はやいものでもう11月も中旬ですね。もうすぐ年会で急いで良いデータを集めている方、ハワイに向かって一直線の方、科研費が終わって一息付いている方、ボーナスが待ち遠しく何を買おうか考えている方、博士論文の執筆でてんてこ舞いの方、様々でしょう。
そんな読者の皆様に、今冬注目の書籍3冊を紹介します。読書の冬とはいいませんが、是非購入して化学にどっぷりと使ってみませんか?
Enantioselective Chemical Synthesis
[amazonjs asin=”0615395155″ locale=”JP” title=”Enantioselective Chemical Synthesis: Methods, Logic, and Practice”]
先月発売された、現代有機化学の父とも言われるコーリーによって書き起こされた、不斉合成に関する書籍です。内容はこちらでサンプルが確認できますが(PDF。5MB以上あり少し重いです。)、まさにコーリーのコーリーによるコーリーのための本(あれ?それではだめか?)不斉合成の方法、ロジック、また天然物合成への応用まで”ほぼ”(全部ではないです)コーリーによって達成された内容が1冊の本になりました。
この書籍のすごいのは、 全330ページの内容がハードカバー、オールカラーで75ドルという安さ!(別途郵送費はかかります)ここに不斉合成とはなんたるかがみっちりと詰まっております。この安さが実現できるのは、おそらく出版社を通しておらず、独自の販売網で販売しているからでしょう。現に、amazonや書店では購入できず、特設サイトを通してのみ購入することができます。おそらく全世界の有機化学者やその卵に読んでもらいたいというはからいでしょう。いやそう思いたい!
さらに著者や構造式の見て気づいた方はいるかもしれませんが、そう、大好評で日本語版まで出版された、「Strategic Applications of Named Reactions in Organic Synthesis」の著者の一人が執筆者の一人なんです。この人研究はできないけど(ある筋からの情報)文才はある模様で、非常にうまくまとめています。
実際筆者も購入して(もちろん自腹)ようやく本日手元に来ました。輸送費がかなりかかり、特別便で購入したので日本円で1万円ほどでした。実は大変期待して購入したものの予想よりも若干異なり、残念ではありましたが、特にアメリカ国内なら75ドルは安いと思います。ぜひ手元に1冊置いておくことをオススメいたします。
C-H Activation (Topics in Current Chemistry)
[amazonjs asin=”3642123554″ locale=”JP” title=”C-H Activation (Topics in Current Chemistry)”]現在話題の炭素水素結合活性化反応に関する書籍。スクリプス研究所のJin-Quan Yu教授と北京大学の教授で最近Nature Chemistryに遷移金属触媒を用いないC-Hカップリング反応を報告したZhang-Jie Shiがエディターです。全384ページでこの分野で活躍する化学者たちが各章を執筆しています。非常に注目されている分野であり、よくまとまっていてTopics in current chemistryの名にぴったりですが、この書籍出版の目的はもうひとつ、昨年同時期に亡くなった、この分野のライジングスターであるオタワ大のKeith Fagnou教授への追悼という意味もあります。実際彼も1章を執筆しており、Fagnouのこの分野への貢献を見直す意味でも良い書籍であると思います。
Classics in Total Synthesis III: Further Targets, Strategies, Methods
[amazonjs asin=”3527329587″ locale=”JP” title=”Classics in Total Synthesis III: Further Targets, Strategies, Methods”]前回のClassics in Total Synthesis IIから約8年。待望の第三弾登場です!とはいっても12月末に発売であったはずが来年の2月まで延期。現在はAmazon等で予約販売中。著者自身も大学生協で既に予約しています。
Classics in Total Synthesis Iはいまから15年ほど前に発売されました。当時の学生であったEric Sorensenはいまではプリンストン大学の教授。IIへのつなぎである”1.5“を執筆したPhil Baranも現在スクリプス研究所の教授となっています。IIを執筆したScott Snyderは現在コロンビア大学で助教授。KC研究室に所属する学生でもトップクラスが執筆した過去の全合成を取り上げた名著です。合成化学者ならば1冊は所有していることでしょう。
今回の執筆者はNicolaou教授とJason S. Chen。実は筆者がスクリプス研究所に在籍時に彼が学生であったことから、話したことはありませんがよく知っています。専用の部屋を与えられてがんばって執筆していました。これまでの執筆者とは異なり、今後どうなるかはわかりませんが、かなりの実力者のようです。
さて今回収録される天然物はこちらです。ケムステでも紹介した化合物ばかりです。
Tetrodotoxin
Discodermolide
Azaspiracid-1
Thiostrepton
Pentacycloanammoxic Acid Methyl Ester
Littoralisone, Oseltamivir, and Hirsutellone B
Rubicordifolin and Rubicolin B
Cyanthiwigins U and F
Strephacidin B
Abyssomicin C and atrop-Abyssomicin C
Tetracycline
Bisanthraquinone Natural Products
Garsubellin A
Welwitindolinone A Isonitrile
Azadirachtin
Iejimalide B
Kedarcidin Chromophore and Maduropeptin Chromophore
Biyouyanagin A
Resveratrol-Based Natural Products
Chlorosulfolipid
Sporolide B
11,11′-Dideoxyverticillin A
Vannusal B
Haplophytine
Palau’amine
合成化学者ならばよく見慣れた化合物名が見られると思います。例えばテトロドトキシンはおそらくスタンフォード大学のJustin du Boisのものでしょう。もちろん元々はハーバード大の岸義人先生の全合成が基礎であり、du Boisと同時期に磯部、西川先生も全合成されているのでこちらも紹介されるかもしれません。Discodermolideも多数の人が合成され、医薬品の臨床試験の為に60gの大量合成がなされたことが昔報告されていました。Oseltamivirは日本でも福山、柴崎、林等が合成しているのでぜひ紹介して欲しいものです。Pentacycloanammoxic Acid Methyl EsterはCorey、Cyanthiwigins U and Fはおそらくカリフォルニア大学のBrian Stoltzのものでしょう。TetracyclineやKedarcidin ChromophoreはMyers、Garsubellin AはDanishefskyと柴崎先生か?11,11′-Dideoxyverticillin AはMovassaghiで、Haplophytineは福山先生、徳山先生ですか。Welwitindolinone A Isonitrile、Strephacidin B、Palau’amineはBaranですね。筆者が手がけた合成もあるのでちょっぴり楽しみです。
筆者も大学3年生の時にこれを購入して有機合成が好きになりました。大学生の皆さんもぜひ購入して読んでみると良いと思います。
というわけで、注目の3冊を紹介しましたが、有機合成化学者にとって本には困らない冬となりそうです。