名度が高いのは、やはりメルクの Mill…

Carl Boschの人生 その11

Tshozoです。間が空きましたが前回の続きです。時系列が前後しますが窒素固定の開発を始めたころ、B…

PythonとChatGPTを活用するスペクトル解析実践ガイド

概要ケモメトリクスと機械学習によるスペクトル解析を、Pythonの使い方と数学の基礎から実践…

一塩基違いの DNA の迅速な単離: 対照実験がどのように Nature への出版につながったか

第645回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院工学系研究科相田研究室の龚浩 (Gong Hao…

アキラル色素分子にキラル光学特性を付与するミセルを開発

第644回のスポットライトリサーチは、東京科学大学 総合研究院 応用化学系 化学生命科学研究所 吉沢…

有機合成化学協会誌2025年2月号:C–H結合変換反応・脱炭酸・ベンゾジアゼピン系医薬品・ベンザイン・超分子ポリマー

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2025年2月号がオンライン公開されています。…

草津温泉の強酸性硫黄泉で痺れてきました【化学者が行く温泉巡りの旅】

臭い温泉に入りたい!  というわけで、硫黄系の温泉であり、日本でも最大の自然温泉湧出量を誇る草津温泉…

ディストニックラジカルによる多様なアンモニウム塩の合成法

第643回のスポットライトリサーチは、関西学院大学理工学研究科 村上研究室の木之下 拓海(きのした …

MEDCHEM NEWS 34-1 号「創薬を支える計測・検出技術の最前線」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

医薬品設計における三次元性指標(Fsp³)の再評価

近年、医薬品開発において候補分子の三次元構造が注目されてきました。特に、2009年に発表された論文「…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー