例年ノーベル賞に先だって発表される「ノーベル賞のジョーク版」イグ・ノーベル賞。
授与対象となるのは、”first make people LAUGH, and then make them THINK”――すなわち、まず笑わせ、そして考えさせてくれる研究です。
ケムステでも2007年、2008年、2009年と取り上げてきましたが、毎度「この発想はなかった!」と唸らせてくれるチョイスばかり。個人的に、ノーベル賞なみに毎回楽しみにしている賞だったりします(笑)。
今年もその受賞者が発表されました。さてさて、気になる化学賞はいかに・・・・?
受賞者: 英国・石油会社BP受賞理由: 『油と水は混じらないという古い定説を否定した』
文字通り捉えると「な、なんだってー!!!」となるかも知れませんが、実はこれ、イグならではの痛快な風刺です。
背景をご存じない方のために一応説明を。
2010年4月、英石油大手のBP社がメキシコ湾に持つ石油掘削施設で爆発事故が起こり、海底油田から大量の石油が流出してしまうという悲惨な事態となりました。
これにより、生態系などへの被害を含めた各種自然破壊、原油価格上昇・株価下落などの経済的損害、外交的軋轢などなどが世界規模で引き起こされてしまいました。(参考:2010年メキシコ湾原油流出事故 – Wikipedia)
さらにはこういった事故のお約束通り、重油まみれの海鳥の写真などもセンセーショナルに報道され、この事故は世界中で非難の的となったのです。
・・・もうおわかりでしょう。イグ側はこの事故を大々的に取り上げて「あーあ、やっちまったな、オイ!(笑)」とからかってるわけです。
さすがにこの授賞は、当のBP側としては不名誉そのもの。授賞式には誰一人やって来なかったそうで・・・そしてこの事実がまたネタとなり、さらなる面白さを呼びこんで止まないという。いやぁ、よく出来ているなぁ(笑)。
もちろん各方面でひどいことになってるので、「考えさせてくれる」内容であることも間違いありません。
地球規模の問題を、ギャグにして笑い飛ばしてしまうという超一級のエスプリ、それを(笑)という表現をもって前向きに捉え直させようとする姿勢は、さすがイグ・ノーベル賞と言わざるを得ません。このセンスには全く脱帽です。
さて気になる日本人ですが、今年はなんと、はこだて未来大学の中垣俊之 教授らが、粘菌の研究によって二度目のイグ・ノーベル賞(交通計画賞)を受賞するという快挙を成し遂げています!(受賞対象となった論文はこちら)。
日本は世界の中でも、実はかなりのイグ・ノーベル賞授賞大国だったりします。毎年のように誰かが受賞しており、ジョークセンスに関してもかなりのポテンシャルを誇っている国であることが証明されています(笑)。(参考:イグノーベル賞日本人受賞者の一覧 )
確かにいかにもイグの香りがする研究は、ネットで見つかるだけでも相当な数あるようです。
たとえば最近の化学領域では「酒浸しにして超電導を達成」などが話題になりました。化学から離れると、「一般化『ぷよぷよ』のNP完全性の証明」「ポニーテールはなぜ揺れるかについての調査」「浴衣圧の研究 と着崩れと官能評価」などなど・・・はっきり言って常人には考えつかないハイレベルな着眼点の研究が盛りだくさん(笑)。(参考:一風変わった研究論文をまとめてみた )
もちろん実際に研究に取り組む方々は、至って大真面目(?)なんでしょうが・・・いやぁ世界は広い(笑)。
ところでこんな楽しいイグ・ノーベル賞、その創設の経緯はどんなものか、皆さんご存知でしょうか?
実は週刊ヤングジャンプの「栄光なき天才たち2010」にて、その逸話が漫画化されるに至っています。これは公式サイトのブログでも紹介され、PDF版も公開(前編・後編)されております。
イグ・ノーベル賞をもっと楽しみたい方は、是非一度ご覧になってみてはいかがでしょう?
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Improbable Research イグ・ノーベル賞公式サイト